答え合わせをあなたと2
お、怒ってる!?
そしてゼン、私別にそういうつもりで言ったわけでは……!!
黒いオーラ全開の副団長さんに、あわあわする。
「……とりあえずもう移動は完了したんだ、離れろ」
副団長さんはため息をつくと、そっと私の前に手を差し出した。
そこに私の手を重ねると、優しく腰を抱かれて引き寄せられた。
「ほう、今度はジゼルを転ばせるようなことにはならんかったな、主」
「うるさい!少しその口を閉じていろ!」
にやにやするゼンに、副団長さんが怒る。
そういえば少し前に、ゼンが挑発して副団長さんが私の持っているお菓子の包みを引っ張り、バランスを崩してしまったことがあったっけ。
その時の副団長さんの申し訳なさそうな顔、今も覚えている。
「あの時はゼンが意地悪を言ったから……。お菓子好きな副団長さんが思わず焦ってしまったのは、仕方ありませんよ」
そう言って副団長さんをフォローすると、副団長さんが、いや……と歯切れの悪い声を出した。
「気にするなジゼル。なあに、人間の男のちっぽけな嫉妬も含まれていただけだ」
「もうだから黙れよ」
まあ、ゼンと副団長さんは本当に仲良しね。
口喧嘩をしているけれど、じゃれ合っているようにも見える。
でもひとつだけ。
ゼンの言葉の中の、“嫉妬”という単語が胸をくすぐる。
少しだけ副団長さんの頬が赤く染まっているように見えるのは、気のせいだろうか?
「ところで主よ、我とこんなことをしていて良いのか?せっかくジゼルを呼んだのに、時間の無駄だと思うが」
「そう思うなら気を利かせて早く消えろよ……」
すっかり敬語の抜けてしまった副団長さんが、ゼンをしっしっと手で追い払う。
「ジゼル、また後で来る」
「呼ぶまで出てくるなよ」
「あ、ありがとうございますゼン。後でお呼びします」
ちょっぴり冷たい副団長さんを宥め、終わったら迎えに来ると言ってくれたゼンにお礼を言うと、いつものように消えてしまった。
ふたりきりになってしまい少しこそばゆい気持ちになったが、まずはお父様との話し合いがどうなったのかと聞かれたため、偶然部屋にいた陛下と話すことになり、結局王宮専属菓子職人の任を受けることにしたのだと伝えていく。
「はぁ……まさかそんなことになっていたとは。ですが、本当に良かったのですか?」
「はい。もう、自分の中でも気持ちが固まりましたので」
まだ副団長さんは申し訳なさそうにしているが、自分でちゃんと決めたことだ。
恐ろしいことだが、前世から合わせればもう四十年以上生きている、立派な大人だ。
自分の言葉や決めたことには、きちんと責任を取らなくては。
「……分かりました。もうこのことについては確認しないことにします。それにしても、ジゼル嬢は陛下に随分と気に入られたみたいですね」
「そう、でしょうか。」
自分ではよく分からないが、陛下は不愉快そうではなかった。
「陛下はなかなかの狸ですからね。あまり信用しすぎないようにして下さい」
引きこもり生活の長い私には、駆け引きとかそういう貴族社会特有の黒い部分には上手く対応できない。
そういうことにも警戒して、少しずつ覚えていかないといけないかもしれない。
「が、頑張ります」
「まあそういう純粋なところがあなたの良いところなのですが……。私は好きですよ」
す、好きって言った!?
いやいや深い意味はないかもしれない、ただ単に世間知らずな私をフォローしてくれただけかもしれないし!
内心の動揺を抑えて、話題を変えることにする。
「ええと、今更ですけど、たくさん花が咲いていて、素敵なところですね!ところでここは……?」
本当に今更な質問をしてしまったが、副団長さんは不思議に思うこともなく、さらりと返事をしてくれた。
「ああ、王宮の中庭です。こんな時間に誰も来ないでしょうから、安心して下さい。……いつもあなたに贈る花は、ここで摘んでいました」
私に贈る花、って……。
副団長さんにお菓子を作るようになったはじめの頃、御礼状とともに一輪の花が添えられていた。
そうか、あれはここで摘んでいたのか。
「……というか、副団長さんが手ずから摘んで下さっていたのですね」
「勿論です。あなたへの贈り物を他人に任せるつもりはありません」
こ、この人はまた……!
せっかく話題を変えたのに!!
無自覚に甘いことばかり言う副団長さんだが、本人にその自覚がないのか涼しい顔をしている。
「ここは、私にとって特別な場所なんです。幼い頃くさっていた私を救ってくれた人と出会った、大切な思い出の場所」
そう言うと副団長さんは、懐かしい思い出を探すような遠い目をした。
薄暗いけれど、月明かりに照らされたその顔は、とても綺麗だと思った。
「……小さい頃の副団長さん、きっとかわいらしかったんでしょうね」
「いえ、全く。捻くれたクソガキでしたよ」
副団長さんの口から“クソガキ”なんて単語が出てくるなんて。
驚いてぽかんと口を開けると、くすくすと笑われた。
「そんなクソガキも、こうしてなんとか大人になることができました。……あなたの、お父上のおかげなんです」
「お父様の?」
予想もつかなかった人の名前を出され、さらに驚く。
それにまた声を上げて笑う副団長さんは、普段よりちょっぴり幼く見えた。
そして、ゆっくりとこの場所での思い出を語ってくれたのだった。
「……そんなことがあったのですね。知りませんでした」
副団長さんの話を聞き終えた私は、色んなことに合点がいった。
初めて会った時に、マドレーヌを“懐かしい味”と言っていたのは、このことだったのか。
リーンお兄様からひったくるくらい執着したのも、思い出のお菓子だと気付いたから。
それに、お父様も副団長さんと面識があるみたいだったものね。
しかもその時のことをお父様も覚えていて、先日この場所でそんな会話をしていたとは……。
「不思議な気持ちです。そんな昔から、副団長さんと接点があったなんて」
「あなたの菓子のおかげですっかり甘党になってしまいました。責任……はとってもらっていますね。毎日頂いている菓子、とても美味しいです」
ふふっと副団長さんが笑った。
ふたり並んでベンチに座り、思い出を語る。
こんな穏やかな時間が、とても心地良い。
「そういえば、初めてお会いした時に『思い出して下さいましたか?』って聞きましたよね?あれはどういう意味なんですか?」
なんとなく思い出したことを口にすると、副団長さんが目を見開いた。
「――――それは、」
「すまない主、緊急事態だ」
副団長さんが何かを言おうとした時、突然ゼンが現れた。
その鬼気迫る声に、私達ふたりは息を呑んだ。
明日はいつも通り朝に投稿できると思います!
よろしくお願いします(*^^*)




