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二『繋がる運命』

 朝日が完全に昇り、兎が活発になる時間が過ぎる。琴音舗装されていない道を古い自転車のペダルを漕ぎ、ガードレール左下に流れる川を横目に待ち合わせ場所へと急ぐ。


「お待たせ」


 緩やかなカーブを曲がり、両側が田園の道を真っ直ぐと進むと、無人の野菜販売所に着いた。既に待ち合わせ場所には琴音以外の同級生達が集まり、琴音が来るのを待っていたようだ。


「あっ、琴音ちゃん来た!」


 琴音が自転車から地面に片足を付けると、バンダナを頭に巻いた細目の男が琴音に気付き、それに続いて他の二人もバンダナの男と同じ方を振り向く。


「遅れてごめん」


「いいって、俺らも今来たばっかだしな!──な?」


 この無駄に声が大きく、頭にバンダナを向いた男、彼の名は林田(はやしだ)(すすむ)。サッカー部のムードメーカー的存在で、どんな事にも積極的に動く所謂、チームの縁の下の力持ちである。ポジションはGKで、趣味は釣りである。


「漸く来たか。よしっ、全員揃ったし行くか」


 髪を金に染め、いかにも田舎のヤンキーのような見た目の男、彼の名は海原(うみはら)海斗(かいと)。サッカー部のキャプテンで、人一倍責任能力があり、部内だけでなくクラスの担任教師からも頼りにされている人物だ。趣味は家の畑で採れた野菜を使ってオリジナルの野菜ジュースを作ることである。


「……うん」


 一際声が小さいこの男、彼の名は赤野(あかの)健二(けんじ)。頭脳明晰で運動神経も良く、何よりも人一倍物知りな人物だ。三歳年上の健一と言う兄を持ち、その人は地元を離れて、量から東京大学に通っているという兄弟揃って天才の家系だ。


 四人は海原を先頭に学校へ行く為の坂道を立ち漕ぎで進む。坂道の周りは木々で囲まれていて、蝉の鳴き声でとても騒がしい。


「ああ…釣り行きてぇなあ」


「この辺りじゃ九月にならないと大きいの釣れないと思うよ」


「だよなぁ、また海まで行くか〜」


 林田が自転車のハンドルから両手を離し、腕組みをしながらバランスを取って坂道の下にある小川の方を眺めた。


「おい、余所見するな。危ないだろ」


「おおわり」


 海原に注意され、林田はハンドルに手を戻した。


「それよりも、また海って言った?」


「おうよ!先週二時間掛けて海まで行ったぜ〜」


 呆れながら林田の後方にいる赤野が聞いた。


「釣果は?」


「50センチのシーバスが釣れたんだ!クーラーボックスに入らなくて持って帰るの大変だったぜ」


 そんな会話を聞き流しながら琴音は何も考えず、坂道の下にある小川を眺めながら重いペダルを漕ぐ。


(……暑いな)


 学校までは時間にして約45分。到着するまでの時間の間でジリジリと上がる気温を肌で感じながら部活の日はこの道を進む。琴音にとって、この時間は少し憂鬱であった。


「おい、端に寄れ!」


 先頭の海原が自転車のブレーキを掛けて止まって、後ろを振り向き三人に道路の端に寄れと声とジェスチャーで指示をした。

 おそらくは車だ。この狭い道で端による事なんて、車が来たことくらいしか思い付かない。

 実際に車であった。四人は道路の端に自転車を停め、前から来る車を先に行かせようと端に寄った。


 それから約20秒して、大きい白のワゴン車が四人を横切った。車が通った後に吹く風に前髪が乱れ、木々の騒めきが蝉の鳴き声と共にエンジン音に掻き消される。

 その時に助手席にいた女性と琴音の目が合ったのは当人達以外知らない。


「此処を通る車なんて珍しいな。山登りかキャンプに来た観光客か?」


「さぁ…」


「………」


 琴音は目があった金髪の女性を忘れられないでいた。その他の事を今は考えられない程。


(あの人…)


「石蕗、どうしたんだ?」


「ううん、なんでもない」


 蝉の鳴き声が山中を木霊し、完全に陽が登ったと告げた。


(暑……)


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 額から落ちる汗が陽の光に当てられ、輝きながら地面へと落ちていく。真夏の暑さの中、気怠かった身体も整い、ボールを追いかけている少年達が青春を謳歌している。


「──ふっ!!」


 踝から放たれたシュートは斜めの回転で大きく弧を描きながらゴールネットへと吸い込まれていく。


「おっと」


 横に跳び、パンチングでボールをクリアにする。勢いを失ったボールは緩く跳ねながら回転し、茂みの中へと消えていった。


「あ──、惜しかったな」


「残念だったな海原!お前のシュートは既に見切っているぜっ!」


「次は決めるさ」


 外面(そとづら)は冷静を保っているが、内面は悔しそうである。変化を付けた渾身のシュートを止められ、海原も焦っているのだ。


「それよりも、ボール探しに行かないと。えーと…何処いったかな?」


 赤野がボールが入っていった茂みに入ると、身を屈め、低い目線からボールを探し出した。


「見つからんなら予備使えば?」


「そういう訳にもいかないだろ。備品少ないんだし。…俺らも探すか」


「そうだな。マネージャー、一度休憩入れるっぽいからドリンク用意しといてくれ」


 林田からのお願いを受け、琴音は無言で頷き、ジャグの中に入っているドリンクをプラスチックのコップに注いだ。


(……あの倉庫、開いていたっけ?)


 ドリンクを注ぎ終え、氷水が入ったバケツの中で冷やしていたタオルを絞っていると、校庭の隅にあるプレハブ小屋のシャッターが開いていることに気が付いた。


(なんか…嫌だな)


 別に何かある訳ではない。ただ、あのプレハブ小屋の中から僅かながらに緊張感と言わしめるものがある気がしたのだ。


 ──気になる


 人間の好奇心と言うものは止められないものだ。琴音はタオルをバケツの中に戻し、校庭の砂利を踏み締めながらプレハブ小屋へと一歩一歩近付き始めた。


 ──見たい


 プレハブ小屋へと歩む足が止められない。一歩を踏み出す度に大きくなる心臓の鼓動がとても五月蝿い。はち切れそうだ。そして、プレハブ小屋まで腕を伸ばせば届くと言う距離で琴音の足が止まった。いや、止められた。


「はぁ、はぁ……何をしているのだね?」


「教頭先生」


 激しい息切れをしている教頭の三河が沈黙な面持ちで琴音の肩を強く掴んでいた。


 ──この時、石蕗琴音は気付かなかった。自分と三河に向けられる憎悪の目を憤怒を纏わせる呼吸を苦悶な声を、そして──────


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


「おやぁ?」


 千葉県某所、単独で石垣篝が焼死した事件を個人で調べていた金子の足元に空から一枚の古紙がヒラヒラと落ちてきた。

 それを拾い、目を通し、怪訝な顔をしながらも古紙を胸ポケットの中に入れ、携帯を取り出した。


「あー、滝ちゃん?うんうん、突然の連絡は済まないと思うよ。うんうん……それで、悪いんですが、火急調べて欲しいことがあるんですよ〜」


 滝沢と連絡を取る中、金子の真上を黒い影が追い越していった。金子も存在に気付いてはいたが、今は関係の無いものだと悟り、ゆったりとした足取りで自分の車の中に入っていった。

 分かった読者様もいると思いますが、今回の話は『続 カラスはなぜなくの』とリンクしています!分からなかった方はもう一度読み直してみてください!

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