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ガレス

セリオンとエスカローネはバイクに乗ってリントグレーン Lintgren の町を訪れた。

リントグレーンは宿場町で、周囲を城壁で囲まれている。

「今日はこの町で宿を取ろう」

「そうね。ここ数日は野宿だったから、今日は雨風を防げる所で眠りたいわ」

エスカローネはセリオンに同感した。

セリオンはバイクを亜空間収納にしまうと、歩いて城門に近づいた。

「うう……」

「? なんだ? うめき声?」

「? どうしたの、セリオン?」

「ううう……」

「やっぱり声が聞こえる! どこにいるんだ?」

セリオンは周りを睥睨へいげいした。

「あそこか! おい、大丈夫か?」

セリオンは城門近くの、木々のあいだで、倒れていた男性を助け起こした。

「おい、君! しっかりしろ! エスカローネ、回復魔法を!」

「わかったわ!」

エスカローネの手から癒しの光が発動した。優しい光が男性の傷をいやしていく。

「それにしても、ひどいな。拷問にでもあったか?」

「はい、これで大丈夫よ」

「うう…… ここは?」

男性は意識を取り戻した。

「あんたらが助けてくれたのか? ありがとう」

「君はどうして倒れていたんだ?」

「俺はジュリアン Jchulian 。このリントグレーンの町の自警団員だ。ところで、エレーネ Elene のことなんだけど…… うっ!?」

「傷は治ったが、失った血までは回復できない。しばらくは安静にするんだ。俺が君を自警団本部に連れていく。いいな?」

「ああ、ありがとう……」




セリオンたちは城門をくぐり、ジュリアンを連れて、自警団の本部まで来た。本部は赤い建物だとジュリアンが言ったのでセリオンにはすぐに分かった。

「おう、ジュリアンじゃねえか! 探したんだぜ! どこにいたんだ?」

団長のゼルギ Sergi が近寄ってきた。

「団長、すいません。俺は山賊団につかまって、それで逃げてきたんです。でも、妹のエレーネが山賊につかまっていて…」…

「事情の説明はいいから、今は本部につくまで口を開くな」

「はい、すみません……」

ゼルギの命令に、ジュリアンは押し黙った。ようやくセリオンたちは自警団の本部に到着した。

ジュリアンは本部のベッドに寝かされた。

「ふう…… これでよし、と。ところで、さっき言っていたエレーネというのは?」

とセリオンが尋ねた。

「エレーネは俺の妹だ。俺といっしょにいたところを、山賊に見つかってつかまったんだ。妹は治癒師をしている。ところで、あんたは強そうだな?」

「さあな。俺はお前を失望させるかもしれないぞ?」

セリオンはそっけなく答えた。

「いや、あんたは強い。それは間違いない。そこで、あんたに頼みがあるんだ」

「なんだ?」

「エレーネを、山賊から助けてくれ! 頼む! 時間がないんだ! このままだとエレーネは売りに出されてしまうんだ!」

「わかった。そこまで言うのなら、妹さんは俺が助けよう。それでいいか、エスカローネ?」

「まあ、いいわ。このまま見捨ててはおけないし、そうするセリオンじゃないものね」

「ありがとう、エスカローネ」




セリオンとエスカローネはひとまず宿を取ることにした。セリオンは中等クラスの宿屋を取ろうと思っていた。エスカローネのためにも、シャワーがついていることは絶対条件だ。

