床食い
『ピンポーン』
本当に意識を保ったまま、時間が経った。
スマホも弄らない珍しい時間だった。
「ン…」
「出前、来たみたいです」
「ン」
桃子猫の体を横に流し、起きて玄関を開ける。
「出前の配達に来ました〜スペシャル天丼
お二つで合計二千二百九十円になります〜」
「はいわかりました〜」
相手の声が仕事モードだと、
こちらもそれに合わせてしまう。
桃子猫から貰った小銭も有効活用し、
現金をしっかり渡す。
レジ袋に入った丼と交換。
「ご利用ありがとうございました〜」
配達員はそそくさと去っていった。
玄関を閉め、リビングに持っていく。
「オ〜」
体を起こした桃子猫が、
ベッドから足を垂らしていた。
「えーと…」
しまった。
この家には食卓というものがない。
いつもパソコンのデスクで物を食べていた。
取り敢えず一旦そのデスクに置いて、
模様替えの是非を考える。
「床でもイイよ」
鶴の一声だった。
「いやでも、お客さんに床で食べてもらうのは…」
「イイのイイの、昔はよくそれで食べてたから」
貧乏時代の話か。
「なら…」
若干申し訳なく、そっとレジ袋を床に落とす。
「ヨーシ」
桃子猫が率先して品を並べる。
むしろ喜び勇んでいるようにも見える。
「久しぶりダナーこういうノ」
「そうなんですね…」
逆に私の方が、床で食べたことが無いな。
「ウホー」
フタを開けて丼の中身が御開帳。
サイトで見た通りの、大きなえび天に各種天ぷら。
ご飯が見えないな。
「イタダキマース!」
「いただきます…」




