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振り絞る力の結晶


「桃子猫さん!」

「GR!」


獅子巨人は一瞬で私の方を向き、そして残像となる。


「火球…ぶッ」


蹴られるのは、確定。

だからこそ吹っ飛ばされてもいいように、

火球矢を準備し耐える。

早さを求めて狙いをつけずに前方に放つ。

獅子巨人が突っ込んできてそれに当たり、

ものともせず今度は殴る。

本日三発目。

私の紙耐久では、もう次が限界だろう。

勝てないのか。

半ばこいつのためにここまで研鑽したのに、

まだ届かないのか。

死ぬ最後まで諦めはしないが…他に一体何がある?。

走馬灯のような猶予時間の中で何が見つけられる?。

霞む視界の中で正面を見据え、

それを見つけるのに苦労はしなかった。


『顕現しました』


今までで、一度だけ見たことがあるウィンドウ。

たしかこれを触ると…。


「ぎッ」


押した瞬間に蹴飛ばされる。

この光明を何とか逃さまいと、

薄れゆく意識の中で薬草を頬張り、

暗転を中断させる。


『大火球』


文字に対して、聞き覚えがある。

墳墓の主が使っていた魔法。

それが今ここで、顕現した。

ここで使わなければいつ使う。


「大火球」

『フ』


あの時見た魔法が、矢じりに静かに固着する。

人の頭の大きさを優に超え、

その光は砂漠で影を作る。

だが、それにさえも獅子巨人は怯まず足を向ける。


「GR…?」


もはや相打ち覚悟で引き絞った時、

獅子巨人が何かに引っかかった。

奴の足元で、黒い毛玉が足を掴んでいた。

ありがとございます、お姉様。

放つ。

全てを染める閃光、全てを壊す爆音、

全てを灼く爆風。

キノコ雲が上がり、舞った小石が降り注ぐ。

目が霞んできた。

最後の薬草を咀嚼する。

桃子猫は無事だろうか。

遺品があれば回収した『バキッ!』

何かが壊れる音と共に吹っ飛ばされる。

骨も何本か逝った。

地面を転がり終えた時、

手元にあった杖弓の先端が折れ弦が切れていた。

杖としての機能はまだ残っているだろうか。

折った張本人は、その左半身を黒く染めながら、

なお近づいてくる。

まだ生きるのか。

絶望を通り越して腹が立ってきた。

一発殴ってやらないと気が済まない。

お互いゆっくりと歩み寄る。

そして。


「大火球」


杖をあてがい右手に大火球をめり込ませる。

訓練場で編み出した、

自傷を考慮して使わなかった禁じ手。

意識が朦朧とする状態で、

確実に高いダメージをたたき出すなら

とかいうのはどうでもよくただ殴りたい。

おあつらえ向きに攻撃力は少し高いのだから、

発揮しなければ損だ。

やがて間合いの中に入り、構える。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「GRRRRRRRROOOOOOOOWW!!!」


一瞬だけ爆音が聞こえ、その後完全な無音となる。

鼓膜も逝ったか。

右腕の感覚もない。


「GRRR…」


いい加減にしてくれ…。

もはや左側が炭化したにもかかわらず、

獅子巨人は這いずりながらこちらに向かってくる。

こちらも似たようなものだ。

残った左腕で攻撃しようにも、

杖を持つ右手は壊れている。

蹴るような余力は無い。

できそうなのは。


『がぶ』


杖を咥えること。

試すような無駄打ちはもうできない。

間合いドンピシャで本番だ。

四足から二足へと進化した両者が、

ここにきて四足に還り眼前には敵。

仕組まれた情動か、或いは本能か。


「はいはひゅう」

『ボ』


詠唱に成功し、咥えた杖を力無く落とす。

力を左腕に集中。

振りかぶる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」



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