出てくる食事はあまり気にしない。

その条件で探すと、大熊屋という宿屋が見つかった。

「値段も手ごろだし、この宿屋に泊まろう」

セリオンたちは中に入った。

「いらっしゃいませ。何泊のご予定ですか?」

宿屋の主人が話しかけてきた。主人はかっぷくが良く、まるで熊みたいだった。

「とりあえず、一泊。この宿は食事つきだと聞いたが?」

「はい、食事も含めた料金になっております」

「あなたは?」

エスカローネが尋ねる。

「失礼しました。私はバッボ Babbo といいます。こちらは娘のマリエッタ Marietta です」

「マリエッタと言います。初めまして。ようこそリントグレーンへ」

「こちらこそ、よろしく。ところで、すぐに食事をいただきたいんだが?」

「はい、かしこまりました。すぐにご用意いたします」

マリエッタが厨房に入って行った。

「この地方の人々はどのような料理を食べるんですか?」

とエスカローネ。

「そうですね。うちはカレー料理で有名ですね」

「カレー料理か」

「詳しくはメニューをご覧に入れてもらえれば」

「どれどれ」

セリオンがメニューを開いた。エスカローネがのぞきこむ。

「そうだな…… 俺は定番のカレーライスと、カレーチキンを頼もうか。エスカローネはどうする?」

「私は、そうね。カレーパンにしようかしら。軽めのものがいいわ」

「かしこまりました。カレーライス、カレーチキン、カレーパンですね。おーい、マリエッタ! 注文が入ったぞー!」

「はーい! わかったわー!」

しばらくすると、料理と共に暖かい匂いが運ばれてきた。

「うわー、おいしそうね」

「さっそく食べようか」

セリオンはカレーライスにスプーンを入れて食べた。

「うまい! カレーが辛くて、いい味が出ている!」

「へえ、そうなんだ。ねえ、セリオン。私にも一口ちょうだい?」

「ああ、いいぞ」

セリオンは一口分スプーンでカレーライスを取り、エスカローネの口に運んだ。

「うん、おいしい!」

「はっはっは。お二人は恋人同士ですかな?」

バッボが質問してきた。

「いや、俺たちは夫婦なんだ」

「なるほど、それで仲が良かったわけですな」

「このカレーライスもカレーチキンも両方ともうまいぞ?」

「おほめいただき、ありがとうございます」




一方、山賊団のアジトでは……

治癒師エレーネは牢屋に入れられていた。エレーネはピンクの長い丈のワンピースに、茶色のローブ、そして、木の杖を持っていた。エレーネは神に祈っていた。

「神よ、私をお守りください。私をお助けください」

「フン、困ったときの神頼みか…… ?」

「あなたは…… ? 確か山賊に雇われた傭兵さんでしたね?」

彼は長い黒髪をし、剣を差していた。

「そうだ。俺はナバル Nabal おい、女。おまえはなぜ神に助けを求める?」

「私は神を信頼しています。この世のめぐりあわせは神の意思によるものです。神は人がつらい時にも、つらくない時にも私たちを平等に見てくださいます。……あなたは神を信じていないのですか?」

「…… さあな。俺は牧師に拾われて育った。だから神のこともいくつか知っている。とはいえ、俺には宗教はよくわからなかったが……」

「あなたも悩んでいるのですか? 神に相談してごらんなさい。神は必ず、あなたのために答えを出してくださいます」

「上から目線はやめろ。俺はおまえたちが宗教の教えを説くのが大嫌いだ。それはいつも人のことを無知なものと見なす態度だ。それが俺には気に入らない。…… ああ、そうだ。俺は神についての問答をするためにここに来たんじゃない」

そういうとナバルはポケットから鍵を取り出した。

「? この鍵は?」

「わかるだろう? この牢の鍵だ。逃げたいなら、逃げろ。じゃあな」

ナバルは身をひるがえして、その場を去って行った。エレーネはただ、鍵を見つめていた。




セリオン、エスカローネ、ジュリアンの三人はリントグレーンから出発した。

行先は山賊のアジト。ジュリアンは山賊のアジトを知っているため、ガイドとしてセリオンたちに同行することになった。

「ジュリアン、体の調子はどうなんだ?」

「ああ、まだ全開ってわけじゃないが、あんたらを案内することくらいはできそうだ。心配しないでくれ」

「本当なら、エスカローネの判断通り、寝かせておくところだ。だが俺たちはアジトの場所がわからない。しぶしぶそれで、おまえの同行を認めたんだぞ? まあ、妹さんのことが心配なのもわかるがな」

「心配してくれてありがとう。俺は一刻も早くエレーネを助けたいんだ。わがままを言ってすまない」

「山賊のアジトはどこにあるんですか?」

「ああ、この先のリントグレーン山の頂上近くにある。そこは洞窟がくりぬかれてできているんだ。中では灯火がついていていつでも明るいんだよ」

「さあ、じゃあ、出発しようか!」




エレーネは雨の中、走った。エレーネはナバルが持ってきた鍵を使って脱走していた。エレーネは背後に山賊たちの気配を感じていた。事実、山賊たちはエレーネを追っていた。

エレーネは必死に走った。後ろを振り返る。まだ、山賊は見えない。だが、エレーネには背後から迫る山賊たちの存在が感じられた。

「!?」

セリオンはふと何かに反応した。

「? どうしたの、セリオン?」

「今、何かが聞こえた……」

「え?」

「確かめてみる」

セリオンは身体強化魔術を発動した。セリオンは特に聴覚を強化した。

セリオンの耳に、山から出る音が次々と入り込んでくる。音は情報となってセリオンの耳に知覚された。

「これは…… 足音だ…… ここから近いな…… 何かから逃げているのか…… ? 同時に大勢の足音も聞こえる…… これは、何かから逃げている音か…… ? 二つの音はだんだん近づいているようだ…… このままでは危ないな」

