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【書籍化】塩系令嬢は糖度高めな青獅子に溺愛される  作者: 沙夜
本編

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凱旋3

「――――という感じだな。お嬢ちゃんには感謝してもしきれないぜ」


「ほほう。報告で聞いてはいたが、やはりジゼル嬢の菓子の効果はかなり高かったのだな。それに、その“べっこうあめ”という菓子も気になる」


「しかも追加の回復効果付き菓子まで持たせてくれて。本当に助かりました」


「も、もう結構ですから……」


森でのことを話しながら団長さん、陛下、副団長さんが続けて私を褒めていくのが、ものすごく気恥ずかしい。


とはいえ、自分のお菓子が確かに騎士の皆さんを救ったのだと知ることができたのは嬉しくもある。


私があのべっこう飴に付与した魔法、それは物理攻撃、魔法攻撃、物理防御、魔法防御の四種類の上昇。


最初のビスコッティに付与していた“体が軽くなる”にしようかと思ったのだが、ゼンがアドバイスをくれたのだ。


騎士のパラメーターには個人差がある。


そして“体が軽くなる”というのは少々漠然としている。


だからしっかりとしたイメージが持てるその四つ全てを上げるよう魔法を付与しろ、と。


「ちょっとやそっとの上昇なら、あそこまで楽にはならなかっただろうな。全然違うって、すぐ分かったぞ」


「一度に四種類付与して、あれだけの効果。ジゼル嬢の魔力には目を見張るものがあります」


もう結構ですと言ったのに、団長さんと副団長さんは称賛の声を止めない。


まあでもそれが彼らを救ったのは間違いないのだから、私が耐えるべきなのだろう。


そうしてパラメーターが爆上がりした騎士の皆さんは、次々と魔物を倒していった。


SS級の魔物こそ、団長さんと副団長さん、リーンお兄様などの実力者を中心にして慎重に戦ったらしいけれど。


どうやらこのふたり、“双璧の獅子”を組ませて戦えば、百戦百勝と言われているくらいの強さらしく、今回はその上身体強化までかかっていたため、ものすごい戦いだったらしい。


「本当にお疲れ様でした。騎士団の皆さんのおかげです」


「いやだから、その中には君も入っているんだからね?」


サクサクとクッキーをつまみながら陛下が言った。


早い、もう残り僅かだわ。


「それにしてもこのクッキーも美味いな。お嬢ちゃん、どこで菓子作りを習ったんだ?あの“べっこうあめ”とやらも、今まで見たことない菓子だった。口の中で少しずつ溶かしながら食べる菓子なんて、よく思い付いたな」


それは前世の知識で〜と言えるわけもなく。


独学で……常識にとらわれないお菓子の発明が趣味なんです!と誤魔化しておいた。






「じゃあ俺もそろそろ行く。嬢ちゃん、またな」


「あっ、はい!お疲れのところ、わざわざありがとうございました」


「おう。ユリウス、ちゃんと送ってやれよ」


「分かっていますよ……」


しばらく和やかなお茶会が続き、時計を見て団長さんが立ち上がった。


そうよね、無事に帰ったと会いに行く人がいるのかもしれないし。


それなのに私なんかのところに一番に来て頂いて、申し訳なかったなと思いながら見送る。


ちなみに陛下はもうすでに執務に戻られた。


クッキーを食べ終えたくらいのタイミングで秘書官さんが現れ、半ば無理矢理陛下を連れて行ったのだ。


目の下にクマがあったし、あの陛下の秘書をしているのだもの、きっと大変なのだろう。


明日にでも疲労回復の効果をめいっぱい込めてお菓子を作り、彼に渡そうかしら。


そんなことを考えていると、ひょっこりと副団長さんが顔を覗いてきた。


「名残惜しいですが、私達もそろそろ行きましょうか?」


ち、近い!


久しぶりの至近距離に顔の温度が上がる。


落ち着け、私!


「そ、そうですね!……あ。あの、副団長さん。ゼンを呼んで頂いても良いでしょうか?お礼を言いたくて」


驚きの連続で忘れかけていたが、ゼンの姿をまだ見ていない。


今回もとてもお世話になったのだから、今日のうちにきちんと会ってお礼を伝えたい。


「ああ、分かりました。ゼン」


副団長さんが名前を呼ぶと、いつものように光が煌めき、ゼンが現れた。


「ゼン!ゼンも、お疲れ様でした。ゼンのおかげで私も何とか皆さんのお役に立つことができました」


「うむ、ジゼルも頑張ったな。まさかあのような菓子ができるとは、我も驚いたぞ」


ぜ、ゼンに褒められた……!


お菓子の味を褒められることは良くあるけれど、それ以外では初めてかもしれない。


「そ、そんな……。ゼンが色々教えて下さったおかげです。付与する魔法の内容や戦況を教えてくれて、とても助かりました。ありがとうございました」


じーんと胸が震えるのが分かる。


頑張りを褒められるのは、素直に嬉しい。


「ちょっと待って。ジゼル嬢、私が褒めた時と少し反応が違う気がするのですが……?」


そこへ戸惑いの表情を浮かべる副団長さんが入ってきた。


「え、ええっと……。副団長さんは、割と何でも褒めて下さるので、気恥ずかしくなってしまうというか……。ほら、ゼンはお世辞とか言わなさそうですし、自分にも人にも厳しいタイプなので、認めてもらえたようで嬉しかったといいますか……」


ごにょごにょと説明するが、副団長さんは俯いてしまった。


「くそ、呼ばなければ良かった……」


「主よ、器の小さい男は嫌われるぞ?」


何やら主従でぼそぼそ話しているが、ほとんど聞き取れない。


どうしたのだろうと首を傾げていると、ゼンがまたなと言って消えてしまった。


「あ……もう少し、きちんとお礼が言いたかったのに……」


「あいつは別の用事があるそうです。十分お礼は伝えていましたから、大丈夫ですよ」


突然副団長さんの機嫌が良くなったけれど……謎だわ。


考えても分からないので、もうそれは気にしないことにした。


「では、今度こそ行きましょうか。副団長さんもお疲れのところ、ありがとうございました。今日は、ゆっくり休んで下さいね」


「ありがとうございます。……ふたりきりで話せることがなかなかないので、名残惜しいですが」


最後の言葉に、胸がどきんと高鳴った。


「あ、明日も、王宮(ここ)で会えるかもしれませんよ?」


「そうですね。では、ゼンを遣いにやっても良いですか?ふたりきりで会って、話がしたい。今日はもう、帰って会いたい方がいるでしょうから」


副団長さんの穏やかな笑みに、リーンお兄様の顔が浮かんだ。


「……なぜ分かったのですか?」


「あなたは家族思いですからね。普段はあの兄弟からの愛が重くて迷惑そうな様子ですが、その中にはきちんと家族愛が見て取れます」


“家族思い”。


そんな風に、思ってくれていたんだ。


「……ありがとうございます。副団長さんのことも、ずっと心配していました。無事に帰って来てくれて、またこうして会えて、また明日と言うことができて、とても嬉しいです」


色々と知られてしまっていたのが恥ずかしくて、顔が少し赤くなっているかもしれないけれど、きちんと副団長さんの目を見て伝える。


「まいったな……」


勇気を出して心のままに伝えた私に、副団長さんは少し仰け反って掌で顔を覆った。


そうしてしばらくすると、少しぎこちなく、けれど優しい力強さで私を抱き締めた。


「ただいま帰りました、ジゼル嬢。あなたに会いたかったです」


温かい胸に抱かれながら、私は「おかえりなさい」と囁くのが精一杯だった――――。

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