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【書籍化】塩系令嬢は糖度高めな青獅子に溺愛される  作者: 沙夜
本編

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新作お菓子は誰のため?6

完成した生地を魔法で作った氷室で寝かせておき、その後型に敷きつめる。


ちなみにタルト型は先程私が魔法で作った。


タルトというお菓子自体がこの世界にはないので、昔作ってもらったマフィン型を魔法で変形させ、舟型の周りが波状になっているあの形を再現させた。


先程のアーモンドプードルも魔法でアーモンドを粉状にしたし、この氷室も魔法で冷蔵・冷凍の両方が可能にしてある。


本当に魔法というものは便利だ。


そして冷凍ができるということは……氷菓子なんかも作れるっていうことなのよね。


いつか作ってみたいものだと思いながら氷室の扉を閉める。


そして次にタルト台の上に敷きつめるダマンド。


同じく室温に戻したバターと、粉糖、卵、アーモンドプードルを順に混ぜていく。


こちらも氷室で寝かせ、いよいよカスタードクリーム作りに入る。


卵黄と砂糖をしっかり混ぜ、薄力粉を加えた後はさっと軽く混ぜる。


それから沸騰直前まで温めた牛乳を少しずつ加えていく。


ここでバニラオイルも……と言いたいところだが、今のところこの世界でそんなものを見たことがないので、残念ながら無しだ。


さてここからが山場、クリームを鍋にかけていく。


絶えずヘラでかき混ぜながら、その状態の変化を見極めていかなくてはならない。


沸いてくるまではゆっくり、とろりとヘラに重みを感じてきたら混ぜる手のスピードを上げる。


あっという間に固まっていくが、焦らず手早く混ぜていけばなめらかになっていく。


表面に大きめの気泡ができてきたらあと少し。


「仕事の疲れも吹っ飛ぶくらい、美味しいクリームになってね」


こちらのクリームにも、いつものように食べる人の癒やしになりますようにと心を込めて混ぜる。


もったりとして、クリームをヘラでとって落とすと筋ができるくらいになれば完成だ。


味見にとスプーンでクリームをすくってひと口食べてみる。


「ん。美味しい。久しぶりにしては上出来だわ」


出来立てのカスタードクリームを魔法で急速に冷やし、こちらも氷室へ。


久々にかなり集中して作ったから、少し疲れたかも。


はっきり言って、意外とタルトは作るのに時間がかかる。


しかしこうして手間をかけて作っていく工程が、私はとても好きだった。


ちらりと時計を見れば、その針は午後二時を指していた。


作り始めたのが一時前、あと一時間は生地を寝かせたいところだ。


先に屋敷のみんなの分のお菓子を作って、それからタルトを焼こう。


頭の中で計算し、まずはフルーツをたくさんひと口サイズにカットしていく。


種類が多いほどカラフルで見た目にも鮮やかだし、口に入れるたびに味が変わって食べるのも楽しくなる。


そうしてたくさんのフルーツをカットし終えたら、料理長達にお願いして焼いてもらっておいたクロワッサンに切り込みを入れていく。


そして多めに作っておいたカスタードクリームを氷室から半分程取り出し、クロワッサンの中に詰めていく。


クロワッサン・ア・ラ・クレームだ。


これだけでも美味しいが、せっかくだからみんなの分にもフルーツを。


カスタードだけでなくホイップクリームと二層にしても美味しいんだけどね、あまり豪華にすると差し障るので控え目にしておく。


ひとつひとつ詰めていると、控えめに近付いてきた料理長が私の手の中のクロワッサンを見て目を輝かせた。


「ほほう!新しい菓子とはこれのことですか?む、これは見た目もかわいらしくて美味しそうだ。お坊ちゃま達の誕生パーティーにぴったりですな!」


「あ、ええ。試作品だから、料理長も後で休憩中に食べて感想聞かせてね」


誕生パーティーのお菓子のことをすっかり忘れていた。


しかも本命はこれではないとさすがに言えず、誤魔化すように答えたのだが、納得したように料理長は片付けへと戻っていった。


ふう、どうやら怪しまれてはいないようだ。


少々申し訳ない気持ちにはなるが、仕方がない。


最後のクロワッサンにクリームとフルーツを詰め終わると、丁度料理長も片付けを終えたようだったので、出来立てのクロワッサン・ア・ラ・クレームを手渡す。


休憩室でみんなで食べてねと伝えれば、満面の笑みを向けられた。


みんなの口に合うと良いな。


ごゆっくりと調理場を去る料理長を見送り、さてと氷室の扉を開く。


「うん、生地はこんなものかな」


休ませておいた生地を取り出し、麺棒で三ミリ程の厚さにのばす。


そして例の舟型の型に敷きつめ、飛び出た縁はペティナイフで落とす。


全ての型に詰め終わったら、フォークでピケしていく。


ここに先程のダマンドを入れて焼くのだが、ダマンドにカスタードクリームを加えて混ぜるとびっくりするくらい美味しくなる。


このひと手間が、ってやつね。


ダマンドを平らにならしたら焼いて、後はカスタードクリームとフルーツで飾るだけ。


片付けをしている間にも生地は焼き上がり、ここから完全に冷やさないといけない。


普通なら時間がかかるところだが、これも魔法を使えば一瞬。


料理くらいにしか普段は使わないけれど……遺伝的に魔法が割と得意な私は、遠慮なく使って楽をしている。


「よし、じゃあ最後の仕上げね」


手製の絞り袋にカスタードクリームを入れ、十分に冷めたタルト台に絞っていき、フルーツで飾る。


色とりどりのフルーツが、まるで宝石のようだ。


艶出し用のナパージュがあればもっと見た目も鮮やかになるのだが……今までこの世界でそういったものを見たことがないので今回は残念ながら断念した。


でも、とっても楽しかった。


「完成ね。ふふ、ゼンの驚く顔が見られると良いのだけれど」 


それと美味しいという言葉ももらえたら嬉しい。


やっぱり食べてくれる人のその言葉が、何よりのご褒美だから。


「……副団長さんも、気に入ってくれると良いな」


いつも送ってくれる御礼状には、どんなことが書かれるだろう。


もらえることを期待してしまうのを図々しいとは思うが、きっと礼儀正しい彼はその期待に応えてくれるのではないだろうか。


最初のひと口を食べた時の顔が見たい気もするなと、そんなことを思いながらラッピングを施すのであった。

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