「それはもしかしたらエレーネかもしれない! エレーネはどこにいるんだ!」

ジュリアンがセリオンに迫った。

「ああ。同時に犬の声も聞こえる。このままでは捕まるぞ。こっちだ! ついてきてくれ!」

ジュリアンは走りながらつぶやいた。

「神よ、妹を助けたまえ!」




「ああ、ああああ」

エレーネは木に身を沈めた。エレーネの前には山賊たちがいた。

「まったく、手を焼かせやがって! だが、これまでだ!」

「早く、アジトに帰ろうぜ」

「この女は商品なんだ。傷をつけるなよな。なるべく高く売るんだからな」

エレーネの前では、犬たちが吠えていた。獲物を捕縛できたと思っているのだろう。

「待て!」

「エレーネ!」

「ジュリアン!」

「? なんだ、てめえらは?」

「あーん?」

そこにセリオン、エスカローネ、ジュリアンの三人が現れた。

エレーネの目に、希望の灯がついた。ジュリアンはエレーネの前に立ちはだかった。

「おめえは脱走した野郎じゃねえか! ははは、おもしれえ!」

「兄妹そろって、つかまりに来たのかあ?」

「あっはっはっはっは! こりゃいいぜえ!」

「それにしても……」

一人の山賊がエスカローネをまじまじと見つめた。

「この女も商品になりそうだなあ……」

エスカローネは嫌な顔をした。

「商品…… つまり人身売買か。そうはさせない」

セリオンは大剣を出した。

「へっ…… おもしれえ!」

「おい! この男は商品にならん! 殺してかまわんぞ!」

「はいやああ!」

「ひゃっはあああ!」

剣を持った山賊たちがセリオンの前に群がった。セリオンは大剣を振るった。セリオンは一撃で三人の山賊を吹き飛ばした。

「なっ!? こいつ!」

「ざけんな!」

山賊たちは次々とセリオンに攻撃を仕掛けるが、セリオンの前に死体をさらすばかり……

「どうした? その程度か?」

「がはっ!?」

「ぐはっ!?」

「なっ!? つよ、すぎる……」

山賊たちはセリオンの手によって次々と殺されていった。




山賊のアジトでは、副ボスのアギト Agito がワインを飲んでいた。

「まったく、おせえな…… いったい何をやってやがんだ…… たかが女一人、とっとと捕まえてくることもできねえのか…… ?」

アギトはワイングラスに口をつけた。

「副ボス、話があるんですが……」

「なんだ? 俺様は今機嫌が悪い!」

「はい、どうもナバルの奴が怪しいんで……」

「? どういうことだ?」

「女は鍵を使って牢屋から逃げました。そこでどうもナバルの姿を見かけたんでやす」

「? どういうことだ? 頭の悪い俺にもわかるように説明しろ!」

「つまり、ナバルの奴が女を逃がしたんじゃねえでしょうか…… ?」

「なにいい? ナバルの奴、俺たちに雇われていながら、裏切ったていうのか? …… おい、俺たちも女を捕まえにでるぞ?」




「くそっ!? なんなんだよ、こいつ!」

「むちゃくちゃ強え!?」

「おい、あれを出せ! 『先生』からもらったあれだ!」

山賊の一人が黒いカードを取り出した。

「? なんだ、それは?」

「てめえもこれで終わりだ! 死ねや!」

男はカードを地面に投げつけた。カードから闇が膨れ上がった。そこから灰色の大きな熊が現れた。

「これは!?」

「くっくっく! こいつを使って殺せなかった奴はいないんだよな! 潔く死にな!」

「魔獣を召喚したのか」

セリオンは思った。これはたかが一山賊団にできることではないと。

……どうやらこの山賊に関する事件は闇が深いらしい。明らかにこれは闇の魔法使いの仕業だ。つまりこの事件の背後には闇の魔法使いがいる。この熊や山賊団を倒しても事件は終わらない。セリオンは自分が本格的に関与せざるを得ないと感じた。灰熊はセリオンを敵とみなしたらしく、近づいてくる。

