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【書籍化】塩系令嬢は糖度高めな青獅子に溺愛される  作者: 沙夜
本編

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あなたに近付きたくて4

「ど、どうしました?あ、すみません、私こそ変なことを言ってしまって……」


一方的にベラベラとしゃべりすぎてしまった。


気がはやって、副団長さんのことも考えずに捲し立ててしまった気がする。


ああ、普段は上手くしゃべれないくせに、なんでこういう時だけ……!


自分で自分に呆れてしまう。


「ち、違うんです!」


あわあわとひとりで慌てふためいていると、副団長さんが焦ったようにそう言って否定した。


「そうじゃなくて、その、嬉しくて、どう反応して良いのか分からなくて……。ああくそ、俺も何を言っているのか分からなくなってきた」


すると再び副団長さんは頭を抱えてしまった。


耳まで真っ赤だ。


そこでなんとなく、副団長さんに触れたい衝動に駆られて、ソファから立ち上がった。


私よりも大人の男性なのに、かわいいなんて思うのは変だなって、以前も思ったっけ。


でも、今なら分かる。


好きな人のことが愛しいって意味だったんだって。


そっと副団長さんの横にしゃがみ、下から覗き込むようにして口を開く。


「顔、上げてくれませんか?」


「……今、情けない顔をしているのでちょっと……」


「それでも。副団長さんの顔が見たいです」


私の言葉に、副団長さんがゆるゆると顔を上げてくれた。


まだ顔は赤い。


それに、こんな表情、初めて見る。


私を意識してくれたみたいで嬉しくて、そっとその手を取って私の両手で包み込む。


温かくて、大きな手。


剣を持つからだろう、少しゴツゴツするけれど、優しい手だ。


無意識に指を絡めて、頬に寄せる。


アップルパイは後で渡せば良い。


告白(言う)なら今だ。


「私、あなたのことが――――」


「ちょっと待って下さいジゼル嬢!このシチュエーションでその表情と仕草でこの視界は、目に毒すぎて私には無理です!!」


突然私の言葉を遮り顔を背けた副団長さんに、私は呆気にとられた。


……視界?


そこで少しだけ目線を下に向けると、普段よりも胸元の浅いドレスから、胸の谷間が覗いていた。


「きっ、きゃあああああ!!!!」


「待って下さいジゼル嬢!叫んだら……」


副団長さんがみなまでいう前に、応接室の扉が乱暴に開かれた。


「ジゼル!?どうした!!?」


「ジゼル!この、くそ野郎!ジゼルに何をした!?」


狼狽える私の声を聞いて、すぐにお兄様達が飛び込んできてしまった。


そして胸元を隠して涙目になる私を見て、副団長さんにものすごい殺気を飛ばした。


「ちょ、ちょっと待てリーンハルト!私は何もしていない!ジークハルト殿も!その右手の魔力を収めてくれ!」


焦る副団長さん、そしてお兄様達のうしろから、もうひとつの影が現れた。


「バルヒェット副団長?これは何事かな?」


お父様だ。


お父様……のはずだけれど、見たこともないくらい怖い笑顔で、真っ黒なオーラを放っている。


「私はジゼルと話をすることは許可したが、手を出すことは許可していないのだが?」


「ちょ、ご、誤解です!剣から手を放して下さい!」


副団長さんを切り捨てる勢いのお父様を慌てて止め、私は怒り狂う三人をなんとか宥めるのであった――――。






「今日も結局ご迷惑をおかけしてしまって……。申し訳ありませんでした」


「い、いや。私も悪かったから、気にしないで下さい」


私が粗相をして叫んでしまっただけだと説明して、三人は渋々ながらも殺気を収めてくれた。


そしてパーティー会場になんとか戻すことに成功した。


それにしても、あの三人のあんな顔、初めて見た……。


説得できなかったら副団長さんはどうなっていただろう。


恐ろしすぎて想像もつかない。


「あの、お詫びと言ってはなんですが……。副団長さんにお渡ししたいものがありまして。自室からすぐに取ってきますので、少しだけお待ち頂けますか?」


「ああ、それならば一緒に行きましょう。私はそのまま失礼します。……これ以上は理性が保たない気がしますので」


「はい?ごめんなさい、最後の方、聞き取れなくて……」


「なんでもありません。さあ、行きましょう」


聞き返したのだが、そうさらりと躱されてしまったので、大したことじゃなかったのかなと気にしないことにした。


これでお別れかと思うと少し寂しい気もしたが、お菓子の作り手だと公言したのだ、これからも会う機会はあるだろうと思い直す。


パーティーの喧騒が遠くから聞こえる中、廊下をふたり並んで歩く。


シュタイン家の中をこうして隣り合って歩けるのが、なんだか嬉しい。


なんでもない話をしながら私の部屋に着くと、ひとりで中に入り、アップルパイの入った包みを持って扉の所まで戻る。


「副団長さんのために、心を込めて作りました。お口に合うと良いのですが」


おずおずと包みを前に出せば、しっかりと受け取ってくれた。


先程は結局言えずじまいだった私の気持ち、せめてこれだけはきちんと伝えたい。


「私、副団長さんのこと、感謝こそすれ、嫌いになんてなりません。絶対です。先程のお話も、とても嬉しかったです」


好きです、とまで言えれば良かったのだが……。


包みの中のアップルパイに想いを託すことにした。


「今日は、ありがとうございました。そして、明日からもよろしくお願い致します」


そう笑顔でお礼を言う。


なんとなくだが、自然に笑えた気がする。


「こちらこそ、よろしくお願い致します。……ああもう、あなたは、いつも私の心を掻き乱す……」


そう言って髪をかき上げた後、副団長さんは私の目をしっかりと見つめ、それから耳元で囁いた。


「私としたことが、お伝えするのが遅くなってしまいました。……今日のジゼル嬢は、本当に美しい。まるで女神のようだと思いました」


その声に、少しだけ熱が籠もっているような気がして。


ぴくっと少しだけ肩が跳ねた。


「これ、ありがたく頂きます。……今日はここで。またお会いしましょう」


そう言うと副団長さんは緩く編まれた私の髪を手に取ると、なんとキスを落とした。


一瞬何が起こったのか分からなかった私が呆然としていると、副団長さんはくすっと笑って私の頭を撫でた。


「お返しです。おやすみなさい」


そう悪戯な顔で笑うその表情がとても色っぽくて。


ぱたんと優しく扉が閉められた後、私は膝から崩れ落ちてしまった。


「あ、あんな顔……。反則です……」


熱くなってしまった頬を押さえて、私はそう呟くのだった。

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