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【書籍化】塩系令嬢は糖度高めな青獅子に溺愛される  作者: 沙夜
本編

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伝え合い、繋がる想い1

騎士団が帰還した日、副団長さんと別れてシュタイン家に戻った私は、無事にリーンお兄様の帰りを迎えることができた。


色々な事後処理を終えて帰って来たリーンお兄様から熱烈な抱擁を受けたが、拒否することなく、黙って受け入れた。


ちょっぴりどころか、かなり痛かったけれど……。


リーンお兄様が無事に帰って来て、嬉しかったから。


ジークお兄様が『リーンだけずるいぞ!』と言って割り込んできたり、それを見て『仲良いねぇ』とお父様が傍観していたり。


その日は五日ぶりに、いつものシュタイン伯爵家の空気が流れていた。





次の日のお昼過ぎ。


陛下が特別に用意してくれた、私専用の王宮の厨房。


そこでお菓子を作っていた私の元に、鳥姿のゼンが現れた。


「え?副団長さんからですか?」


「ああ、逢引の誘いだ」


さらりととんでもないことを言うゼンに、私は手にしていたボウルを落としそうになる。


「な、ななな何言ってるんですか!?」


「男女がふたりきりで共に過ごすことをそう言うのだろう?何か間違っていたか?」


いや、間違ってはいないかもしれないけれど。


でも言い方というものがあると思うのだが。


……いや待って、ゼンは精霊だから、人間の感覚とは違うのかもしれない。


むしろ“逢引”という言葉自体、先程言っていたように、男女がふたりきりで過ごすこと以外、何の意味も含んでいないのではないだろうか。


そう思うとなんだか納得して、気持ちが落ち着いてきた。


「こほん。ええと、それで、副団長さんが私と話したいとおっしゃっているんですね?」


「ああ、そうだ。先日本当に話したかったことが何も伝えられなかったから、今度こそと主が言っていた。いつも何だかんだと邪魔が入ったからな。今日くらいは我が場を整えてやろう。主と、ゆっくりと話せると良いな」


前回は自分が邪魔をしてしまったからなと言うゼンは、どうやらあの夜のことを気にしていたらしい。


でも危機的状況だったのだから、仕方がない。


「……ありがとうございます。お願いします」


別れ際に、落ち着いたらもう一度ふたりで話がしたいと言ってくれたものね。


「ところでジゼル……今作っている菓子、我の分もあるのか?」


「あ、はい、もちろん。今日はお疲れの騎士団の皆さんに作る許可をもらったから。あと、どうしても欲しいって言うから陛下の分も。……それと、陛下の秘書官さんの分も作ったんです」


昨日陛下を迎えに来た時の目の下のクマ、濃すぎて忘れられない。


「その器の中のものは何だ?ふわふわだな」


「これですか?メレンゲです。今日はふわふわのシフォンケーキを作っています。三時頃には全部作り終えると思いますから、楽しみにしていて下さいね」


「分かった。仕上がったら我を呼ぶと良い。運ぶのを手伝おう」


そう言うとゼンはふわりと飛び上がり、消えてしまった。


「行っちゃった。ゼン、なんだかそっけない?」


昨日も副団長さんが呼ぶまで現れなかったし、すぐ消えちゃったよね。


「ジゼル様?」


うーんと首を傾げて理由を考えていると、討伐の時に一緒にお菓子を作ってくれた料理人さんのひとりが声をかけてくれて、我に返る。


足りない材料を取りに、厨房へとおつかいに行ってくれていたのだ。


あの日以来、ふたりの料理人さんがお菓子作り担当になった。


魔法を付与することはできないけれど、美味しいお菓子作りを学びたいと志願してくれて、少しずつ教えながら一緒に作っているところだ。


「あ、すみません。ありがとうございます。では、私と同じようにメレンゲを作ってみましょう」


ふたりにお礼を言い、新しいボウルに卵を割り、卵黄と卵白に分けていく。


「空気をしっかりと含ませるように、風魔法を上手く使って……。はい、とても良いと思います!」


ふたりともとても熱心で、無表情な私に対しても気さくに接してくれるので、とてもやりやすい。


順調に白味を帯びていく卵白を見つめながら先程のゼンの言葉を思い出していく。


やっと副団長さんとふたりきりで話せるんだ。


約束は今日の夕方。


それまでは、しっかりお菓子作りに集中しよう。


「わ、すごい、ふわふわになってきました!……あれ?ジゼル様、顔、赤くないですか?」


「え?そ、そそそそんなことありませんよ!?何でもありませんから、さあ次の工程に移りましょう!」


表情こそ変わらなかったものの、さすがの私も赤面を止めることはできなかったようで。


「えー怪しいなぁ。何か良いことでもあったんですか?」


「……秘密です」


料理人さん達にからかうように聞かれたのを否定するのも違う気がして、そう誤魔化すだけになってしまったのだ。






「少し、早かったかしら」


約束の時間の少し前、私は中庭に来ていた。


本当に話したかったこと、って、ひょっとして……。


私が副団長さんをどう思っているか。


副団長さんが私をどう思っているか。


そういう、話?


勝手にそう解釈して、私はドキドキしている。


そういえば、話が中途半端で終わってしまったあの夜は、副団長さんの昔の話を聞いていたのよね。


幼い頃、お父様の言葉と私の作ったお菓子に励まされていたって言っていた。


そんな頃から、知らず副団長さんと繋がりがあったのよね。


シュタイン家に訪ねに来てくれたのも、リーンお兄様に渡していたお菓子がきっかけだったし。


「お菓子が、私と副団長さんを繋げてくれているのね」


それが少し可笑しくて、くすりと笑みを零す。


口元に手を置いた時に、抱えていた包みがカサリと音を立てた。


副団長さんに渡したくて、仕事終わりに作ったもの。


「……もう一度、やり直しができると良いな」


パーティーがあったあの日、きちんと言葉にできなかった、私の想い。


あの時から私の気持ちは変わっていない。


ううん、もっと大きく育って、私の心の中の大部分を占めている。


「ジゼル嬢」


その時背後からかけられた、少し低めの、優しくて甘い声に、私は振り向いた。


急いで来てくれたのだろう、少し息を切らして駆け寄って来る。


ああ、やっぱりこの人を前にすると、胸がきゅうっと収縮する。


「すみません、お待たせしてしまいましたか?」


「……いえ。私も今来たところです」


早く会いたくて、急いで来てしまっただけなので。


そう心の中で呟きながら、目の前に立った副団長さんの顔を見上げる。


夕日に照らされた表情も、私を見つめる眼差しも、とても優しくて。


“好きです”


今日こそ、自分の口で、そう伝えたい。


腕の中の包みをぎゅっと抱き締めて、私は微笑みを浮かべた。

ラストまであと少しになります。

今日も夜にもう一話投稿できたらなと思っておりますので、よろしくお願いします。

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