灰熊が鋭い爪を繰り出した。セリオンはたやすくよける。灰熊の咆哮ほうこう。セリオンはとっさに手で耳をふさいだ。

「くっ!?」

灰熊の爪。セリオンは後退してよけた。灰熊の灰の息。セリオンは光輝刃を出して灰の息を斬り裂いた。セリオンは雷光剣を発動した。セリオンは一気に跳んで、灰熊に近づくと、灰熊の体に雷光の一撃を叩き込んだ。灰熊は両目と口を大きく開いたまま死んでいた。灰熊は灰色の粒子と化して消滅し、黒いカードも燃え尽きた。

「どうした? これで終わりか?」

セリオンが山賊たちを一瞥いちべつした。どうやらこの山賊たちは殺さず、生かして事情を聞いたほうがよさそうだ。

「ぐう!?」

「こんなバカな!?」

「な、なんでだ!?」

「どけ、俺が出る」

「ナバル先生!?」

(こいつも「先生」と呼ばれているが、闇の魔法使いではないな。傭兵か)

「さきほどの戦いは見せてもらった。すばらしい戦いだった。灰熊を一撃で倒すとはな。では、今度はこの俺がお手合わせを願おうか」

「あんたは傭兵か? 山賊に雇われているのか?」

「まあ、そういうことだ。恨みはないがおまえには死んでもらう」

セリオンはナバルを見てこの男はただものではないと思った。

ナバルは剣を抜いた。ナバルはすばやく斬りこんでくる。セリオンはこの攻撃をガードした。セリオンは斬り払う。ナバルは後退した。再びナバルが斬りこんでくる。セリオンに接近してナバルはセリオンの間合いを封じる。セリオンは蒼気を出す。セリオンは蒼気でナバルを攻撃した。セリオンの重い攻撃がナバルを追いつめる。その時、茂みからボウガンで狙いを定める男たちがいた。

「クックック! 奴らが戦いに集中している今がチャンスだ。このボウガンでぶっ殺してやるぜ!」

それはアギトであった。ジュリアンはそれに気づいた。

「させるか!」

ジュリアンはアギトに向かって石を投げた。

「ぐはっ!?」

「「!?」」

アギトが茂みから出てきた。

「いてえ! てめえ、何しやがる!」

「こいつは二人が戦っている隙にボウガンで射殺しようとしていたんだ!」

「それどころか、そいつの狙いは俺を狙っていたようだな……」

とナバル。

セリオンとナバルは離れ合った。ナバルはアギトを見た。ナバルは剣をさやに収めた。

「どういう気だ?」

セリオンが尋ねる。

「こいつらは好きにしろ。俺は去らせてもらう」

そう言うとナバルは姿を消した。セリオンはアギトに大剣を突き付けた。

「どうする? 俺と戦うか?」

「ははは! あの灰熊を一撃で倒しちまうような奴に、この俺がかなうわけないだろ。降参だ」

アギトは両手を上に上げた。

「ジュリアン! こいつを縄でしばれ!」

「ああ、わかったぜ」

ジュリアンはアギトを縄でしばった。

「そいつをそのままリントグレーンに連れて行こう。アジトに行くのはそれからでも遅くはない」

「ああ。エレーネ! 大丈夫か!」

「ジュリアン!」

「エレーネ、よかった。無事で……」

「ジュリアンこそ、無事でよかった」

セリオンたちはアギトを自警団に引き渡した。その後、自警団は山賊のアジトを捜索したが、めぼしいものは見つからなかった。

奇妙な事件だった。アギトは何でもしゃべった。まるでアギトからなんでも聞いてくれと言わんばかりだった。

どうやら、アギトからの情報では山賊のボスはマウリタニア Mauritania 公国に向かったという……

それも「城を盗む」つもりだと…… 

セリオンとエスカローネはジュリアンと別れてマウリタニア公国の首都エストリア Estoria へと向かうことにした。




「アルベルト! これはいったいどういうつもりだ!?」

マウリタニア公国公王マウリキウス Mauricius が叫んだ。

「別になんでもありませんよ、おじ上。おじ上には公王を引退していただき、私が公王となるのです。ゆえにおじ上には玉座を離れてもらいましょうか」

アルベルト公爵が言った。

マウリタニア城は、山賊団によって占拠された。ボスのシレヌス Sirenus をはじめ、山賊たちは闇の魔力を得ており、公国の騎士たちを圧倒した。マウリタニア公国は完全に不意を突かれた。山賊たちはアルベルトが手引きした。アルベルトは山賊たちに王族が使用する秘密の水路を教えて、山賊たちを城の中に招き入れた。山賊たちの奇襲は完璧だった。それゆえ、騎士たちはしぶしぶ城から撤退することになった。

