保護者目線
正門。
「ところで、橋の場所はわかりますか?」
『ああ、ベータ版からある場所だから覚えている』
「なら説明はなしで、真っ直ぐ洞窟に向かいます」
『ああ』
荷物を置かせてくれそうな知り合いとして
頼ったものの、いざ同じ道を歩くとなると
会話が思いつかない。
『ところで、そこの猫の嬢ちゃんは
喋らないのかい?』
「ア…」
「彼女は事情があって、翻訳機能を切ってるんです」
『らしいね、でも中国のは話せるんだろう?』
「ウン、エット⋯」
二人の中国語による会話が始まったらしい。
また自分抜きの会話。
だが時折気になるやり取りがなされる。
『二人はどんな関係なんだ?』
『おっほほほ、数日で家まで知った仲だと』
『その家のベッドで一緒に寝てる!?』
どこまで話してるんですか。
『へぇ…ふぅん…』
明らかにドワーフがこちらを見る目が変わってきた。
『まあ、末永く…な』
保護者目線だこれ。
恥ずかしくて死にそう。
ところが話題が変わったのか、
ドワーフの目付きが真剣になった。
『ほう、家が…そりゃ大変だな』
『金持ちってのも楽じゃないんだな』
身の上でも話しているのだろうか。
「あっ着きましたよ」
リンゴの木に囲まれている洞窟。
しばらくぶりだ。
『では、私は一旦ここで待つから、
先に行っててくれ』
「はい」
「ウン」
洞窟の入口の縁に腰掛けるドワーフを尻目に、
中へと入る。
中はやはり暗黒だが、
既に手を繋いでいるので問題ない。
「懐かしいネ」
「ええ、まったく」
当時は右も左も分からない状況で、
桃子猫と手を取り合っていた。
人間性能SSRだとは思ってもみなかった。
なんなら中身は幼女くらいに考えていた気もする。
徐々に、二人の足音以外も聞こえてくる。
以前はこんな音を気にする余裕もなかったか、
あるいは起きた直後だから聞こえなかったのか。
いびきが聞こえる。
前に進むにつれ大きくなるそれは、
凱旋の讃歌か警告か。
やがて暗闇の中にほのかな明かりが見えはじめる。
その正体はやはり、ヒビの隙間から見える鉱石の光。
やや開けた空間、その中央に鎮座する赤燐。
緩慢に上下するそれは、
龍と呼ぶには少し抵抗感がある、
ずんぐりむっくりのサラマンダー。




