第2話 ゴブリンガールは拷問する!
~そよ風街道外れの洞穴(探索推奨レベル2)~
『そよ風街道』を逸れた小森の中にひっそりとたたずむ小さな洞穴。
そこはアタイのマブダチ、スケルトンのジョニーの寝床だ。
「ジョニー! いつまで寝てんだい! ゴブリンガールのお出ましだよ!」
「うるせえなゴブ子! 俺は夜行性だって何度言ったらわかるんだ!」
穴の奥から現れたのは動くガイコツ。
言わずもがな、スケルトンもモンスター界では底辺に位置づけられている。
固定レベルはゴブリンと同じく2。
勇者のチュートリアルで夜間戦闘をするときの的としてくらいしか出番がない。
「ゴブ子、また安酒でも煽りに来たのかよ?」
「そんなことよりよっぽど刺激的な体験ができるよ!」
アタイはここまで引きずってきたシブ夫をその場に投げ出した。
この新米勇者は依然として気を失っている。
「おいおい、なんだコイツは! 厄介事は御免だぜ!」
ジョニーはシブ夫を見て露骨に顔をしかめた。
「人間じゃねえか!」
「ただの人間じゃない。勇者だよ」
「勇者ぁ!? もっとヤベえだろ!」
「安心しな! バグかなんかでこいつにはまともな装備もアイテムも無い。おまけにレベルは1のまま。アタイらみたいなザコにすら敵わないよ」
「にしてもよぉ……!」
ブツクサ文句を言うジョニーを促してシブ夫を洞穴の奥へ運び、適当な石柱に縛り付けた。
「完全に飛んでるな。お前一人でやったのか?」
「まあね。数発殴っただけで情けなく伸びちまったよ。しかし、勇者を倒したってのにアタイには少しもEXPが入らない。ふざけた話だよ」
アタイもジョニーも固定レベルは2。
経験値を得ても今以上に強くなることはできないのだ。
「モンスターごとに規定のレベルを設けるなんて、毎度ながら魔王の奴はワケのわからない仕様を作りやがるね! イライラするよ!」
「まぁたいつもの愚痴が始まったぜ」
そこでシブ夫が目を覚ました。
「はっ! ここはどこ? え、僕は誰……?」
「うっせー!」
無情にもアタイのグーパンがシブ夫の顔に飛ぶ。
ゴスッ!
「ぶべらぁ!」
「やい新米勇者! あんたの態度次第じゃもう一度ぶっ殺して二度目の転生を体験させてやってもいいんだからね! もっとも、次にたどり着く世界の方がここよりマシかもしれないけどねえ……!」
「ヒイィィ!」
すごむアタイをジョニーが止めた。
「ヤベえだろゴブ子! もしこいつにパーティメンバーがいたら報復でボコボコにされっぞ!」
「ビビってんのかいジョニー? さっきも言ったろう。こいつには何も無いんだよ。仲間もアイテムもね!」
シブ夫は動くスケルトンを見るのが初めてだったらしい。
ジョニーが喋ったのを聞いて再び悲鳴を上げた。
「ガ、ガイコツが口をきいた! バケモノだあ!」
「はあ、バケモノ? そいつは俺のことかい?」
ジョニーは思わず顎をカタカタ鳴らして笑った。
「たかがレベル2のゴブリンとスケルトンを見て泣き叫ぶとはな! いいかいボウズ。こんなのは悪夢の内にも入りゃしねえ。これから俺が本物の地獄ってのを見せてやるよ……!」
そう言うとジョニーはおもむろに両手を挙げて頭の上で組み、なまめかしく腰を振り始めた。
始まった……!
アタイは呟いた。
ジョニーの見せる妖美なツイスト!
そこかしこの関節がカラカラと旋律を奏で、それが洞穴の壁に反響してビートを刻む!
まさに天然の360°サラウンド!
その軽妙なリズムに自然とアタイの肩も揺れ始める。
「ヒュー!」
「Oh Yes!」
流れのままにアツいステップに身をゆだねる。
そう、今やこの洞穴はアタイらだけの特設ディスコ。
誰にも止められない。止められっこない。
拷問もそっちのけで心ゆくまで情熱的なダンスに没頭したのだった。
「ふぅ~↑↑」
「アゲ。アゲ。」
「……あの~。そろそろ気は済みましたか?」
「ああん!? うるさいね!」
すごすごと口を挟んだシブ夫に再びアタイのグーパンがお見舞いされる。
「ところでよぉ、ゴブ子。こんな臆病者を拘束したところでどうするってんだ?」
「ふふん。腐っても勇者は勇者。利用価値はあるだろう」
「どんな価値があるのかねえ?」
アタイは満を持して胸の内に秘めていた計画を打ち明けた。
「こいつを手土産に魔王を訪問する」
「魔王を? 正気かよ! それで褒美でももらうつもりか?」
「金塊なんかに興味は無いね! アタイの目的はただひとつ! モンスターに課せられた『固定レベル』の撤廃を進言するのさ!」
『固定レベル』の撤廃。
それさえ実現すればどんな底辺モンスターでも努力次第で成り上がれる。
チャンスを掴めばうだつの上がらない噛ませ犬から脱却できるんだ!
この無様な生活ともオサラバさ!
「アタイだってロールプレイしたいんだよ! レベルを上げ! 世界を周り! 危険なダンジョンを攻略して! そして素敵なボーイにミーツするんじゃああぁ!」
アタイの欲にまみれた雄叫びが洞穴中に響く。
しかし、次の瞬間に辺りは一転して静寂を取り戻すことになる。
招かれざる客が訪れたのだ……!
「よう、ゴブ子。ここにいやがったか……」
振り返ると穴の入り口に大きな人影。
その正体が何者かを察して、途端にアタイは青ざめた。
「ア……! オ、オークのアニキ……!?」
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
待ってくだせえオークのアニキ!
まだまとまった金が用意できてなくて……!
ええ、必ず払いますとも! 少なくとも来月には!
えっ? 代わりにこのスマートフォンをよこせだって?
……しゃらくせえ!
こうなりゃ破れかぶれだぜ!
【第3話 ゴブリンガールはガチャを引く!】
ぜってぇ見てくれよな!