「アルベルト様よ、どうやら騎士団は城の外れに逃亡したらしいぜ?」

「ああ、そうらしいね。フフフ…… これでぼくの邪魔をする奴は存在しなくなったわけだ。おじ上には牢屋にでも入っていただいて、公王の座はぼくのものだ」

「アルベルト様よう、俺たちの報酬…… 特別手当は忘れてねえだろうなあ?」

「フフ、わかっているさ、シレヌス。君たちには確かに報酬を受け取る権利があるからね。それに君たちを新しい騎士として取り立てよう」

「ははは! それもこれも『先生』の力のおかげですな。『先生』がいなかったらここまでできなかったに違いない」

「その通りだよ、シレヌス。ぼくは先生に感謝しているさ」

アルベルトは玉座に近づくと、そこに座った。そして脚を組んだ。

「計画通りだ。何もかも。ここまで計画通りだと少し物足りないな」




セリオンとエスカローネはバイクに乗って、マウリタニア公国の首都エストリアにやってきた。道路はすべて舗装されていた。

「ここから見た限りでは城はなんともなさそうだが……」

「そうね。でも、ほかの人にも聞いてみましょう。何かわかるかもしれないわ」

「そうだな」

セリオンはバイクは閉まって、徒歩で行くことにした。そこで、セリオンは道具屋の店員に事態を聞いてみることにした。

「すみません」

「はい、なんでしょうか?」

「今、城で何か起こってますか? 例えば反乱とか…… ?」

店員は表情を曇らせた。

「?」

「その、城は山賊に占拠されたようです」

「城が占拠された!?」

「はい、アルベルト公爵が謀反を起こしたようで、公王様はとらわれてしまったようです。騎士団は城から退避したもようです」

「そうですか…… ありがとうございます」

セリオンはエスカローネのもとに戻った。

「どうだったの?」

「ああ、最悪の展開だな。城はもう落ちたらしい」

「城が!?」

「ああ。このまま城に行かなくてよかった」

「それで、これからどうするつもり?」

「そうだな。ひとまずは騎士団と接触しよう」

城にいた公国の騎士団は城下町の宿屋を拠点として今後の対応を協議していた。

騎士団長の名はヒューベルト Hyybert といった。騎士たちは混乱していた。いきなり、山賊が城に出没したかと思うと、城は一気に落とされてしまった。どうやら内通した貴族がいたようだが、城を奪還できるめぼしはまだついていない。ヒューベルトが言う。

「まったくわからん! いったい今はどういう状態なんだ!」

ヒューベルトは長机を叩いて怒りをぶちまけた。机の上には城の見取り図があった。

現在、騎士団は城のスパイから情報を集めている最中だった。

「団長! 至急、ご報告を申し上げます!」

「どうした?」

「はっ! 山賊を城に招き入れたのはアルベルト公のようです」

「アルベルト公?」

「それにアルベルト公の近くには、闇の騎士がいたとのことです。そのものは『先生』と呼ばれているそうです」

ヒューベルトはまた図面を眺めた。

「どうやら、手を焼いているようだな」

「誰だ?」

入口近くにセリオンとエスカローネが現れた。

「俺はセリオン・シベルスク」

「私はエスカローネ・シベルスカ」

「俺たちは夫婦なんだ」

「…… それで、おまえたちは民間人か?」

「違うな。俺たちはテンペルの戦士だ」

ヒューベルトの顔が少し明るくなった。

「テンペルだと? どこかで聞いたことがある。確か、宗教軍事組織だったな? 聖堂騎士団を保有していると……」

「話がわかってくれて助かる」

「それで、おまえたちは何がしたいんだ?」

「簡単なことだ。俺たちは城の中へと攻め入りたい」

「なんだと!?」

「できれば、詳しい事前情報や策、作戦などを詳しく聞かせてもらいたいんだが……」

「…………」




セリオンは騎士たちと共に城に突入した。抵抗はあっさりと粉砕された。山賊たちは防御は不得手だった。

なのか簡単に瓦解した。騎士たちは山賊たちを次々と屠って行った。セリオンも何十人もの山賊たちを倒した。そのセリオンの前に山賊のボス・シレヌスが現れた。

「よくも俺のかわいい部下たちを殺してくれたな! その落とし前はつけてもらうぜ!」

「城を盗むなんて、山賊には誇大妄想だ。その報いを受けろ」

シレヌスは剣を抜きながら。

「フン、言うじゃねえか。俺も山賊団のかしらだ。俺と手合わせしてもらうぜ!」

「来い、相手になってやる」

「ヒャッホー! そらそらそら!」

シレヌスは剣でセリオンを何度も打ちつけた。セリオンはそのすべてをガードした。セリオンは大剣を振り上げた。シレヌスはそれを見てガードした。セリオンの斬撃がシレヌスに振り下ろされた。

