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【書籍化】塩系令嬢は糖度高めな青獅子に溺愛される  作者: 沙夜
本編

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ライバル誕生?2

「よし、準備はばっちりね。頑張って作ろう」


翌日、材料を目の前に、私はひとり気合いを入れた。


昨日カードを前にうんうん悩んでしまった私だが、何とか書ききって現在ポケットの中に入っている。


それも何度も書き直した。


字が変になってしまったとか、斜めになってしまったとか、普段なら別に良いかと思ってしまうようなことも気にして、結局五枚ほど駄目にしてしまった。


変なの、そう戸惑ったけれど、恋とはそういうものなのかもしれないと思ったら、何だか納得してしまった。


私ってば結構単純だったのね。


初めての感情に少し胸がくすぐったく感じるものの、それが不快ではないのが不思議でもある。


前世と合わせても初恋というやつだ。


分からないことばかりではあるが、とりあえず目の前のことはきちんと行おうと思う。


さて、今日作るのはアップルパイ。


まずはパイシート作りから。


強力粉と薄力粉を合わせ、スケッパーでバターを切りながら粉とすり混ぜる。


ちなみに例によってスケッパーは魔法で私が作ったものだ。


大豆くらいの大きさの塊がたくさんできたら、ここで冷水を投入。


こちらも氷になるスレスレまで魔法で冷やしたものだ。


ヘラで混ぜ、最後は手でひとまとめに。


これをしばらく寝かせておく間に、りんごのフィリングとカスタードクリームを作る。


カスタードクリームを入れないものもあるが、これを入れるとまろやかな味わいになって食べやすくなる。


りんごのフィリングはちょっと好き嫌いが分かれるからね。


コトコトと鍋で煮詰めるりんごを見つめる。


“初恋=甘酸っぱい”なんて表現を聞いたことがあるが、このフィリングはまさにそんな味だろう。


そう考えると、カスタードクリームのほっとする甘さは、副団長さんの優しさに似ている気がする。


「はっ!な、なに考えてるんだろう。恥ずかしい……」


甘酸っぱいフィリングが優しい甘さのクリームに包まれる。


サクサクのパイに包まれたアップルパイ、美味しくできると良いな。


「……私の初恋も、今は副団長さんの優しさで包まれているけれど……。これからどうなるのかは、分からないな」


あの副団長さんとどうにかなる未来なんて想像つかない。


というか、どうにかなれるなんて考えるのも烏滸がましい。


「せめて気持ちが伝えられたら、それで良いかな」


優しさに甘えるようだけれど、彼ならきっと私の話をきちんと聞いてくれるだろう。


「……会えるようになってからの話だけどね。だからせめて、お菓子に気持ちを込めて作ろう」


副団長さんの笑顔を思い出しながら。


甘くて、優しいお菓子になりますように。






「一緒に食べることもできず、悪いな」


「いえ。私のせいで大変なことになってしまって、申し訳ないです。これ、今日の分です」


今日も時間通りに現れたゼンに、焼き上がったアップルパイを入れた箱を渡す。


人型で来てはくれるものの、最近はゼンとお茶する時間も控えて、こうしてお菓子の配達だけをお願いしている。


副団長さんの噂のことはあれど、私のお菓子を食べたいと買って下さる女性騎士さんは多く、注文数はほとんど減っていない。


きっと、副団長さんに限ってそんなことないと思っている方が多いのだろう。


あんなに優しい方だもの、きっと信頼は厚いはず。


「あの。このカード、副団長さんに渡してもらえますか?」


そこでおずおずとポケットに入れておいたメッセージカードをゼンに差し出す。


「カード?……ほう、以前とは逆だな」


受け取ったゼンがにやっと悪戯な顔をして笑った。


「そうですね。以前は頂くだけでしたが、私からも謝罪と感謝をお伝えしたくて。よろしくお願いします」


「分かった。主も喜ぶだろう」


ふっと優しい顔になると、ゼンはよしよしと私の頭を撫でた。


「あの噂に関しては、こちらの配慮が足りなかっただけだ。きちんと対応もしているから、ジゼルは気にするな。噂など一時のもの、またすぐに皆で茶ができるようになる。それにもうすぐ例のパーティーがあるのだろう?今はそちらの方も忙しいだろうから、時間をかけられて良かったと考えろ」


「……そうですね。パーティーには副団長さんやエリザさんも招待されているはずですから、ゼンもこっそり料理やお菓子、食べに来て下さい」


準備に時間をかけられて良かったとはさすがに思えないけれど。


お兄様達はもちろん、招待客の皆様、副団長さんやエリザさん、ゼンにも喜んでもらえるように頑張って準備しないと。


「私、毎日のお菓子作りも頑張りますから。明日のお菓子も楽しみにしていて下さいね」


「ああ。ジゼル、変わったな。()()、確かに主に渡す」


託したカードとアップルパイの入った箱をしっかりと持って、ゼンは光の中に消えた。


「変わった……?どういう意味でかしら……」


ひょっとして、図太くなったとか図々しくなったとかではないだろうか。


いやいや、ゼンの表情は優しげだったし、良い意味でだと思いたい。


「でも、そっか。私、変わったのか」


家で引きこもってばかりいた頃とは違うと、自分でも少し思う。


副団長さんやエリザさん、ゼンと話すようになって、彼らのためにお菓子を作るようになって、まだまだだけど、お菓子の販売もできるようになって……。


「全部、副団長さんのおかげね」


私が良い意味で変わったのだとしたら、それは全部、副団長さんがきっかけをくれたから。


「早く、会いたいな。会って、きちんとお礼が言いたい。それと、私の気持ちも」


パーティーでは、きっと会えるはず。


「アップルパイ、か……」


今日のお菓子、気に入ってくれると良いな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 皆が優しい気持ちで思い合っているところ。 ジゼルの気持ちを大事にしているところ。 [気になる点] お菓子作りは、時間も労力もお金もかかるもの。 あまりビジネスライクでは二人の仲が進展しな…
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