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【書籍化】塩系令嬢は糖度高めな青獅子に溺愛される  作者: 沙夜
本編

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お菓子の秘密4

「そうでしょう。それに、美味しいだけじゃありません」


「ん?……ちょっと待て。おいおい、こりゃ予想以上だな」


ビスコッティが喉元を過ぎてしばらく後、マティアスは自分の体力が最高値まで回復していくのを実感していた。


そしてそれに驚いたのは、ユリウスも同じだった。


「これは……!普段よりも回復量が多くなるかもと聞いてはいましたが、まさかこれほどとは……」


ジゼルからの説明で魔力を抑えずに作ってみると聞いてはいたが、ユリウスにとっても予想以上の効果だった。


「それに、美味しい。ああ、アイスティーも良く冷えている。一晩中馬を走らせ休む間もなく住民の避難、森の状況把握と目まぐるしく動いて疲れた体力が回復していくのが分かります」


「……おい、それは後から来た俺達へのここからはしっかり働けという嫌味か?」


体力オバケなのだからよろしくなという意図がしっかり伝わって、ユリウスは満足そうに微笑んだ。


普段書類仕事でこき使われているのだ、これくらい良いだろうと心の中で呟いた。


「何だこれ!?めちゃくちゃ美味い!」


「それに疲労が和らいでいきます……。これはジゼル様のお菓子ですね、さすがですわ」


周囲で休んでいる騎士達からもそんな声が聞こえてきた。


初めて口にする者からは驚きの声が、馴染みの客である女性騎士からは称賛の声が上がる。


「これは……!ジゼルの菓子か!?」


そして妹の菓子だと気付いたリーンハルトもまた、驚きの声を上げた。


「いつの間に……。いや、しかし相変わらず美味いな。しかも回復効果がいつもより高い。俺のことを心配して作ってくれたのか?さすがジゼルだ」


ひとり願望の世界に入ってしまったリーンハルトを、周りの騎士達は遠巻きに見る。


あいつも相変わらずだなとユリウスが思っていると、マティアスが不思議そうな顔をしているのに気が付いた。


「どうかしましたか?」


「いや……この菓子、効果は回復だけか?」


どうやらもうひとつの効果についても気付いたようだと、ユリウスはにっと笑った。


「体が、軽い。……ん?いや、気のせいか?元に戻ったぞ」


そのマティアスの発言に、ユリウスもはっとする。


確かに、先程まで感じていたはずの体の軽さが消えている。


ユリウスは魔力に敏感だ、間違えるはずがない。


確かにあの菓子には、体が軽くなる魔法が付与されていたはずだ。


「持続時間の問題だな……」


そこへ、ゼンのぼそりとした呟きが落ちた。


「主の思っている通り、確かにこの菓子には体が軽くなる身体強化の魔法が付与されている。しかし、効果はわりとあるものの、持続時間に問題があるな。話を聞いていると強化魔法を付与すること自体初めてなのだろうから、仕方がないが……」


そんな淡々と冷静に分析するゼンの言葉を、ユリウスはなるほどなと聞いていた。


(持続時間か……。それについては今後改良の余地がある。今は規格外の回復効果だけでもありがたく思わないと)


元々は自分達の力だけでやらなければいけなかったことだ、ジゼルのおかげで万全の状態で挑める。


そうユリウスはジゼルに感謝した。


「だが、菓子ひとつにあれもこれも頼らなくても良いと俺は思うぞ。元々は疲労困憊の中戦わなければいけなかったわけだしな。回復してくれただけでもありがたい、感謝しなければ」


マティアスが自分と同じことを考えてそう口にしたのを、ユリウスは目を見開いて聞く。


良い心掛けだと、ゼンもぶっきらぼうにだが言った。


「まあひとつ難点があるとしたら、この菓子は美味すぎる」


そんな時、マティアスが意外なことを言い出し、どういうことだとユリウスとゼンは眉を顰めた。


「しかも冷えっ冷えのアイスティー付き。こんな森の中で美味い菓子と一緒に出てきたら、そりゃ食いついちまうよな」


ジゼルが魔法を施して冷えた状態のまま保たれているアイスティーは、確かにこの高温多湿な森の中では騎士達に潤いを与えていた。


その上、回復効果のある美味い菓子も添えられている。


「団長、何が言いたいんですか?」


「んー?まあ考え過ぎかもしれねぇが、一応皆に注意をしとく必要があるってことだよ。おい、テメェら!いくら菓子が美味いからって、こんな森のド真ん中でリラックスすんじゃねぇぞ!!」


そう、マティアスが声を張った時。


「だっ、団長、副団長!大変です、魔物が……!!」


真っ青な顔色の騎士がひとり、マティアスとユリウスの前に飛び出してきた。


見張りにとマティアスが配置していた騎士だ。


「ちっ、遅かったか」


「皆、戦闘準備だ!」


そしてそんな騎士の報告に、素早く剣を抜いたふたりが魔物がやって来るであろう方向を向いて構えた。


気配からして、一体ではない。


「くそ、これは隊列を組むことなく戦うことになるな」


「やむを得ない。全員の体力がほぼ全回復されていて良かった。思い切り戦える」


ユリウスとそんなやり取りをすると、マティアスはにやっと笑った。


「“青獅子”、頼りにしてるぞ」


「団長こそ。SS級を何体も倒してきた“赤獅子”らしい活躍を楽しみにしています」


そしてまるで示し合わせたかのように同時に駆け出すと、他の騎士達も慌ててそれに続くように立ち上がった。


「え、A級の魔物が二体現れました!!」


その叫ぶような報告の声に、騎士達の緊張が高まった。


* * *

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