後書き/お読みいただいた皆さまへ感謝をこめて
まずは、「背徳の画家ミロスラヴとそのパトロネス」をお読みいただき、誠にありがとうございます。ネット小説のトレンドから大きく外れた重苦しい長編に、根気よくお付き合いいただきましたことに、心より感謝を申し上げます。
この作品はある意味、私の技量を試す実験の場でもありました。主人公は貴族の令嬢ではありますが、家は没落寸前。美人でもなく、面倒見がいい以外に取り柄もなく、ドラマティックな要素からは程遠いキャラクターと言っていいでしょう。
また、その主人公が恋する相手は、飛びぬけた画才を持っているものの、優柔不断で女にだらしないろくでなしです。このどうしようもないカップル(と言っていいのか)を、いかにエンタメに仕立てるか。それが自分に課したハードルでした。
さらには、イレギュラーな構成にも挑戦してみることにしました。絶対にやってみたかったのが、出だしバッドエンド確定。しかし読み終えると、その印象が変わっている……。そんなアレンジができればいいなと思いました。
しょうもない男に執着するアデーレにイライラした人、アデーレに尻拭いしてもらうばかりの情けないヴィトーに呆れる人、きっといっぱいおられたと思います。私もそうです。理屈では、こんな奴は見限ってしまえと思っても、なかなかそうはいかない。それが人間ではないでしょうか。
かと思えば、いけすかない最低野郎と思っていたシャイロが、懐に飛び込んでみれば頼りがいのある好漢だったという、予想外の展開もままあることです。途中から「アデーレ、シャイロにしておけよ」と思った方は少なくないはず(笑)
また、この物語には恋で身を滅ぼす女が多く登場します。主人公のアデーレはその筆頭ですが、彼女の母親バージットも困った女でした。不義の子を授かったばかりか嫡子と偽って育て、挙句の果てに伯爵家を追われます。
ヴィトーが雑居坊で共に暮らした踊り子タチアナは、金のために自宅で客を取ることもしばしば。しかも、それを悪びれない阿婆擦れでしたが、ヴィトーが部屋を出ていくときには、涙を流して追い縋りました。
アデーレがメッシーナ辺境伯家で唯一、心を許した友人アイリスは、賢く心の優しい女性でした。しかし、長年の恋人である暴君エリオのアデーレに対する仕打ちに我慢がならず、彼を毒殺して自分も共に逝きました。
ヴィトーが初めて恋をした高級娼婦エリザベッタは、美貌と知性を兼ね備えたとびっきりのいい女だったにも関わらず、10年も恋人に金を貢いで裏切られ、その現実を受け入れることができずに自らの命を絶ちました。
ハンナだけは、男に依存して迷走することはなかったものの、アデーレへの忠誠心から、結婚話を反故にしてしまいました。作中では書いていませんが、彼女はアイリスを育て上げ、生涯独身を貫きました。
たぶんこういう男と女の物語は、世界のどこにでも転がっているはずです。そんなありきたりで血の通ったヒューマンドラマを、今後も細々と書いていければいいなと思っています。
ちなみに、連載開始当初に活動報告で書きましたが、ヴィトーのモデルは画家のエゴン・シーレです。私の好きな画家の一人であり、スキャンダラスな作風と生涯は映画にもなりました。アデーレという主人公の名は、シーレの妻エディトの姉から取ったのですが、なんとシーレは義姉のアデーレとも関係があったそうで、まさにリアル背徳の画家と言えます。
最後になりましたが、途中でへこたれそうになった私を励ましてくれたのは、皆さまからの温かいご感想や応援のお言葉でした。拙い筆にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。また次回作でお会いできますことを、楽しみにしております。
2022年12月29日
水上栞




