第30話 ゴブリンガールは花火を飛ばす!
いくつもの罠を潜り抜けながらダンジョンの奥へと進んでいくアタイ、スラモン、そしてヒューゴ。
どれだけ時間が経っただろうか。
時折短い余震が石造りの壁を揺らし、天井からパラパラと砂くずが落ちてくる。
「クエストが始まってから丸1日は経過しただろう。おそらくもう第2期調査団は遺跡に入って来てるだろうぜ」
「余震の頻度がだんだん増えていってるンだわ。あんまり地下へ下りすぎると外へ戻る時間がなくなるンだわ」
「そうだよ。トレジャーハントはここらで打ち切りにして、はぐれたジョニーやクソエルフと合流した方がいいんじゃないか?」
アタイとスラモンは撤退を促すが、それをシカトしてヒューゴはずんずん前に進んでいく。
「ここまで来といて手ぶらで帰れだあ? んなことしたら勇者の名が泣くぜ」
「手ぶらじゃないンだわ。お前背中に山ほど財宝抱えてンだわ」
「こんなもんはどれもクズアイテムだ。それより見てみろ。到着したぜ」
ふいに廊下の先に開けた空間が現れた。
中央になにやら不格好な大岩が置いてあるだけで、他に目ざとい物はない。
「次へ進む扉もないようだね。ここで行き止まりかい?」
「骨折り損なンだわ」
「なに言ってんだ。お宝は目の前にあるだろ」
ヒューゴが顎で示すのは例の大岩。
と、突如地響きを起こしてその大岩に亀裂が走った!
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
「な、なんだこりゃあ……!」
大岩は少しずつ変形していき、最後には巨大な人型に変形した。
この岩はゴーレムだったのだ!
~ゴーレム(討伐推奨レベル60)~
岩と泥で作られた頑強な巨人。
何者かが操作するほか、神聖な地を護るよう自動的に働く守護兵。
「この遺跡に眠ってる文明がいつ滅んだのかは知らないが、当時からずっとこの地を護り続けてきたんだろうな」
「こいつの主人はとっくの昔にミイラになってんだろ? ならもう戦う必要はないって教えてやんなよ!」
「冗談言うな。こいつは戦うためだけに作られた泥人形だ。止めるにはぶっ壊すしかないぜ」
ゴーレムは雄叫びのような轟音を上げて図太い腕を地面に突き立てる!
すると衝撃で地面が盛り上がり、それは線状に波及してアタイらへと向かってきた!
「やべえ!」
アタイとスラモンは慌てて逃げたが、ヒューゴはその場を一歩も動かない。
丸盾を構えて地砕きの軌跡を目でじっと追っている。
「見切った!」
地割れがヒューゴの盾に直撃したとき、ガツンとスパークが飛び散った。
すると地割れが跳ね返って今度はゴーレムへと一直線に戻っていく。
ドオオオン……!
返ってきた自分の攻撃をまともに受けてゴーレムは砂埃に包まれる。
「……地味な盾使いの最大の晴れ舞台ってのはいつかわかるか? 華麗にカウンターを決めたときだよ!」
何が起こったってんだい!?
ヒューゴの盾は特注だといったが、ゴーレムの攻撃に耐えるどころか跳ね返しちまうなんて!
……だけどそれで終わりじゃなかった。
徐々に埃が晴れていくと、何事もなかったように無傷で立つゴーレムの姿が現れた。
ヒューゴは苦虫を潰す顔をした。
「……あれ? 誤算だったな。大抵はこれでうまくいくのに」
「どうしたってんだい?」
「いや、あのゴーレム……。どうやら自身の攻撃力より防御力の方が上回ってるようだ」
「つまり、どういうことなンだわ?」
「いくらカウンター決めても倒せないぜ、あれは」
ざっけんな!
これのどこが合理的な戦術スタイルだよ!
盾勇者の戦法なんてのは欠陥だらけじゃないのさ!
