いつもの別れ
薪が焦げて弾ける音。
それに油が落ちて蒸発する音。
談笑。
送還された地点は少し開けており、
火を使った催しには最適だった。
『うまーい!』
『ありがてぇ…ありがてぇ…』
皆嬉しそうに肉を齧っている。
出会った時のような暗さは消え失せていた。
着火の作業も一段落したところで、
桃子猫の隣に座る。
「懐かしいですね」
「ウン」
とは言っても、現実で言えば昨日の話なのだが。
各々、満足してはすぐ発っていった。
やがて人数はほとんど我々のみとなる。
『追加で来る人達も心配ですね』
「そうですね」
『書き置きでもしていきましょう』
八八は翡翠の剣を抜き、
先端を地面に突き立て描き始めた。
最初の使い方ガそれか。
『出来ました』
「ご自由にお使いクダサイ」
中国語を桃子猫が即座には翻訳してくれた。
火のついた焚き火と肉。
私達のように飢えて送還されても、
これらがあれば心持ちは違ってくるだろう。
『では』
「いきましょうか」
ラッツの子気味のいい話のおかげで、
長い道のりもすぐに歩き終えた。
『もう着いちゃったかー』
「本日はどうも、ありがとうございました」
「コザマシタ」
『いえいえこちらこそ』
門の前で、未だ立ち止まる。
何も言葉が出てこない。
『…我々は、今日はここで止めておきます』
「あ…分かりました」
結局言うことだった。
いつも八八に言わせてしまっていた。
『では、また』
「はい」
リザードマン一行は路地へ入っていく。
落ち着きを取り戻したが、
賑やかさは失ってしまった。
おもむろに、桃子猫の手を繋ぐ。
「…私達も行きましょうか」
「ウン」
どこへ行くとは言っていないが、
行先は決まっている。
いつもの広場。
そしていつものベンチ。
ただ桃子猫の雰囲気がいつもと違う。
真剣な眼差し。
「聞いテ」
「…はい」
「お姉様ってヨンデ」




