#1「曼陀羅華」
「・・・ッ!クソクソクソクソ!!!」
「なんでいつも大事なところで・・・!」
木魚の音が頭に響く。煩い。
「あれ、何してたんだっけ。思い出せねぇ。」
「・・・あぁ、まだ話の途中だった。」
『〇〇だったこと。』
またこの音。さっきよりも強い。五月蠅い。
深い眠りについていた気がする。何か言いかけた気が、気のせいか。
「はぁ。」
「なんか、気持ちわりぃ夢みてた気がする。」
夢の内容はうまく思い出せない。当たり前だ。
「いつもみたいにすぐ帰ってきてよ。」
「心配するでしょ。」
ベットの側で微笑みながら泣く女に困惑した。
「おかえり、漣音。」
彼女は嬉しそうだった。
「ただい、」
「あっぶね、普通に返事するところだった。」
知らないやつなのに。
「誤るな。」
「!!!」
知らない声、多分。
気味が悪い女の子の笑い声がする。余計に腹が立つ。
「じゃあ何が正解なんだよ!!!!!!」
何を言ってるんだ。俺は誰と会話しているんだ。
「漣音、大丈夫?」
我に返った。誰に怒ってるんだ。誰と話してるんだ。
起きてからというもの、全く状況が分からない。疲れてるな。
「悪い、もう少しだけ寝させてくれ。」
誰かもわからないが、今は頼ろう。
悪い人じゃない、きっと。
「雀華、忘れないでね。」
突然の自己紹介。
何の匂いだ。香水?俺の好みじゃない。
「ありがとう、雀華。」
そうしてまた眠りについた。
貧乏ゆすりが悪い癖の彼女の隣で。