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【書籍化】塩系令嬢は糖度高めな青獅子に溺愛される  作者: 沙夜
本編

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お菓子の秘密1

次の日、私は国王陛下からの召喚命令を受け、お父様とともに王宮に来ていた。


「SS級魔物……」


「そう、ここから半日程かかる南の森に急に現れたらしくてね。バルヒェット副団長が先発隊を率いて昨夜出発、本隊は今朝出立したよ」


この世界の魔物は、その討伐難度でSSS級〜E級の八段階に分けられている。


SS級とはつまり、上から二番目の上級魔物。


討伐するのに千人では足りないと言われているくらい、危険な魔物だ。


そんな魔物が発生して、討伐命令が出たなんて……。


思っていた以上の悪い状況に、私は震えを止められずにいた。


あの後――――。


副団長さんはとりあえず私をシュタイン家に帰すようゼンに命令し、私は何も知らされることなく自室に戻ることとなった。


戸惑う私をゼンに引き渡し、副団長さんは別れ際に私の耳元でこう囁いた。


『落ち着いたら、もう一度ふたりで話をしたいのですが。……待っていてくれますか?』


切なげに微笑み、私の手を絡ませるように握って。


まだゼンからは何も聞いていなかったはずだが、なんとなく察していたのかもしれない。


自室に戻ったものの不安な夜を過ごし、ほとんど眠れないまま朝起きると、リーンお兄様が出立したとの知らせを受けた。


それから程なくして、私にも王宮に来るようにとの伝令が来たというわけだ。


「その、大丈夫なのでしょうか?」


「SS級だからな。正直言って、かなり苦しいと思う。赤青の獅子を揃えて出したから全滅はないだろうが、死傷者はいくらか出るだろう」


全滅。


ゲームくらいでしか耳にしたことのない言葉に、血の気が引いていくのが分かる。


「“赤獅子”、マティアス・リンデンベルク騎士団長。耳にしたことくらいはあるかな?」


「……すみません、お名前は存じ上げておりますが、呼び名までは」


「ああ、良い。まあとにかく、バルヒェット副団長と共に、我が国の騎士団の双璧と呼ばれていてね。真っ赤な髪と瞳から、“赤獅子”と呼ばれているんだ。彼は攻撃に特化していてね。SS級の魔物を何度も討伐しているから、安心してくれ」


そんな凄い方と一緒なのは、確かに心強い。


そんな方と同じくらい副団長さんは強いというし、リーンお兄様だって騎士団では指折りの実力者だ。


副団長さんと共に先発隊で出たエリザさんだって、優秀な騎士だと聞いている。


きっと大丈夫。


そう、思いたいけれど。


「……ジゼル、心配かい?」


震える私の手を、お父様がそっと握った。


「わ、私……。大丈夫だって言い聞かせているんですけど、震えが止まらないんです」


リーンお兄様、副団長さん、エリザさん、ゼン。


それに、いつも私のお菓子を注文してくれていた、騎士さん達。


「皆さんがお強いってこと、私もよく存じています。ですが、“絶対”はないということも、よく知っているのです」


ずっとお菓子を作って、パティスリーで働けたらと思っていた前世。


その終わりは、突然やって来た。


「うん、そうだね。当たり前のような日々に終りが来るのは、突然だったりする」


最愛の人を亡くしたお父様も、ぽつりとそう呟いた。


そう、どんなに強い人が揃っていても、絶対に大丈夫だとは言い切れないのだ。


「だからね、ジゼル。彼らのために、君の力を貸して欲しい」


「え……?」


私の手を包み込む両手に、力が込められた。


「ジゼル・シュタイン王宮専属菓子職人。さあ、初仕事だ」


威厳に満ちた陛下の声に、私はしっかりと耳を傾けたのだった。





「ジゼル様、粉類の計測、終わりました!」


「ありがとうございます、ふるいにかけておいて下さい。終わったら砂糖もお願いします」


「ジゼル様、ドライフルーツとナッツはどれくらい刻みますか?」


「細かすぎず、粗めにお願いします。ザクザクして食感も良くなりますので」


陛下から初仕事の内容を聞いた後、私はすぐに王宮の厨房へと走った。


はしたないと思われたかもしれないが、今は時間が惜しい。


「ジゼル様、予熱、完了しました」


「ありがとうございます。そのまま、オーブンの温度を保っておいて下さい」


そして私の周りには助手にと陛下が付けてくれた王宮の料理人達が三人。


私が役目を引き受けると見越していた陛下が先に話を通しておいてくれたため、非常にスムーズにお菓子作りを進めることが出来ている。


「なぜ僕まで……」


「リーンお兄様だって頑張って下さっているんですから、ジークお兄様もお願いします」


そしてジークお兄様もまた、助っ人として控えている。


私が陛下から賜った初仕事の内容は、“騎士達のためにお菓子を作る”こと。


いつもと変わらないじゃないかと思ったのだが、少し違った。


『話を聞くと、君は作る菓子に魔法を付与できるらしいね。以前近くの森で魔物討伐に出ていた騎士たちにも、体力回復・疲労回復の効果がある菓子を渡したとか』


陛下に討伐の時に食べやすいようにと作ったクッキーのことを話に出され、私ははっとした。


『ジゼル、君は今まで穏やかに暮らしたいと願うがために、その知識も、技術も、……魔力も、抑えていた。そうだろう?』


あえて穏やかに語るお父様の言葉に、ゆっくりと頷く。


魔力については分からない。


でも、()()()()の効果でと願って作っていたのは、間違いない。


『ならば、最大限に効果が出るよう祈ったら?そして、回復だけじゃない、強化の付与を願ったら、どうなる?』


陛下は、私のお菓子から特別な魔力を感じると言っていた。


回復魔法は稀に見る魔法だが、身体の強化の魔法など、聞いたことがない。


でも、もしできたら?


それは、騎士団のみんなの助けになることは、間違いない。


できないかもしれない。


でも、できるかもしれない。


「材料と道具の準備、完了しました」


「ありがとうございます。それでは混ぜていきます」


料理人さんからふるった粉の入ったボウルを受け取り、割りほぐした卵を入れていく。


やれるだけのことをやって、あの人達の役に立ちたい。


それが、私が自分で決めたことだから。

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