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【書籍化】塩系令嬢は糖度高めな青獅子に溺愛される  作者: 沙夜
本編

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再会は転機?2

少しもやもやしながらも、いつも通り家の仕事をこなし、お菓子作りの時間になった。


何にしようかと悩んだ末、この前の御礼状にカスタードクリームがとても美味しかったと書かれていたのを思い出し、カスタードを使ったマドレーヌを作ることにした。


最初にリーンお兄様から奪……こほん、最初に私のお菓子を気に入ってくれたのもマドレーヌだったし、きっと好きな味のはず。


感想をもらえないかもしれないのは残念だが、仕方がない。


せめて美味しいと食べてくれる顔が見れたら良いのになと思いながら、無理な話だけれどねと苦笑する。


前回と同じ手順でカスタードクリームを作り、マドレーヌの生地の間に挟んで型に敷き詰めていく。


仕事の合間に、これを食べてほっと息をつく時間を持ってもらえたら良いな。


無理して体を壊さないように、適度に休憩を挟んで頑張ってもらえたら。


……なんか思考がお母さんみたいかも?


いや、一度しか会ったことのない相手にこんなことを言うつもりはないが、思うだけなら自由だものね。


やれやれと自分のお節介さに呆れながら、オーブンの中にマドレーヌ生地を入れる。


「美味しく焼けますように」


そう呟きながら、半月前の一度しか会っていない、もう朧げになりかけている副団長さんの姿を思い浮かべるのだった。






「む、今日はまどれーぬか。初めて会った日に主が食べていた菓子だな。我もひと口だけもらったが、なかなかに美味であった」


上手く焼き上がったマドレーヌを冷まし、簡単にラッピングした後、私はいつものようにゼンを呼んだ。


だが三日前とは違って、あれからゼンは人型で現れるようになった。


「正解です。ですが今日のマドレーヌはこの前とは少し違うんですよ?」


カップにお茶を注ぎながらそう答える。


そう、あの日以来ゼンはここでお茶とともにお菓子をひとつ味見してから副団長さんの元へ行くようになったのだ。


ソファに掛けたゼンの前にお茶とマドレーヌを置くと、ゼンは満足気に頷いた。


「それは楽しみだな。うむ、今日も美味そうだ。ジゼルは菓子を作るだけでなく、茶を淹れるのも上手いからな。我はこの時間が気に入っている」


そしてマドレーヌをひと口頬張ると、カスタードクリーム入りだとすぐに見抜き、とろりとした食感に舌鼓を打ち微笑んだ。


「あの“たると”というのは格別に美味であったが、我はこれも好きだぞ」


「良かったです。ゼンにそう言ってもらえると、すごく嬉しいです」


そうよね、副団長さんからの御礼状がなくても、こうしてゼンの喜ぶ顔は見ることができる。


毎日こうやってお茶に付き合ってくれるのかしら。


だったら、嬉しいな。


「……ジゼル、何か悩み事か?表情からはあまり読めんが、声のトーンが落ちている気がする」


なんと、私の感情の変化に気付いてくれるとは、ゼンはすごく人の機微に敏感なようだ。


この無表情な顔のお陰で、感情はおろか、体調が悪くてもあまり気付いてもらえないのに。


「いえ、そういう訳ではないのですが……」


やはり自分の中に寂しいという気持ちがあるのだなと思いながらも、御礼状を遠慮しようと思う旨をゼンに話していく。


「ふむ、確かに主は最近多忙を極めている。文を書く時間があるなら休んでほしいというジゼルの気持ちはありがたいだろう」


「やっぱりそうなんですね。あの、食べてくれるだけで嬉しいので、私などに時間を使わないで下さいと伝えてくれますか?」


ゼンにそうお願いすると、なぜだかははは!と笑われてしまった。


「半ば無理矢理ジゼルに菓子作り頼んだのは主なのに、食べてくれるだけで嬉しいとは不思議なことを言う」


「……最初はちょっと戸惑いがありましたが、心から喜んで下さっているのがすぐに分かりましたから。それに、お友達のいない私にとって、副団長さんとゼンの“美味しい”という言葉が、本当に嬉しいんです」


引きこもりであることを強調するようで少し恥ずかしいが、この際仕方がない。


副団長さんに無理をさせてはいけないもの。


「成程な。しかしジゼル、それならば主から菓子についての感想がもらえないのは、そなたにとっては悲しいことではないのか?」


「……そんなの、私のちっぽけな我儘です。重要な責務に就いている副団長さんの貴重なお時間に代えられません」


そう、こんな寂しいと思ってしまう気持ちは、ただの我儘だ。


これくらい、ちゃんと我慢しないと。


「あい分かった。ならばこうしよう」


俯きながらもそう答える私に、ゼンはぐいっとお茶を飲み干すと、カップを置いてふっと鼻で笑った。


「いつも美味い菓子を馳走になっているからな。主にとっても衝撃的な話であろうから、ここは我が一肌脱ごうではないか」


そう言うゼンの微笑みは、ちょっぴりどきっとするくらい色気たっぷりなのに、どこか楽しげで私は首を傾げるのだった。

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