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ゴブリンガールはガチャを引く!  作者: 仲良しおじさん
メインクエスト【スマホを失くす!】編
62/251

第61話 ゴブリンガールは赤面する!

挿絵(By みてみん)



「返してほしいの? しょうがないなぁ。ならあげちゃう~。はい♡」


 アルチナはアタイに向けて軽くスマホを放った。

 ……ように見えたが、彼女の手を離れたスマホは矢のような速さで飛んで、目で追うこともままならぬままアタイのお腹に直撃した。


「うげえっ!?」


 衝撃で数メートル吹き飛ばされるアタイ。

 跳ね返ったスマホは引き寄せられるようにして再びアルチナの手の中に戻る。


「もう~。ちゃんと受け止めなくちゃダメじゃない。せっかくパスしてやったんだから~」

「ぐう……!」


 痛みで悶絶するアタイにアルチナはわざとらしく気の毒そうな顔を作ってみせる。


「痛かったよね~? レベル2のクセに調子に乗っちゃうから~。このパーティに回復師でもいればよかったのにね~」


 ん?

 まてよ……?


 アタイははたと気付く。

 アルチナがアタイに掛けたトリック魔法は「口に出した魔法名が自分に向けて発動する」というもの。

 その条件なら発動するのは攻撃技に限らないはずだ。

 こんな簡単なことにどうしてもっと早く思いつかなかったんだろうね!


 アタイはすっくと立ち上がると不敵な笑みを浮かべてやった。


「フフフ、あんたの魔法を逆手に取ってやるからね! いくよ! 『ケアキュア』!」


 『ケアキュア』とは一般的な回復魔法だ。

 これで傷は癒え、アタイに掛けられた厄介なトラップも解けるという一石二鳥。

 おまけにアルチナの奴をギャフンと言わせることもできる。

 どうだい、ザマア見な!


 ……だけど、一向にお腹の痛みは取れてくれない。

 あれ?

 名前を言い間違えたのかな……?


「ケアキュ……」

「アハハハハ! 一度手の内を晒した術をバカ真面目に何度も掛けるワケないでしょ~! あなたにはフリをしただけよ~! も~ゴブ子ちゃんってば純真なんだから!」


 なっ……!?

 ただのパフォーマンスだったってのかい!

 ならアタイは何のために口にテープを貼られて3話分を黙って過ごしたんだよ!


 悔しさと恥ずかしさで顔が真っ赤になるアタイ。

 くう~……!


 アルチナは腹を抱えて爆笑している。

 ――――そのとき、黒い人影がアルチナに急接近し、その横っ面に素手の一撃を放った。


 バキッ――――!


 アルチナはフラリと体勢を崩して背後の壁面に体を打ち付けた。

 その頬は赤くなり、顔からは笑みが消えている。

 油断していたにしても、あのアルチナがストレートを受けるだなんて……。


 彼女を殴り飛ばしたのはシブ夫だった。


「許しません――――!」


 シブ夫の目は完全にガチギレのそれだった。

 場の空気が凍り付いていくのをひしひしと感じる……。


「ふぅ~ん。微々たるものでもこの私がダメージを受けちゃうだなんて。随分と久しぶりだわ。さすがは『異端の勇者』くん」


 笑みが消えたのは一瞬で、アルチナはすぐに元のニヤケ顔に戻る。


「あなたの目的はなんですか?」

「目的~?」

「レベル90を超える伝説級の勇者です。天才的なセンスだけでなく相当の修行も積んだのでしょう。そうまでしてその地位に上り詰めたあなたが、やることは他者への嫌がらせですか」

「そう思う?」

「いいえ。だから真意を訊いています」


 巨大なバターナイフというふざけた姿に変えられた剣を構えて、シブ夫の瞳は真剣そのものだ。

 対してアルチナは力を抜くようにふぅ~と長く息を吐いた。


「人が勇者を目指す理由も、どんな生き様に価値を見出すかもそれぞれで十人十色よ」


 クエストを回って人助けに明け暮れるのも、レアなアイテムを求めてトレジャーハントに精を出すのも、勇者としての在り方のひとつだ。

 メインクエストを消費してレベルを上げ、魔王を倒すだけが勇者の存在意義ではない。


「私はね~、魔王なんかに興味はないの。奴を倒しちゃえばその後はどうなる? 永遠の平和が訪れてめでたしめでたし~。なんて、最高につまらないエンディングよね~」

「本気ですか?」

「本気も本気。ましてやそれを成し遂げるのがこの私自身だなんて、想像してみただけで鳥肌が立つくらい」


 理解できずに眉をひそめるシブ夫。

 だがそれに構わずにアルチナは饒舌で続ける。


「何千年も前から語り継がれて、みんなの頭に当たり前のように染みついている物語。心健やかな勇者が苦難の末に悪の魔王を打ち倒す、なんてね。もうそんなのには飽き飽きしてるの。ここいらであっと驚くような大番狂わせを見たいのよ」

「大番狂わせ?」

「異世界から突如飛来した異端の勇者と、このスマートフォン。ここまで御膳立ての整ったシチュエーションはないでしょ。私が待ってたのはまさにキミよ。ねえ、そうなんでしょ?」

「僕が魔王を倒すことが望みですか?」

「さっきも言ったけど、世界を救うことだけがゴールじゃないの。いろんな結末があっても良いじゃない。ただ、あなたはそのまったく新しい物語を紡ぐ主人公になる資格がある」


 シブ夫は合点がいったようだった。


「資格はあっても、それに見合う男かはわからない。だから僕をテストすると言うんですね」

「その通り~! さあ教えて、浜田シブ夫。あなたは何者? なぜこの世界へ飛んできて、ここで一体何を成すの?」


 ワクワクしながら身を乗り出すアルチナ。

 興奮して返答を待つその姿は無邪気そのものだ。


 誰もが思いつくような平凡な予想を斬新に裏切ってくれる状況を、この女は長いあいだ待ち望んでいた。

 得てしてレベル90の境地とはそういうものなのかもしれない。

 果てしなく長い過酷な道のりの中で、清純無垢な熱い志などいつしか燃え尽きてしまうのだろう。

 それでもなお自分の興味のために勇者業を続けた者だけが達する領域。

 打倒魔王程度のことに満足できる神経ではなくなっているのだ。


 その感情にはまったくもって共感できないけど、この女の言うことは一貫しているのではとも思えた。

 良くも悪くも「かき乱される」ことにしか刺激を感じられない。

 それがアルチナという女――――。


「さあさあ!」


 アルチナはウズウズとして答えを急かす。

 そんな彼女の姿を見て、シブ夫は険しい顔をふっと緩めた。


「スマホの持つ力は無限大です」

「そうね。そうよね~!」

「ですが、それは僕には必要のない物です」

「え……?」


 困惑するアルチナ。


「ならどうして……?」

「すべてはゴブ子さんのため。転生したこの身は彼女のために捧げます」


「……ハア?」




 つ・づ・く


★★★★★★★★


 次回予告!


 シブ夫……!

 あんたって奴は……好き……!

 さあ、ここから転生勇者シブ夫の逆転劇だよ!

 悪の魔女アルチナをギッタギタのメタメタにして肥溜めに放り込んでおしまいっ!


【第62話 ゴブリンガールは解術される!】

 ぜってぇ見てくれよな!



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