「はっ! そんな攻撃!」

セリオンの攻撃はシレヌスの剣を折り、シレヌス自身をも斬りつけた。

「なっ!? がはっ!? こんなバカな!? バカなことが……」

シレヌスは倒れそして死んだ。セリオンは玉座の間に向かった。そこには悠然と構えるアルベルトがいた。その隣に、一人の闇の騎士が立っていた。

「フッフフフフ! よくもやってくれたね! 君たちのおかげで部下の騎士にするはずだった山賊たちが倒されてしまったよ。でも、所詮は山賊ということなのかな。山賊無勢が正規の騎士団に勝てるはずがないからね……」

アルベルトは髪をかき上げた。

「もう終わりだ。あきらめて投降しろ」

セリオンがアルベルトに大剣を突き付けた。

「フッフフフフ! それはどうかな? そうだよね、ガレス Gares ?」

「ガレス?」

「紹介しよう。彼は闇騎士ガレス。闇の技の使い手だよ。さあ、ガレス! 今こそ君の力を見せる時だ!」

ガレスはアルベルトに近づくと、斧――バトルアックスでアルベルトを斬りつけた。

「ぎゃはっ!? ガ、ガレス!? 何を!?」

「もはやおまえに用はない。死ぬがいい」

「いっ、いやだ! ぼくは死にたくない! 死にたくな…… !?」

ガレスはアルベルトの頭に斧を叩きつけた。アルベルトの頭から血が吹き出る。

セリオンはあっけにとられた。

「どういうことだ? おまえは自分の主君を殺したんだぞ?」

「フフフ…… 闇の理にそのような法はない。それに私は仕えていた覚えはないな。私はアルベルトを利用していたのだ。そして用がなくなった今、アルベルトを始末したのだ」

「つまり、今回の首謀者はおまえということか?」

「フッ、その通りだ。山賊を利用したのも、アルベルトをそそのかしたのも、すべてはこの私だ。セリオン・シベルスク、青き狼よ」

「! 俺のことを知っているのか?」

「フッ、もちろんだ。だが、こうしておまえと出会えるとは思わなかったがな。我ら闇の者への敵対者よ」

ガレスは懐から闇の宝石を出した。

「私は慎重な性格でね。おまえと戦うのに何のサポートもいらぬと考えるほど傲慢ではない。さあ、闇の呪法よ!」

闇が地面から噴出し、城全体を取り巻いた。セリオンは即座に違和感を感じた。

「!? これは!?」

「フフフフフ…… これは敵の力を半減させる呪法だ。このフィールド内では、すべての敵の力が半減する!」

ガレスは頭のマスクから漏れる口から笑った。

「さあ、どうする、セリオン・シベルスク? このままこの私と戦うか? 戦えるのならの話だが?」

「ちっ!」

セリオンは玉座の間から走り離れた。そのころ、ヒューベルトたちも自身の力に異常を感じていた。

「おかしい…… 力が失われた、そんな感じだ……」

「ヒューベルト!」

「セリオン殿!」

「闇の呪法が発動された。今すぐに騎士たちを退避させるんだ! このフィールドの中では俺たちの力は半減してしまう!」

「なんと!? それでは仕方がない…… 城の陥落を目前として撤退せねばならぬとは…… 総員退避! 退避だー!」

ヒューベルトは撤退の合図を出した。




仮の騎士団本部にて。騎士たちはどうすれば城に再突入できるかを考えていた。その中にはセリオンもいた。

「どうにかして闇の呪法を破らない限り、城の奪還は不可能だ。さて、どうしたものかな……」

みなが沈黙に沈んだ。

「魔法が問題となっているとなると、その道のプロに任せてみるのがいいかもしれませんな」

とヒューベルト。

「その道のプロ?」

「はい。このエストリアにはサラ Sara という錬金術師がいましてな。彼女に頼めば、闇の呪法を破るアイテムを作ってくれるかもしれません」

「錬金術師のサラか。今はそれしか道がないな。わかった。俺が行ってくる」




「ここがサラ先生の家か。本人はいるだろうか?」

「そうね、セリオン。でも、人気ひとけは感じられないわ。ご留守なんじゃないかしら?」

「そうか、残念だな」

「何が残念なんだ?」

