第3話 ゴブリンガールはガチャを引く!
「よう、ゴブ子。ここにいやがったか……」
のったりと穴に入ってきた大柄な男。
オーク……。
それはゴブリンのはるか上位種にあたる魔物。
住む地域や個体による差もあるが、その固定レベルは無論ゴブリンより上だ。
ちなみにアニキはレベル19。
アタイらが逆らおうものなら赤子の手を捻るように潰されちまう!
「ア、アニキ……。一体なんのご用で?」
「しらばっくれんじゃねえや。今日が月末の徴収日だろうが」
フンと鼻を鳴らしたアニキだったが、石柱に縛り付けられて鼻血を流しているシブ夫に気付いてギョっとした。
「なんだソイツは! お前ら一体なにやってやがる!」
「アワアワ……!」
ここでジョニーが機転を利かせてくれた。
「嫌だなあオークのアニキ。気心の知れた友人とちょっとしたお遊びをしてるところですよ」
「俺には遊んでるようには見えねえが……」
「これはちょいとコアなプレイでしてね……。ほら、わかるでしょう? そういう需要と供給がマッチすると、ねえ? うへへ……」
アニキはまるで汚物を見るような目でジョニーを一瞥する。
「おい人間! こいつらの言ってることは本当か?」
「嘘だ! 助けて! 殺される!」
「いや~! ほんと、役に入りきってるねえ! よっ、名演技!」
「これからムチと赤いロウソクも持ってくるとこでさあ。アニキも加わってみます? 新しい世界が垣間見えますぜ……。うぇへへ」
「よせ! 俺に構うな! お前らの趣味に関わりたくない!」
アニキはドン引きして後ずさりしたが、呼吸を整えて落ち着きを取り戻すと本題を切り出した。
「……それで、ゴブ子。最近の羽振りはどうだ?」
「いやあ、それがイマイチで……」
「なんだァ? さばけてねえのか、ウチの商品の圧力釜!」
……いわゆるネズミ講。
アニキの持ってきた胡散臭い儲け話にハメられたのは数か月前のことだった。
美味しいご飯が炊けるという魔法の圧力釜を売りさばき、ついでに会員の勧誘も行う。
そうすれば芋ずる式に利益が膨らんでいく、なんてウマイ話だったはずだ。
よくよく考えればアタイの集落に暮らすゴブリンはわずかに十数世帯。
というかそもそもゴブリンは米を炊かない。
つまりアタイは騙されたってワケさ!
「まあいいさ。お前の業績は関係ねえ。ノルマさえ支払ってもらえりゃな」
「待ってくだせえアニキ! まだまとまった金が用意できてなくて……!」
「ああん? そりゃ聞き捨てならねえな!」
そこでアニキの視線がアタイの手元で止まった。
「なんだその見慣れねえ平べったい箱は?」
「あっ……! それ、僕のスマホ……」
「スマホ? へえ、珍しそうなブツ持ってんじゃねえか」
アニキはアタイからスマホをひったくった。
「見たことのねえ鉱物だな……? 半分ガラスでできてんのか?」
乱暴に扱ったからだろうか、スマホのスイッチが入りパッと画面が光った。
同時に以前聞いた騒がしい電子音も流れ出す。
「うおっ! 光と音が出たぞ! 魔法石か!?」
「いや、それはソシャゲ……」
「ソシャゲだかスマホだか知らねえが、こいつは金になるぜ。質屋に持ってけば5千ゼニはくだらねえな」
「えっ、5千ゼニ……!?」
アタイとジョニーの目の色がサッと変わる。
5千ゼニなんて大金がありゃあ安酒のボトルを何本仕入れられるかわからない。
なんとしても取り戻さねば!
「危ないですぜ! そいつはアニキの言う通り魔法が掛けられてる! 防御魔法だ!」
「まずはアタイらが結界を解除しますから! ひとまずコッチに!」
「魔法? そんなもの掛かってませんよ? それはスマートフォンという携帯用電子機器だし、ソシャゲは無料でできるゲームサービスですよ?」
ご丁寧に解説してくれたシブ夫へお礼に渾身の回し蹴りをくれてやった。
ドゴッ!
「ヘヴン!」
「おうゴブ子。未納金の代わりにこのオモチャを頂戴するぜ。それで勘弁してやらあ。ありがたく思うんだな」
「いやいやアニキ。いやマジでそれ危険なんすよ? 死にますよアニキ」
アタイはアニキの手の中のスマホを掴み、取っ組み合いの形になって睨み合った。
「ほう? 死ぬ? どんなふうに死ぬってんだ?」
「そりゃもうこの世で一番おぞましい死に方っすよ」
「どんなだっつってんだろ」
「全身の穴という穴からなにやらエッティな体液が噴き出して死にますよ」
「なんだそれは! キモすぎだろ!」
「マジでヤバいんすよ実際それで既に5体くらいゴブリン昇天してますからマジで」
アタイたちは互いに一歩も退かない。
まるで両者の視線のぶつかる先に火花が散るような睨み合いだった。
と、もみ合いの中で偶然アタイの指先がスマホの画面をタップしたらしい。
【ガチャを回してみよう! 初回ボーナスで単発ガチャ1回無料!】
電子音のボリュームが一際大きくなり、カラフルな虹色の光が画面からあふれ出す。
「な、なんだあ――――!?」
大暴れする光の渦。
そしてスマホから抑揚のない人工音声が響いた。
【大当たり! SSRのアイテムをゲット!】
光が収まって徐々に視野が戻っていく。
次の瞬間、アタイの手に握られていた物は――――!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
俺様はスケルトンのジョニー!
身も心も懐さえもスッカラカンのジョニーってんだ!
ヨロシクな!
ところでゴブ子の野郎、いつの間に上級魔法を使えるようになったんだ!?
俺の見間違いじゃなけりゃあよ、レベル2のゴブリンが手から炎を出せるワケねえだろォ!
【第4話 ゴブリンガールは炎を放つ!】
ぜってぇ見てくれよな!




