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【書籍化】塩系令嬢は糖度高めな青獅子に溺愛される  作者: 沙夜
本編

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王宮からの要請2

「やあ、君がジゼル嬢だね。まさかこんなに早く会えるとは思ってもみなかったよ。これも何かの縁だ、是非よろしく頼むよ」


「あの、ええと……。ジゼル・シュタインと申します。よろしくお願い致します……」


なぜこんなことに。


私はそんなことを考えながら、死んだ魚のような目をして挨拶を交わした。





副団長さんの執務室の前でしばらく座り込み、気持ちが落ち着いた後、私は魔法を使ってジークお兄様と通信をした。


お父様の執務室が分からなかったから。


こんなことに今気付くなんて……。


仕事中に申し訳ないとも思ったが、下手にうろつくこともできなかったので許してほしい。


一応シュタイン家から移動することは通信でジークお兄様に伝えていたため、すぐに事情を汲んで助けてくれたのだ。


「僕が直接案内しよう!」と無茶を言うのを断り、魔法で案内してもらった。


小さな浮遊する光の後を追いかけて行くだけで良かったので迷うこともなかったのだが、途中で何人かの男性に迷子ですか?だの、案内してあげるだの言われ、断るのが大変だった。


そうやってなんとかお父様の執務室に辿り着くと、なぜか疲れた顔のお父様が出迎えてくれた。


その疲れている理由がこの方、国王陛下だったのだ。


「いやあ、三年前のデビュタントの時も綺麗なご令嬢だなと思ったが、ますます美貌に磨きがかかったね」


「恐縮です……」


扉を開けて私の姿を見た途端、お父様が今は入らない方が良い!と言った意味が良く分かる。


なぜ?と首を傾げたところで陛下が私を中にひっぱり込んだのだ。


丁度お父様と私の話をしていたのだという。


「昨日のパーティーの評判を聞いたよ。私も出席すれば良かった。噂の菓子を食べそこねてしまった」


いやいや、お兄様達には申し訳ないけれど、たかだか伯爵家の誕生パーティーに、普通国王陛下がいちいち出席しないでしょ。


「君のことと菓子のことをシュタイン伯爵に聞きたくてね。抜け出してきちゃったんだ」


きちゃったんだ、って……。


そんな軽い感じで言って良いことなのかしら。


……お父様が眉間に皺を寄せてため息をついている。


デビュタントの時はさすが立派な方だなという印象だったけれど、これが素の姿なのかしら。


四十代半ばには見えない若々しく精悍な顔つき。


国王らしい図々し……いや、堂々とした振る舞い。


馴れ馴れ……いやいや、親しみやすい雰囲気に、ズケズケ……こほん、言いたいことをハッキリと伝える性分。


……正直、苦手なタイプだわ。


久しぶりに私の顔は心からの無表情になっていることだろう。


「はは、なるほど“塩系令嬢”ね。本当に表情が変わらないんだ?」


国王陛下相手に無礼だと言われるかもしれないが、“塩系令嬢”と呼ばれ、無表情が常だと思われているのは幸いだった。


陛下はしばらく私をじろじろと見ると、徐ろにお茶の入ったカップを手に取った。


「まあ良い。そういえば私がここにいることを知っていたのかい?だとしたら、こうして会いに来てくれたということは、私の要請に応えてくれると判断しても良いのかな?」


そしてにっこりと笑い、カップの中のお茶をあおった。


うわ、この人、多少強引にしてでも自分の意志を通そうとする人だ……。


ますます引き気味でその様子を眺めていると、さすがにと思ったのかお父様が口を出してきた。


「陛下!娘に強要するようなことはしないとおっしゃったじゃないですか!」


「ああ、すまんすまん。あまりにかわいらしいのでつい、な」


へらりと笑う陛下に、お父様が抗議をする。


お父様、頑張って……!


切実な思いでふたりを見ていると、不意に陛下が私に視線を戻した。


「冗談はここまでにして。それで、どうだ?“王宮専属菓子職人”。新しい役職になるが、是非引き受けてほしいと思っている」


急に、空気が変わった。


無礼を承知で言えば、今まではどこかへらへらとした雰囲気の陛下だったが、目つきが変わり、為政者らしい威圧感を感じる。


引きこもりの小娘なんかが太刀打ちできる相手じゃない。


「……私のお菓子に目をかけて下さったこと、大変光栄に存じます。とても嬉しく思っております」


小細工や駆け引きは不要。


経験値が違うもの、どう考えても負ける。


それならば。


「……ひとつ、いえふたつ、質問してもよろしいでしょうか」


「構わんよ」


「なぜ、陛下は私などにそのような役を任せようと思われたのですか?私に求める成果は、どのようなものなのでしょう」


素直に、心のままに話をするしかない。


今回の話、私だってただ目新しいお菓子とその味を評価されただけだとは考えていない。


「……ただ美味しい菓子を食べたい、それだけじゃないと思っているのかい?」


「違うのですか?それならば私の作る菓子だけを望めば良いことです。わざわざ“王宮専属菓子職人”などという新しい役職にまで就けようとするのは、理由があるはずです」


陛下直々にとの話だし、何か理由があると考えるのが自然だ。


「ご明察。君、伯爵家に引きこもっていたとは思えないね」 


陛下は面白いものを見つけたというかのように、片眉を上げて笑った。


「……世間知らずではありますが、そこまで浅慮ではないつもりです」


菓子に目をかけてもらえて嬉しかったのは事実だ。


けれど、手放しで喜べないのも事実。


国王陛下直々の要請、恐らく断ることはできない。


それを分かっているから、副団長さんもあんなに心配して、責任を感じてくれたのだろう。


でも、きちんと話は聞いておきたい。


真っ直ぐに陛下を見つめて返答を待つ。


しばらく無言で互いに見つめ合っていたのだが、先に陛下が表情を崩した。


「そうだね……まずひとつ目は、王宮に勤める者達の作業効率を上げることかな。君、お菓子に魔法を付与できるらしいね?体力回復や疲労回復、うってつけだろう?」


たしかにその点では女性騎士さん達からも高評価を受けていると副団長さんやエリザさんから聞いている。


王宮に勤める=激務、というイメージもあるし、微々たるものかもしれないが、作業効率を上げるのに私のお菓子は適しているという陛下の考えには同意できる。

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