「!? あなたは?」

セリオンは後ろを振り返った。そこにはセミロングの髪を前に垂らした大人の女性がいた。錬金術師としての職業柄かローブを着ていた。

「私が誰かよりも、おまえたちこそ誰なのだ?」

「失礼しました。俺はセリオン・シベルスク。テンペルの騎士です」

「私はエスカローネ・シベルスカ。テンペルのヴァルキューレです」

「シベルスク? シベルスカ?」

「姓に男性形と女性形があるんです」

そうセリオンが説明した。

「なるほど。それは興味深い。私はサラ。エストリアの錬金術師だ。君たちがどういうわけで、私のもとを訪れたかはおいおいゆっくりと聞くとしよう」

セリオンとエスカローネは、サラに案内されて家の中に入った。彼女の家の中はキテレツな発明品が部屋の中に無造作に置かれていた。

「まずは茶を出すから、ゆっくりしていてくれ。あとは適当に座ってくれていい」

サラは奥の部屋に出て行った。セリオンとエスカローネはテーブル前のイスに腰かけた。

「そら、紅茶を入れてきたぞ」

サラは洗練された動きで、ティーカップをテーブルの上に置いた。

「うわあ…… いい香りですね」

とセリオン。

「おいしそうです」

とエスカローネ。

「フフ、ありがとう。で、どうして私のところに来たんだ?」

「それはですね」

セリオンはサラのもとを訪れた理由を話した。

「なるほどな…… 闇の結界か…… 確かにそれを破るには魔法のアイテムが必要だな」

サラはカップに口をつけた。

「それで、何か対策はありますか?」

「そうだな…… 光のタリスマンを作れば闇の結界の効果を無力化できるだろう。ただ……」

「ただ?」

とエスカローネ。

「タリスマンの本体になるクリスタルと、それを身につけるためのひもが必要だな。どちらもエストリア市内で売っているぞ?」

「…… つまり、それを買ってくる必要があるわけですか?」

「その通りだ」

「…………」



セリオンはまず宝石屋に行った。そこで魔力付加価値の高いクリスタルを注文した。そこでクリスタルを手に入れると、ついでにアクセサリー屋に行き、高価なひもを購入した。

二つとも必要な品が手に入ると。セリオンはサラの錬金術屋リヒト・ホーフ Lichthof を再び訪れた。

そしてセリオンはクリスタルとひもをサラに渡した。

「うむ…… これがあれば光のタリスマンを作ることができるだろう。ではしばし席を外す」

サラは客間の奥にある錬成室で作業を開始した。錬成室からは強烈な光が窓から漏れてきた。

「うっ! すごい光だ。光のタリスマンか…… 無事に完成するといいが……」

「できたぞ! これが光のタリスマンだ!」

サラは嬉しそうにやってきた。セリオンはタリスマンに目をやった。タリスマン本体であるクリスタルから光があふれている。

「聖なる光の波長を感じるわ。セリオン、これならきっと闇の結界に対抗できるわ」

セリオンはさっそく光のタリスマンを身につけた。

「すごいな。光に守られているように感じる…… これならいける!」

「ああ、それと」

「なんでしょうか?」

「報酬は国に請求するから気にするな。さあ、すぐに城に向かうといい。いい仕事をさせてくれたことに私は感謝する」




セリオンは再び城に侵入した。光のタリスマンは効力を発揮し、闇の結界の影響を遮断した。

セリオンはガレスのもとへと急いだ。その途中でセリオンは生き残りの山賊たちと出会った。

「これは……」

山賊たちはいずれも理性を失っていた。これは「狂化きょうか」によるパワーアップである。すべての能力が強化=狂化きょうかされているが、それと引き換えに理性を失っているのである。

「これもガレスの仕業か…… まあいい。相手になってやる。身体強化!」

セリオンは全身の運動性を強化すると、一気に山賊たちのあいだを駆け抜けた。もはや山賊たちが正気に戻ることはない。強大な闇の力による代償だからだ。山賊たちは獣のような叫び声を上げて、バタバタと倒れていった。