次々と地砕き攻撃を繰り出すゴーレム。
負けじとヒューゴもそれを弾くが、一向に攻防が終わらない。
「ええい! こうなったらガチャを引くよ!」
アタイのタップで虹色に輝き出すスマホ。
来たれSSRアイテム!
課金フルパワー、メイクアーップ!
~ロケット花火(使用推奨レベル14)~
導火線に着火すると筒から花火が飛び出す玩具。
地面に垂直に立てて空へと打ち上げて遊ぶ。人に向けないよう気を付けよう。
「ロケットだって? なんだか久々に使えそうなのが出てきたね!」
「でもステータス情報には玩具って書いてあるンだわ。あんまり期待はできないンだわ」
フン!
そんなもん使ってみりゃわかることだよ!
アタイはさっそく導火線に火を点けて、注意書きを無視してゴーレムへと筒を向けた。
「たぁまや~!」
ドヒュンと音を出してアタイの手から飛び出した花火!
それはゴーレムをかすめて奥の石壁にぶつかり、跳ね返ってあらぬ方向へ飛んでいく。
何度か天井や壁にぶつかっては軌道を変え、最後はアタイの方向へと戻ってきた。
「ちょ、えっ……?」
ロケット花火はアタイの腹にクリティカルヒットした。
「ぐべえぇ……!」
――――室内で花火を飛ばすと壁に跳ね返って危険だよ!
良い子は絶対にマネしないでね!
「大丈夫かゴブ子?」
「ぐふ……。いや、ギブギブ。もう帰りたい」
ゴーレムはまるであざ笑うようにアタイを指差してガラガラ音を立てている。
感情のない泥人形にまでバカにされちゃおしまいだよ!
――――そのとき、どこからともなく弓矢が飛んできてゴーレムの足元の地面に突き刺さった。
思わず怯むゴーレム。
「あなたたち! 何やってるの!?」
アタイらの背後から凛とした声が響く。
振り返ると長いポニーテールを揺らした弓使いのシルエットがあった。
「戦いに夢中で余震に気付かなかったの? もうタイムリミットまで時間がわずかだわ。その敵は放っておいて脱出するわよ!」
この気の強い優等生みたいな喋り方、覚えがあるね……!
「スージー!? どうしてあんたがここに!」
※スージーについてはメインクエスト【クエストをこなす!】(第13話~)を参照。
「ゴブリンガール? またあなたなの……?」
一瞬表情を曇らせるスージー。
なんだよその目は!
アタイと再会するのが嬉しくないってのかい!
こっちだってあんたなんか願い下げだよクソ女!
ブチ切れるアタイの隣でヒューゴは固まったままスージーをまじまじと見つめている。
ああん?
こいつはどうしたってんだい。
「カ、カワイイ……!」
ポツリと呟いたその一言をアタイは聞き逃さなかった。
「オイこらヒューゴ! 一目ボレなんかで放心してる場合じゃないだろ!」
「えっ……? あ、いや! 俺は別に!」
「こいつ顔が赤いンだわ」
「さっきから何をゴチャゴチャやってるの! 聞こえなかった? 外に出るのよ!」
だがそんなアタイたちの前にゴーレムが立ちはだかる。
「こいつをどうにかしないと逃がしちゃくれないみたいだね……!」
さあ、アタイらは果たしてゴーレムを倒せるのか?
そして次の大地震が起こるまでにダンジョンから脱出できるのか?
レイドクエストはまだまだ終わらない!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
どぅ~もぉ! ア〇ゴですぅ!
マ〇オくんがやたらと行きつけの銭湯を聞いてくるもんで、会社帰りに寄っていったんですよぉ!
そしたら大はしゃぎったらなんの!
速攻で年会パス買っちゃう始末!
どうやら相当な銭湯好きだったらしいねぇ!
でも後で知ったんだけど、どうやらそこは有名なハッテン場だったようで……。
狭いサウナに男二人、何も起きないはずもなく……。
さぁて次回は!
【入って、どうぞ】
【アイスティーしかないけどいいかな】
【まあ多少はね?】
の3本です!
来週もアッー!




