流れの序盤
「ありがとうございました」
受付嬢は笑顔で手を振る。
見送られながら、部屋を出る。
「ふぅ」
武具屋とはまた違った、
お堅い雰囲気に緊張してしまった。
若干迷いながら、階段を下りる。
「アッ」
ある段を降りた瞬間、ギルドの喧騒が戻った。
そして桃子猫が、すぐ側で待ってくれていた。
「できタ?」
「ええ」
隅の方に二人で偏る。
「どんなステイタスだっタ?」
「MPと賢さが高かったですね。13と15で」
「魔法沢山使ったからかナ?」
「多分そうですね」
「私はネ、素早さ20で、防御力が30あった!」
「30」
内心かなり驚いた。
私の四倍程だ。
聞き耳を立てて居そうな近くの人間が、
こちらを見るくらいには高い数値なのだろう。
攻撃力と違い平均で算出するらしいので、
より盾の腕輪の硬さが際立つ。
「でも賢さとMPそんな高くなかっタ…」
「はは、私と反対ですね」
「へへへ」
そんなふうに会話は弾んだ。
私は今、桃子猫と会話している。
それはやはり、
あの桃子猫と会話していることになるだろうか。
桃子猫といる間、ずっと頭にチラついてくる。
これだけはもう避けようがない。
「あ」
こちらの様子を見計らって、
リザードマン達がやってきた。
『登録はもうお済みですか?』
「はい、もう二人共」
『では…』
「ええ」
クエストボードにあるクエストを吟味し、
余っている討伐系クエストから一種類ずつ剥ぎ取る。
そして列に並び受付嬢に許可を貰う。
「三角ウサギの討伐、でございますね」
「はい」
「お名前とご職業を」
「ラン、魔法使い」
「かしこまりました」
慣れた手つきで、紙に私の名前と職業を書く。
そして大きな判を構えた。
『バン!』
「受注完了いたしました。
紙は達成時にお返しください」
リザードマンと人間と獣人の一党が、
同時に踵を返した。
そして近くの円卓に集合する。
「どれから行きます?」
『三角ウサギや百足ヘビは、
比較的近くに生息しているので、
これらからの方が良いかと』
「倒したことあるんですか?」
『ええ、その時はこのゲームの仕様を
あまり理解していなかったので、
肉を剥ぎ取ったりはしませんでしたが』
「なるほど、なら順に巡るより手分けして、
狩りに行った方が良さそうですね」
『このホーンボアというモンスターは、
遭遇してませんね』
「ホーンボアなら、私達が倒したことがあるので、
私達が狩りに行きます」
『なんと、ありがとうございます』
「で、このブルーブルは、誰かご存知ないですか?」
手も上がらない。
「なら粗方のクエストが終わった後、
念の為五人で向かいましょう」
『了解しました。班の人数分けはどうしましょう?』
「私達二人を含む討伐班六人、
クエストの先取り班一人、肉屋待機班三人、
開店準備待機班二人…ですかね」
『妥当な数字ですな』
「ただ討伐班の人選は、
ある程度狩りに慣れた人材が欲しいですね」
『こちらで三人は整えられますが、
如何せん同志がまだ戻ってきませんので…』
「彼が一番得意なんですか」
『ええ…』
土壇場で買い出しを任されるくらいには、
信頼されているのだろう。
「まあ朝までは時間があるので、
割り当てを決めましょう」
『はい』
話を進めるにつれ、
リザードマン達の顔と名前が一致してくるようになる。
現状最も会話が多いリザードマンは、
八八という名前で赤褐色の鱗をしている。
それがわかった時、ギルドに淡い光が差し込まれた。
割り当ても決まった丁度いい時間だ。
「では…行きましょうか」
「ウン」
『ええ』
西部劇風の扉を抜け、朝日を浴びる。
『見つけたああああああ!!』
声がするほうを見ると、土煙を上げ牛を抱えた、
リザードマンがこちらに駆けてきた。
『お肉お届けに上がりましたああああああ!』
あのトカゲだ。
牛の角は青い。
『おお帰ってきたか同志!そしてこの牛は…』
『ああ、一番でかいやつを持ってきた』
「おそらく、ブルーブルですね」
『やや!あなたはあの時の!』
「ええそうです、
本当にいいタイミングできてくれましたね」
ブルーブルの討伐証である、青い角を剥ぎ取る。
「流れの序盤は、既にクリアしました」
最後までお読みいただきありがとうございますヽ(;▽;)ノ
こんな私にいいね、評価、ブックマークして下さりありがとうございます(;_;)




