第240話 ゴブリンガールはトリオアタックする!
出たあ、ゴーレム!
砂と岩とを素材にして造られた魔儡、人工のモンスター。
その背丈は成人男性の2人分に相当し、横幅も力士顔負けの肉厚ぶり。
短めの足丈に対して両の腕は異様に長くて図太い。
それが振り回されて直撃でも受ければ最後、全身の骨という骨をバッキバキに砕かれてしまうだろう。
お椀型のヘルメットを被ったような頭部にはギョロリと単眼が円を描いて回り、呆けたツラを晒すアタイたちを無言で見下ろしている。
「どういうこと? 普通ならモンスターは遺跡の内部で侵入者を待ち受けるはずよ」
「それが自分の方から這い出てくるなんて……」
「こいつの動きはイレギュラーだぞ!」
やはりハイネの視た予知夢の通り、ダ・ゴ・ダロンで何かが始まろうとしているらしい。
ゴーレムは唸り声に似た摩擦音を上げると、両腕を揃えて大きく振り上げる。
そして地面に勢いよく叩きつけた。
その鈍重な衝撃が地表面に伝わり、波打つようにして放射状に伝播していく。
「ショックウェーブだ!」
「あ~れ~!」
ハイベンジャーズのザコ勇者たちは次々とウェーブに突き飛ばされていく。
「よくもギルドの仲間を!」
負けじとクラリスも巨大ハンマーを地面へ叩きつけた。
その波動がゴーレムの攻撃と打ち消し合い、辺りに爆風を巻き起こす。
同時に、その風に乗じてスージーが空高くへと飛び上がった。
「出会いがしらでずいぶんとご挨拶じゃない! それならこっちもお返しよ!」
矢を同時に数本、器用に指のあいだに挟んで弓に番え、
「セブラルボウ!」
ババババ!
放たれた高速の矢がゴーレムの顔面へ注がれる。
それらは硬質の装甲によってバラバラに弾かれてしまったが、うちの1矢が見事単眼に命中して突き刺さった。
ゴオオオ!
目を潰されながらも闇雲にこちらへ突進してくるゴーレム。
ヒューゴはその動きを冷静に見切り、足元に向けて魔力を込めた丸盾を滑り入れた。
ゴーレムの靴底がその盾を踏みつける形となり、直後、スパークが眩く弾ける。
反撥魔法によって脚を掬い払ったのだ。
よろけたゴーレムに、さらにダメ押しでクラリスのハンマーが迫る。
「グラビトンネール!」
脇腹に強烈な一打!
さすがのゴーレムも耐えきれず、巨体を横倒しにして地面に沈んだ。
なんだいなんだい!
いつもいがみ合ってばかりかと思ったけど、このトリオもやる時はやるじゃないのさ!
あんたら勇者どもも3年前よりいくらか成長したみたいだねえ!
……しかし、あれだけの猛攻にもかかわらず、ゴーレムは何事もないようにモソリと起き上がった。
表面に生じたヒビ割れも、薄皮1枚が剥がれてパラパラと破片を落としただけだった。
「ほとんど無傷!? なんて防御力だ!」
勇者たちは冷や汗を流す。
モリ助に至っては半泣きで地面に穴を掘って身を隠そうとしていた。
こいつの役立たずぶりは感心するほどブレないね!
「あの敵を倒すには鉄壁の装甲を上回るダメージ値を叩き出すしかないですよ!」
「理屈はわかるけど、どうしろって言うのよ!?」
「こうなったらイチかバチかだ。スージー、クラリス。耳を貸してくれ」
ヒューゴの提案した作戦内容を聞き、途端に2人の女は眉を寄せて反発の意を示した。
「そんな作戦嫌です! スージー先輩がミスしたら私はどうなるんですか?」
「はあ(怒) 誰がミスるですって!? 私の腕を信用できないの?」
「そうじゃないですけど、わざと狙いを外さないとも言い切れませんし」
「私だってプロよ! 戦闘に私情は挟まないわよ!」
ギャーギャー言い争い、しまいには取っ組み合いを始めようとした2人をヒューゴが必死に抑える。
「喧嘩してるヒマは無いんだぞ! 協力できないんなら別の手段を考えるしかない。どうだ?」
「やってやるわよ!」
「私だって精一杯頑張ります!」
ヒューゴはその場に膝を付いて丸盾を斜に構えた。
限界まで魔力の込められたそれはトランポリンばりの反発力を纏っている。
クラリスはふんと鼻を鳴らすとヒューゴに向かって駆け出し、盾を足場にして勢いよく空へと跳躍した。
――――クラリスは重力を操作することのできる魔勇士。
空中で自身の体重と携えるハンマーの重量をゼロに近づけることで、まるで綿毛が漂うかの如く宙に留まった。
一方クラリスを標的に地上からギリギリと弓の弦を引くスージー。
「……フォーカスボウ!」
スージーの動体視力が風の流れを読み、クラリスの空中での動き、そして自分の放つ矢の軌道を誤差センチレベルで計算する。
ギュン!
風を切って空を駆けた矢はクラリスの首根の襟に刺さって貫通した。
もちろん彼女の体に傷を付けることはなく、正確に服だけを貫いたのだ。
矢は無重力のクラリスの体を引っかけ、推力を失うことなく高速で空を運んでいく。
その行き着く先にはゴーレムの胴体!
寸分たがわずストレートコースを捉えている!
「これで決めます! グラビトンネール!」
クラリスの瞳が鈍色に輝くと、ゴーレムとの衝突の手前でハンマーに自重が戻った。
加速を乗せた高重量の鉄槌が弧を描き、ゴーレムの腹に打ち付けられる。
ドカン!
まさに会心の一撃!
これを受けてただで済むはずがない。
ゴーレムの表面をヒビの線が縦横無尽に走り、一拍を置いてバラバラに砕けて吹き飛んだ!
「決まった! ジェラシートリオコンビネーションアタック!」
「やったわ――!」
抱き合って勝利を喜ぶアタイとヘミ子。
「ふうっ☆ 今回も楽勝だったぜ」
ヒョコリと穴から頭を出してウインクするモリ助を、アタイは真上から踏みつけて土に戻してやった。
……だが、勇者たちの戦いにはまだ続きがあったらしい。
「やったあ! やりましたよヒューゴ先輩!」
クラリスがヒューゴに駆け寄ってその勢いのまま体に抱き着いた。
女慣れのしていないヒューゴにとって、汗煌めく女の体が密着するのは思わぬご褒美。
鼻の下を伸ばしてだらしないデレ顔を晒してしまう。
そのやり取りを目の当たりに、スージーの顔は瞬時に能面になった。
「先輩、なんですかそれ。死にたいんですか」
「あっ……! スージー、これはあの……!」
ゴーレムに向けたものの数十倍に増幅させた殺気を放ち、ボキボキと指の骨を鳴らすスージー。
――――ヒューゴは死んだ。
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ヒューゴ南無阿弥ナームー(-人-)
【第241話 ゴブリンガールは助っ人を呼ぶ!】
ぜってぇ見てくれよな!