セリオンはガレスのもとへとやってきた。ガレスは玉座に座っていた。

「ほう…… 意外と早くやってきたようだな。フッフッフ! 私の術を無力化できるアイテムを手に入れたか…… いいだろう。この私が直々に相手になってやろう!」

ガレスは斧を構えた。セリオンは大剣を構えた。

「闇の支配はここで終わらせる! 勝負だ! ガレス!」

「フッ、違うな。闇こそが真に支配する理なのだ! 影出かげいで!」

闇が波となりセリオンへと向かった。セリオンは光の大剣でそれを突き刺し、迎撃した。

ガレスはセリオンに接近してきた。ガレスは斧でセリオンの大剣を打ちつける。

セリオンはすべてをガードして防いだ。

闇黒斧あんこくふ!」

ガレスは闇をまとい攻撃してきた。セリオンは光の大剣「光輝刃」でガレスの斧を受け止めた。

ガレスの「闇力」。

闇のエネルギーがドーム状に広がった。セリオンはとっさに跳びのいてかわした。

ガレスは斧に闇をまとわせて、暗黒の斬撃を放った。セリオンは光波刃でそれに対抗した。

邪法陣じゃほうじん!」

地面から闇のエネルギーが噴出する。これはガレスの最強の攻撃だった。

「くううううう!?」

セリオンは大剣を上にかかげた。そして光を輝かせた。

「さて、どこまで耐えられるかな?」

ガレスがほくそ笑んだ。

セリオンは光の大剣を地面に突き刺し、邪法陣を相殺しようとした。

セリオンの目論見通り、邪法陣は収まった。

「くらうがいい! 闇黒波斬!」

「光波刃!」

セリオンは光の刃を放って闇黒波斬を迎撃した。セリオンは蒼気を放出した。その蒼気をセリオンはガレスに叩きつけた。ガレスが後退した。

「逃がすか! 蒼波刃!」

セリオンは蒼気の刃を放った。ガレスの斧が火花を散らす。セリオンは蒼気でガレスをじわりじわりと追いつめる。

「フッフッフ! まさか、この私をここまで追い詰めるとは思わなんだぞ? いいだろう! その力に免じて、我が真の力をきさまに見せてやろう!」

ガレスを闇が覆った。闇は膨張し、巨大な姿に変わった。

ガレスは巨大な四つ足の四肢を持つ、怪物と化した。ガレスの上半身が獣の体の上に乗っかていた。

ガレス・マグヌス Gares Magnus である。

ガレスは両手で斧を振るい、闇黒波斬・凶を出した。闇の斬撃の刃がセリオンへと向かう。セリオンは二発の光波刃でこの攻撃を破った。ガレスの闇黒斬・連撃。

セリオンは光輝刃でガードした。ガレスの前足による爪の攻撃。セリオンはダッシュでよけた。

セリオンは光輝刃でガレス本体を攻撃した。ガレスは闇黒斧で対抗した。

「これで、終わりだ! 邪法陣・凶!」

ガレスは地面からすさまじい闇の奔流を噴き上げた。セリオンは光の大剣を上にかかげ、最大限、光を増幅し、地面に突き刺し、闇を霧散させた。

「ええい、しぶとい奴め! とどめを刺してくれる! 邪星滅弾じゃせいめつだん!」

ガレスが闇属性大魔法を発動した。闇の強烈な弾がセリオンに打ち付ける。

セリオンは弾幕の中に隠れてしまった。セリオンはとっさにその中から跳びだした。そしてガレス本体に向かって光子斬を放った。

「なっ!? ぐはああ!? バカな…… この私が倒されるなど……」

ガレスは倒れて人の姿に戻った。




ガレスが死んだことで、闇の結界もまた同時に消滅した。すぐさまセリオンは騎士団にガレスの死を告げた。騎士たちは牢屋につながれていた公王を助け出した。

セリオンとエスカローネは謁見を受けた。王は玉座に座った。

「こたびのほど大義であった。その功に報いたいと思うのだが、何か望みはあるかね?」

「いえ、陛下。私はただ偶然に闇の者たちの陰謀を知り、それを阻止したまでです。私たちは見返りを求めて戦ったわけではないのです。ただ……」

「ただ?」

「カネに目がない錬金術師が国を相手に錬成費用を請求してくると思うので、お気を付けください」

「ほっほっほ! わかった。その支払い、済ませてみよう。ところで、もう去るのかね? 今夜は城で晩餐会がある。そなたたちにはぜひ出席してもらいたいのだが……」

「私たちはもう発ちます。私たちはある人物を追っているのです。今回はずいぶんと時間を取られてしまいました」

「そうか…… では良き旅になることを我らも祈っていよう。神が君たちと共にあるように」

そうしてセリオンとエスカローネはエストリアを去った。

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