お菓子の秘密6
* * *
「ユリウス!そっちに行ったぞ、大丈夫か!?」
「はい!今A級が一体片付いたので、大丈夫です!」
ゼンがジゼルの元へと戻った頃、騎士団は魔物との熾烈な戦いを繰り広げていた。
それもそのはず、魔物は最初の二体だけではなかった。
十五、二十近くいる。
しかもどれもこれもがB級以上の魔物。
いくら高難度の魔物と戦い慣れている騎士団といえども、苦戦を強いられていた。
「全員全回復しておいて良かったぜ!多少気付くのには遅れたが、それを差し引いても全員に菓子を食わせておいて良かったな!」
「そうですね。とにかくゼンが戻って来るのを待ちましょう。ジゼル嬢なら必ず、やり遂げてくれるはずです!」
「へっ、随分と信用してるんだな。女の相手はいつも上辺だけだったくせによ、っと!オラァ!」
戦いながら茶化してくるマティアスに、ユリウスはふっと笑みを零した。
確かに人付き合いもそつなくこなすユリウスだが、気を引こうとしてくる女性の相手は苦手だった。
上辺は紳士的に振る舞っていたが、嫌悪感にも似た気持ちを感じていたのだ。
「ジゼルに対しても、上辺だけで良かったんですけどね、っと!」
そのやり取りを聞いていたリーンハルトも、手を休めることはなくいつの間にか話に入ってきた。
「リーンハルト殿の言いたいことも分かりますが、副団長はちゃんとジゼル様のことを大切に思っていますよ、っと。そろそろ妹離れしてはどうですか?っ、やあっ!」
そこになぜかエリザも加わった。
「今この状況で話す内容じゃないでしょう!?特にエリザ、黙れ!余計なことを言わなくて良い!!」
四人が剣の動きを鈍らせることなく恋話をしていることに、他の騎士達は微妙な気持ちでいた。
しかしそれが余裕があるようにも見え、少し頼もしくもあるのだから不思議だ。
でも……と騎士達は魔物達の奥に悠然と佇む、一体の大型の魔物を見た。
グリフォン。
鷲の上半身と翼、それに獅子の下半身を持つ、非常に獰猛な肉食の魔物だ。
今は団長達も軽口を叩ける程度の余裕があるかもしれない。
でも、あいつが動いたら?
あの翼で自由に動き回り攻撃されたら、自分達はその鋭い牙の餌食になるかもしれない。
そんな恐怖感が騎士達の心の奥底に潜んでいた。
「おい、余計なことは考えるなよ」
騎士達の士気が下がろうとしていたその時、マティアスの落ち着いた声が響いた。
「回復効果付きの菓子がまだある。後方で、交代で食べろ。疲れているから悪いことばかり考えるんだ」
「「「はっ、はい!」」」
そうだ、今回は普段と違って疲労と体力を回復してくれる菓子がある。
そのことは、騎士達の心を強くさせた。
「……ユリウスお気に入りの嬢ちゃんに感謝だな」
「まだ早いですよ。まだ、ゼンが例のものを運んできます。無事に帰ったら、騎士団総出で感謝を伝えに行きましょうか」
「それは良いですね」
「ふん、当然だな」
マティアスの呟きをしっかり聞いていたユリウス、エリザ、リーンハルトはそれぞれに言葉を返す。
その後、女性騎士達も次々と賛成!と声を上げた。
心を掴まれたのはユリウスだけじゃねぇんだなと、マティアスは苦笑を漏らした。
ゼンが運んで来るはずだと信じているもの。
しかしそう短時間で作れはしないだろう。
だが、確かにそれがあればこの戦いはかなり楽になる。
(部下達にはああ言ったが……。正直この数を相手にしながらSS級のヤツまで動くと、死者ひとりも出さずに終えるのはキツイだろう)
そんな内心の危惧をおくびにも出さないマティアスだが、ユリウスやエリザ、リーンハルトは気付いていた。
だからこそ、自分達の力不足を補うために、ジゼルに頼んだのだ。
身体強化魔法を付与された、“口の中で食べ続けられるもの”を。
――――数十分前、ゼンはこう言った。
『飲み込んでしまうから効果が持続しないのだ。ずっと摂取し続けていれば、その間効果は続くだろう』
つまり、口の中に入れながら少しずつ食べられる“なにか”ならば、ジゼルの魔法の効果は長く続く。
そんなもの、ユリウス達には想像も付かない。
見たことも、食べたこともないから。
しかしジゼルなら。
見たことのない菓子を、まるで何度も作ってきたかのように生み出すジゼルならば。
そう思って、一縷の望みを託した。
「だからと言って、ジゼル嬢頼みでいてはいかんぞ!我々の実力のみで倒せることに越したことはないのだからな!」
「そうですね。ジゼル様に顔向けできないような戦いは致しません!」
「当然だ!勝って、ジゼルを驚かせるくらいでないとな!」
ユリウスの鼓舞に、エリザとリーンハルトも応える。
ギリギリの戦いの中ではあるが、騎士達の士気が上がった、その時。
「グ、グリフォンが飛んだぞ!」
大ボス、SS級のグリフォンがついに動いた。
魔物達の劣勢を感じ取ったか、もしくは騎士達の士気が上がったことを察したか。
ともかく大きな咆哮を上げて、飛び立ったのだ。
ついに動くかと騎士団全体に緊張が走った、その時。
「主!ジゼルからの菓子だ、受け取れ!!」
透明の容器に入った琥珀色の菓子を持って、ゼンが現れた。




