第4話 ゴブリンガールは炎を放つ!
虹色に輝くスマホ。
その暴れ狂う光が収束したとき、アタイは自分の身に起きた異変に気が付いた。
「なんじゃこりゃあ!」
アタイの手には長さ1メートルほどのゴテゴテした棒状の器具があり、さらに背中に円柱タンクのようなものを背負っていたのだ。
背中のタンクと手中の器具は何本ものパイプで連結されている。
「ちょっと何コレ! 引き剥がしておくれよ!」
「落ち着くんだゴブ子!」
騒ぎの中でいつの間にかスマホを地面に落としていたらしい。
そのスマホから抑揚のない電子的な声が出る。
【大当たり! SSRのアイテムをゲット!】
ジョニーは恐る恐るスマホを拾い上げた。
「やいシブ夫! これはどういうことか説明してくんな!」
「僕にも良くわかりませんが……。おそらくガチャを引いたんだと思います」
「ガチャあ?」
「僕の世界ではただのゲームでしたけど、こっちの世界ではゲットしたアイテムが具現化するみたいですね」
「錬金術か、はたまた召喚魔術のたぐいか?」
「まあ、そんな感じだと思いますけど……」
それを聞いてアニキは卑しいオークらしく意地汚く笑った。
「こいつはとんでもねえお宝だぜ! おいゴブ子、ジョニー! そのスマホってのと物騒な見た目の道具を俺によこしな!」
「ええ……? でもアニキ……」
「ゴチャゴチャ言ってねえで俺に渡すんだよ!」
そのとき突然ジョニーが悲鳴を上げた。
「ヤッベえ! ゴブ子、さっさとその器具を手放せ!」
「どうしたんだよ!?」
「このスマホの画面にステータス情報ってのが載ってんだよ! その道具の説明文みたいなやつだ!」
~M1火炎放射器(使用推奨レベル93)~
タンク内の液体燃料に着火させ銃口から炎を噴射する携行型陸戦兵器。
「す、推奨レベル93……!?」
「天井ぶち抜きのとんでもチート武器だぞ!」
みんなの背筋が凍り付き、次にガタガタと震えが始まった。
ただし、アタイの震えは恐怖によるものとは違った。
いわゆる武者震いってやつさ……!
「こいつがあればゴブリンだって天下を取れる……!」
「正気かゴブ子!」
「なんですかいオークのアニキ? ビビってんすか!?」
「そういう問題じゃねえ! これは明らかなオーバーテクノロジーだ! 俺たちの手に余るぞ!」
「ならどうしろってんで?」
「そこの人間と一緒にバラバラにして地中深くに埋めんだよ! そして何も見なかったことにする! それしかねえだろ!」
アタイはやれやれとこれ見よがしにため息を吐く。
「へえ、急にイイ子ちゃんぶるんすか。いつもの横柄なアニキはどこへやら」
ジリジリと歩み寄るアタイにおののき、アニキは後ずさりを始める。
「な、何をする気だ……?」
「あんたはオークだからって散々アタイらをいびってくれたねえ。クソザコ低級モンスターのゴブリンとスケルトン……。あんたにはわからないだろう? 永遠にレベル2でくすぶってる憐れなウジムシたちの苦しみが!」
「やめろぉ……!」
アタイは覚悟を決めた。
人差し指に掛かったトリガーを一気に引く!
「ぷんぷんムカ着火ファイヤー!」
ゴオオオオォォォォ!
アタイの手元から噴き上がった炎の勢いたるや!
上級魔法のメガフレアやエクスプロードにも劣らない地獄の業火!
……断末魔の雄叫びすら上げる間もなく、オークのアニキは一瞬にして消し炭と化した。
あっけないもんだね。
あまりの手応えの無さに虚無感すら覚えるほどだよ。
振り返ると、ジョニーは全身の骨をガタガタ揺らしながら震え、シブ夫に至っては失禁していた。
……いや、ちょっと匂うからたぶん脱糞もしてる。
そのとき突然シュワシュワと音が立ち、火炎放射器がアタイの手の上で泡となって消えてしまった。
「ちょっと! なんで消えちまうのさ!」
【消費アイテムは一度使うと失われます。計画的に使用しましょう】
「消費アイテム? そんなの聞いてないよ!」
……しかし、まあ慌てることはない。
このスマホさえあればいつだって最強武器を取り寄せることができるんだからね!
アタイの口から思わず漏れだした低い笑い声。
それは段々と音量を増していき、洞穴中に響く高笑いに変わった。
「さあジョニー! さっさと支度を整えて旅に繰り出すよ! もう外の世界を怖がることもない! なんたってアタイらにはスマホがあるんだからね!」
「旅ったって、本当に魔王の元を目指すのか?」
「そうだよ。そうしてアタイらに定められた『固定レベル』を……」
……あれ?
ちょっと待てよ。
アイテムの推奨レベルが使用者のレベルに依存しないなら、アタイ自身が強くなる必要なんてないワケだ。
レベル2のままでも不自由はひとつもない。
いや、それどころか……。
「もしかしてアタイたち、これ使えば魔王ブチ殺せるんじゃね?」
アタイらのハチャメチャアドベンチャーの行方はいかに!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
レベル2のゴブリンとスケルトンが魔王を倒す?
そんなことが起こったら傑作の笑い話だよ!
だけどそれを実現することができる。
そう、このスマートフォンならね!
と思いきや、アカウントにパスワードに……クレジットカードのセキュリティーコードだって?
ああもう、頭が痛くなってきたね!
【第5話 ゴブリンガールは利用規約を読む!】
ぜってぇ見てくれよな!




