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【書籍化】塩系令嬢は糖度高めな青獅子に溺愛される  作者: 沙夜
本編

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試作品はほっこり涙の味?2

その後、勤めに出る三人を見送り、さてと私は息をついた。


今日は新しいお菓子を持って、副団長さんに受諾の挨拶に行くつもりだ。


先程お兄様達には、そうそうお会いすることはないと言っておいたが、今日くらいは良いよね。


副団長さんからの提案を受けるにあたって、私は屋敷での生活を少しだけ変えることにした。


……といっても、元から大したことはできていないのだが、畑の水やりや食事作りの手伝いなど、私がやらなくても大して困らないようなことを控えて、その分の時間をお菓子作りに費やすというだけだ。


元々ザックさんや料理長だけで良いことだったしね。


でも、ちょっとした書類のお手伝いは続けることになる。


前世の数式などの知識のおかげで、計算関係は頼りにされているから。


友達が少なかったから遊びになんて行くことなかったし、勉強は真面目にやっていたのよね。


それでも時間が余ったから、お菓子作りをするようになったんだけれど。


とまあ、そんなわけで私の計算能力と書類整理の能力はまあまあ役に立てている。


基本的には午前中まるまるお菓子作りに集中して納品、そしてお昼過ぎからそういった仕事ができたらなと思っている。


「……不安もあったはずなのに、楽しみっていう気持ちの方が、強いみたい」


きっと、副団長さんやゼンから“美味しい”の言葉を頂いたからだろう。


もっと色んな人に食べてもらいたいって、欲が強くなってしまったようだ。


「さ、今日は挨拶に伺うのだから、美味しいお菓子を作って行かないとね」


前回は予想外のことがあって副団長さんにカスタード入りマドレーヌを渡すだけになってしまったが、もし時間があれば今日は目の前で食べてもらいたい。


どんな反応をしてくれるのか、この目で見てみたい。


「ふふ。副団長さんとゼンの喜ぶ顔が見られると良いな」


さて、そのためにも今日は午前中にしっかり仕事を終わらせないと。


「良い天気。今日も一日、頑張ろう」


窓から流れる爽やかな風を感じながら、私は自室を出て執務室へと向かったのだった。






予定より早く執務を終え、私は厨房へとやって来た。


料理長には色々と協力してもらうことになるので、少しだけ事情を話してある。


「さあ、今日からは遠慮せずにじゃんじゃん作って下さいね!お嬢様の作っているところを一挙一動逃さずに見学させて頂きたいところではありますが……。お嬢様はそれを望まないでしょうから、この前のように少し離れた場所でどうぞ」


「ごめんなさい、ありがとう」


料理長の気遣いに感謝しながら、作業を始める。


今日作るのは、ベイクドチーズケーキ。


チーズケーキの定番とされるもので、作り手の腕が試されるケーキだ。


甘すぎず酸味のあるケーキなので男性にもよく好まれるし、濃厚なチーズは食べごたえもあるので、騎士の方にはうってつけだと思ったのだ。


まずはビスケットを魔法で砕く。


袋に入れてめん棒などでバンバンやるイメージだが、魔法なら一瞬。


砕いたものを室温に戻したバターと混ぜ合わせて型に敷き詰める。


「それとこっちも同じようにして……」


ココアのビスケットも同じく砕き、バターと混ぜたらスクエアの型に敷く。


そう、今日も二種類作るつもり。


今日はゼンが来るまで時間もあるし、ぜひ食べ比べてもらいたいと思ったのだ。


ボウルに室温に戻したクリームチーズを入れて練り、なめらかになったら砂糖を加える。


こちらの世界の砂糖は、日本でメジャーな上白糖よりもグラニュー糖に近く、とてもお菓子作りに向いている。


卵も加えよく混ぜたら、今度は生クリームを投入。


もったりとするまで混ぜたらふるいながら薄力粉を入れ、レモン汁も絞る。


軽く混ぜたら先程の型に流し込んで焼く、これが基本のベイクドチーズケーキだ。


ヨーグルトやサワークリームなどを入れるのも美味しいのだが、最初なのでスタンダードなものにしようと思う。


そしてココアビスケットを敷き詰めた型には、生地を流した後に、少し残った生地にココアパウダーを混ぜたものを絞り袋に入れて上から垂らしていく。


それを竹串でマーブル柄に……って。


そこではたと気付く。


「竹串なんて見たことないわ……」


完全に失念していた、西洋風なこの世界で未だに竹串にお目にかかったことがない。


代わりに何かないだろうか。


う〜ん……と唸りながら厨房をぐるりと見回す。


爪楊枝……はもちろん無いよね。


パスタがあれば代用できるのだが、麺はあれども乾麺というものには出会ったことがない。


となれば仕方がない、これも魔法で作るしかないようだ。


とりあえず料理長から許可を得て小ぶりのフォークを借りる。


火魔法を応用して刺す方を少しずつ変形していき、千枚通しのような形にする。


「こんなものね」


我ながらなかなか上手くできた。


細い方が綺麗に描けるので、鉄製のフォークは凶器みたいになってしまったが。


今度きちんと木製のものを作ろうと決意し、とりあえず今日はこの千枚通し的なもので代用する。


縦方向に垂らしたココア生地を横方向に流していくと、蔦模様のようなかわいらしいマーブル柄になる。


そうして出来上がった二種類の型をトントンと軽く持ち上げて落とし、生地を平らにしてオーブンに。


170℃で40分くらいかな。


「美味しく焼けますように」


女性騎士のみなさんにも気に入ってもらえると良いな。


「そうだ、せっかくだから生クリームとベリーも何種類か持って行こうかな」


お店で出す時のようにデコレーションすれば、目でも楽しめるケーキになるものね。


女性を相手にするなら、そういうアプローチも有効だ。


「ああ、すっっごく楽しい!そうだ、夜、お父様達にも食べてもらおう。ふふ、びっくりするかしら」


フルーツタルトは振る舞えなかったけれど、お兄様達にもバレてしまった今なら。


「うじうじ悩まずにお菓子が作れるって、こんなに幸せなことだったのね」


やっぱり私はこの時間が好きだ。


そう改めて実感しながら、オーブンの中のケーキを見つめるのだった。

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