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【書籍化】塩系令嬢は糖度高めな青獅子に溺愛される  作者: 沙夜
本編

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新作お菓子は誰のため?7

ラッピングを終え自室に戻り、誰もいないことを確認してゼンの名前を呼ぶと、いつものように鮮やかな羽根を羽ばたかせてゼンが現れた。


「娘、今日は随分と時間がかかったな。……なんだその随分と可愛らしい箱と包みは。我らは年頃の娘ではないぞ」


「あ、その。せっかく上手くできたので、少しでも美味しそうに見えると良いなと思いまして」


ジト目のゼンに、慌ててそう返す。


確かに男性ふたり(一人と一羽?)への贈り物にしては可愛いすぎたかもしれない。


タルトはひとつひとつレースペーパーの上に乗せてあるし、崩れないように魔法をかけたとはいえ、運ぶ時に固定されるようにとオシャレな箱に入れた。


そうしたらリボンなどにも凝りたくなって、つい女性への贈り物風になってしまったのだ。


「まあ別に構わんが……。むっ、これは……!」


ゼンは器用に鉤爪でリボンを解き箱を開けると、中に入っていたフルーツタルトを見て目を見開いた。


「これが昨日ゼンが見た絵のお菓子。遅くなってしまってごめんなさい。実は結構手間のかかるお菓子なんですよ」


フルーツタルトを前に固まってしまったゼンに、そう言葉をかけてみる。


一拍おいても反応のないゼンに、どうしたんだろうと目の前で手を振ってみると、はっと我に返り、私の方を振り向いた。


「娘、これを我が食べても良いのか!?」


そして、その目をかつてないほどにキラキラさせてそう言った。


「え?ええ、それはもちろん……。ゼンと副団長さんのために作ったんですもの」


いや、正確に言えば私自身のためでもある。


ずっと作りたかったし食べたかったのだから。


「あ、お茶でも入れましょうか?良かったら私もご一緒しても……あ」


折角ならゼンと一緒に美味しいお茶とともに食べたい。


そう思ったのだが、良く考えたらゼンは精霊とはいえ鳥の姿をしている。


カップに注がれたお茶を飲むことができるのか分からない。


途切れてしまった私の言葉に、ああと気付いたゼンは、気にするなと言ってくれた。


「姿を変えれば問題ない」


そしてくるりと部屋の天井を旋回すると、ポンという軽い音がしてゼンの姿が煙に包まれた。


そしてなんと人間の男性が天井から落ちてきた。


「ふん、この姿は少々不便だが、美味い菓子と茶を馳走になれるのならば我慢しよう。娘、用意を頼む」


軽やかに着地した男性は、赤い長髪に琥珀色の瞳、きりりとした顔立ちの二十代半ばくらいの美青年だった。


突然のことにあんぐりと口を開けて驚いてしまったが、この人、もしかして……。


「ひょっとして、ゼン?」


「ああ、人型になれば茶も飲めるぞ。早く淹れてくれ」


そう言うとゼンは優雅な所作でソファに腰掛けた。


色々と驚きはしたが、魔法や精霊の存在するファンタジーな世界で精霊が姿を変えるくらい、不思議でもなんでもない気もする。


見慣れない姿ではあるが話し方は変わらないし、いつも通り接すれば良いかしら。


そう気を取り直して、自室に常備してあるティーセットを使って丁寧にお茶を淹れ、フルーツタルトをお皿に乗せた。


「お待たせしました。どうぞ召し上がって下さい」


テーブルにタルトとお茶を置くと、すぐにゼンはフォークを持ってタルトに手を伸ばした。


ゼンは綺麗にひと口サイズに切り、口の中に入れると、目に見えてその表情を綻ばせた。


「美味い。今までの菓子も見事だったが、これは中でも群を抜いている」


「良かったです。そう言ってもらえると、手間をかけて作った甲斐があります」


ぱくぱくと次々とタルトを口に運ぶ姿に、ほっとする。


鳥の姿の時よりも表情の変化が分かりやすいわね。


大の大人の男性……(精霊だけど)に向かってこんなことを思うのは失礼かもしれないが、ちょっとかわいい。


そんなゼンの姿に癒やされつつ、私もタルトをひと口頬張る。


うん、フルーツの甘みが際立って美味しい。


ああでもクリームはやっぱり生クリームと混ぜた方が良かったかしら。


タルト台ももう少し焼いても良かったかもね。


久しぶりにしては上出来とは言ったものの、やはり改善の余地はある。


もぐもぐとその味を噛み締めながら頭の中でそんなことを考える。


けれど、お茶は完璧ね。


フルーツタルトにもよく合う、上品な味わいだ。


「娘は菓子のことになると心が顔に表れるのだな」


こくりとお茶を飲んだところで、ゼンにじっと見つめられていることに気付いた。


「!?あ、ごめんなさい、タルトのことでもっと美味しく作れたかなぁと色々と考えてしまいました……」


考え込むと周りが見えなくなってしまう、悪い癖だ。


しまったと慌ててゼンの方を見ると、もうすでにお皿もカップも空だ。


どうやら満足してくれたみたいねと嬉しくなる。


「ふむ。我にとってみれば十分美味であったが。娘は向上心が高いな。それに、菓子作りが相当好きなのであろう」


「そうでしょうか……。でも、今日のタルトを作るのは、本当に楽しかったです。ゼンのおかげです、ありがとうございました」


笑うのは苦手だけれど、なんとなく自然に笑ってお礼を言えた気がする。


人付き合いは苦手だけれど、ゼンが鳥の姿をした精霊だと知っているからか、この姿でも気まずさを感じずにいられる。


「ほう、やはり菓子が絡むと表情が豊かになるようだ。ふむ、良いことを知った」


そういえば先程もそんなことを言っていたが、自分ではあまり自覚がない。


私、ちゃんと笑えていたのだろうか?


「さて、そろそろ我は主の元へと行こう。主も首を長くして待っているだろうしな。娘、馳走になった」


そっか、副団長さんも楽しみに待っていてくれてるのだろうか。


それはちょっと嬉しい……けど、ずっと気になっていたことを最後にひとつだけゼンに伝えたい。


「あの、ゼン。私のこと、名前で呼んではくれませんか?さすがにその“娘”っていうのは味気ないと言いますか……」


私はゼンと名前で呼んでいるわけだし、ちょっと仲良くなってきたと思うので、これくらい言っても図々しくないかしら。


ドキドキしながらゼンの答えを待つ。


「そうか?主はあまりそういうことにこだわらないので分からないが。まあ、そう言うのであればジゼルと呼ぼうか。ではな、ジゼル。またあのノートに描いていた他の菓子も作ってくれ!」


やった、早速名前で呼んでくれた!


喜ぶ私だったが、ゼンはそう言うと残りの自分用と副団長さん用の菓子箱を持ってさっさと消えてしまった。


「行っちゃった。……というか、他のお菓子も作ることになっているのかしら?」


どうしようと思う気持ちと、わくわくする気持ちと。


そんな真逆の複雑な思いを抱えながら、ふうっと息をつく。


「それにしてもゼンってば、あんなイケメンさんだったのね」


副団長さんとふたり並んだら、それはもう女性の目を惹くだろう。


副団長さんはともかく、ゼンはすごく嫌がりそうだなと想像して、ぷっと笑みが零れるのであった。

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