クリスマス
あるところに、白色のくまのぬいぐるみがいました。
くまのぬいぐるみの名前は「テディベア」。
宝石でできたキラキラ光る瞳がチャームポイントです。
テディベアは、小さなお家で暮らしています。
そこは仲良しのお友達がたくさんいて、お日様があたる暖かい場所です。
毎年、鈴の音が流れる時期になると、赤い帽子をかぶったおじさんがやって来ます。
テディベアは、おじさんがやって来る日をいつも楽しみにしていました。
シャンシャンシャン
その年も、おじさんがやって来る季節になりました。
おじさんはお友達をソリに乗せると、お空を飛んで出かけます。
真っ赤なお鼻のトナカイがひく空飛ぶソリに、テディベアはずっと憧れていました。
「僕もお空を飛んでみたいなぁ」
しかし、その年もテディベアは、おじさんからお出かけに誘われませんでした。
シャンシャンシャン
今年も、おじさんがやって来る季節になりました。
テディベアは窓の外を見ながら、
赤い帽子をかぶったおじさんの到着をまだかな、まだかな、と待ちました。
「フォッフォッフォ」
おじさんの愉快な笑い声が聞こえました。
ネコさん、イヌさん、ペンギンさん。
おじさんに選ばれたぬいぐるみのお友達が、どんどんソリに乗っていきます。
「可愛い子、素敵な子、おいで。人間のお友達の所へでかけよう。」
それを聞いたテディベアは、ソリに乗ったお友達がとても羨ましくなりました。
「あの子達は、きっとここよりも、ずっとずっと素敵なところに行くんだろうな」
キツネさん、リスさん、ウサギさん。
あっという間に、ソリはいっぱいになってしまいました。
「待って!」
どうしても空を飛んでみたかったテディベアは、ソリに乗っていたウサギさんの腕をひっぱりました。
「僕の瞳はきらきらして綺麗だよ。この子のリボンよりずっと良いよ。」
それを聞いていた、周りのお友達がテディベアをとめました。
「ここはとても良い場所なのに、なんで行くの?」
「テディベアが行ったらさみしいよ」
しかし、テディベアはウサギさんの手を離しませんでした。
「そうかい?では、一緒に行こう」
おじさんは、にっこり笑うとウサギさんの代わりにテディベアをソリに乗せました。
ウサギさんの悲しそうな顔を見て、テディベアは優越感を感じました。
「さぁ、行くよ!」
おじさんが、トナカイの紐を引っ張ると、
びゅーーん、びゅん
僕たちを乗せたトナカイはお空に駆け上がっていきます。
憧れだった空飛ぶソリに乗れて、テディベアはとても喜びました。
飛行機を追い越し、雲を抜け、
空飛ぶソリは優雅にお空を旅します。
しばらく空を飛んでいると、真下に綺麗な夜景が見えてきました。
空飛ぶソリをたくさん楽しんだテディベアは、今度はきらきら光る夜景の中に行ってみたいと思いました。
「ねぇ、ねぇ。おじさん。あそこには行かないの?」
「ウサギさんはね、貧しい村のお家に行く予定だったんだ。
そこには、街を光らせる余裕は無いよ」
おじさんの言葉に、テディベアはがっかりました。
しかし、
「けれど、君だったら、もっと大きなお屋敷に行けるよ」
おじさんは、テディベアの瞳を指さしてにっこりと笑いました。
「きらきら光るお家に行こうか」
テディベアの心は、期待で胸が膨らみます。
「さあ、着いたよ」
言葉通り、おじさんは大きなお屋敷に連れて来てくれました。
お屋敷の周りは、カラフルなライトで飾られています。
おじさんは、お屋敷の窓から部屋に入ると、ふかふかのベッドの上にテディベアを乗せました。
「この子が、君の新しいお友達だよ」
ベッドの上には、可愛い女の子が眠っています。
おじさんは、かぶっていた赤色の帽子をテディベアの頭に乗せると、手を振って出て行きました。
外が明るくなると、ベッドで眠っていた女の子が起きました。
女の子はテディベアを見ると、とても喜びながらぎゅっと抱きしめてくれました。
テディベアは体が動かなくなり不便に感じましたが、女の子がいろんな所に連れて行ってくれたので、とても楽しく遊べました。女の子は、たくさんしゃべりかけてもくれます。
外が真っ暗になると、女の子はテディベアをおもちゃ箱に入れました。
山盛りに積まれたおもちゃ箱は、押し入れの中へとしまわれます。
押し入れの扉が閉まると、辺りが真っ暗になりました。
しかし、テディベアはぜんぜん平気でした。
(はやく明日にならないかなぁ。もっともっと、遊びたいなぁ)
しかし、翌日押し入れを開けた女の子は、違うおもちゃを持ってどこかに出かけました。
その翌日になっても、さらに翌日になっても女の子はテディベアと遊んでくれません。
体が動かないテディベアは、どこにも出かけることができません。
女の子がもう一度、こちらに振り向いてくれるまで、
ただ、ただ、そこで、ずっと待っていました。
一週間がたつと、やっと女の子がこちらに振り向いてくれました。
女の子に抱えられたテディベアは、どこに行くのだろうとわくわくしていました。
しかし、
女の子が向かったのは、大きな木が置かれた天井の低い部屋でした。
大きな木は横に倒され、キラキラの光を失ったライトが転がっています。
(ここはどこだろう?)
それから、一週間たっても、一ヶ月たっても、女の子は現れませんでした。
暗く寒い部屋での生活は、寂しくて仕方がありません。
床は湿り、生乾きの臭いにおいがしました。
テディベアは一人で過ごす長い時間の中で、
何度も何度もポカポカの日差しとぬいぐるみのお友達を思い出しました。
そして、失って初めて気付いたのです。
自分が幸せだったことに。
シャンシャンシャン
また、あの音楽が聞こえる季節がやってきました。
暗く寒い部屋に、女の子のお父さんがやって来ます。
倒された木は綺麗に飾られ、転がっていたライトはキラキラの光を取り戻しました。
そして、テディベアは女の子と再会することが出来ました。
・・しかし、
「汚いからいらない。新しいのが良い」
女の子はテディベアを抱きしめてはくれませんでした。
テディベアは埃で黒くなり、体には虫に食べられた跡があったからです。
女の子のお父さんは、テディベアを捨ててしまいました。