懐古の先触れ
『まさか、本当にやってのけるとは』
「エヘン」
自慢げに手を腰に当てている。
『おあつらえ向きに、
鉱石も掘りやすくなっているな』
火球を弾いた際に崩れた壁面から、
鉱石が露出していた。
火球で変形一つないとなると、
相当な硬度なのだろう。
『その竜の素材はどうするんだ?置いていくのか?』
「あー…荷物になるので一旦は置いていこうかと」
『だったら私が適当な物を取って帰ろう、後で渡す』
「いいんですか?」
『ああ、一部は貰うがね』
願ってもない申し出だ。
「お願いします」
『おう』
ドワーフは鉱石を掘り始めた。
改めて火竜を見つめる。
その目に生者の光はなく、
もう喉が明滅することも身動ぎすることもない。
倒れふした際に筋肉が弛緩したのか、
すっぽりと収まっていた後ろ足付近に
隙間ができている。
隙間を作るために策を弄さなくてもよかったようだ。
「では、行ってきます」
『橋の近くで待機して、
二人が来たら起動するんだよな?』
「そうです」
『分かった、頑張っておいで』
激励を背にして暗闇へと進む。
先程の諸事が既に懐かしくなるほどの静寂。
「ア」
桃子猫が突如止まり、何かに触れた。
同じものに触れ、思い出す。
桃子猫が開けた宝箱だ。
中身は愛用の盾の腕輪。
よくよく触ってみると、
イベント出でツルハシが
入っていた宝箱にそっくりだ。
「懐かしいネ」
「懐かしい…本当に」
出来事としてはほんの数日前なのに、
数年前のように感じる。
それほどまでに、最近は濃い時間を送っている。
この宝箱を感じて、自ずと目指す場所が増える。
目指すといっても前に進めば
勝手に着くような場所だが。
そう、こんな月明かりが
横凪に照らされた景色だった。
始まりの場所。




