第228話 ゴブリンガールはオオカミ男と出会う!
広大な平原をトボトボと歩くアタイ・ジョニー・スラモンのお馴染みトリオ。
カンフー娘と料理バトルを繰り広げた前回のクエストも無事終わり、今はバーンズビーンズへの帰路に就く途中。
だがかなりの遠征だったため帰りの距離も途方が無い。
なにせ中国くんだりまで足を伸ばしちまってたからねえ……。
※詳しくはサイドクエスト【カンフーする!】(第221話~)を参照。
「ヒッチハイクしようにもこんな辺鄙な所じゃ馬車のひとつも通りゃしないよ」
「こりゃあ何日か歩きどおしになるぜ」
「ダルいンだわ」
すると前方から怒号が飛んできた。
「この程度でへこたれるとは何事だ! これではビーストハンターの名折れだな!」
声の主はアタイたちの少し前を歩く斧使い勇者のボンボルド。
そう、前回に引き続いてこの全身筋肉クマ野郎がゲスト勇者を続投することになった。
勘弁してよ。
「あんたの荒々しい声を聞いてると余計疲れてくるんだよ! さっさとどこかへ消えちまいな!」
「馬鹿者が! 道中でモンスターに襲われないよう用心棒してくれと頼んできたのはお前たちだったろうが!」
ああ、そういやそんなこと言ったんだっけ。
「このフィールドにはそこかしこに野獣の気配が渦巻いている。お前たちだけでは今ごろ良い餌食にされていたろうな!」
「マジ? そんな気配全然気付かなかったんだけど」
「耳をすませば聞こえるだろうが! 肉を裂き血を啜らんとする獰猛なうめき声が!」
ひええ!
脅かすのはよしとくれ!
アタイたちは小走りでクマ野郎に追い付き、その大きな背中にピタリと身を寄せた。
「情けない奴らだ! 大地の精霊に命乞いしろ!」
そうこうしていると前方に小さな村が見えてきた。
助かったね!
これで今晩はモンスターに囲まれながら野宿をしなくても済むよ!
だがしかし、何やら騒ぎが起こっているらしい。
近づいてみると、いくつかの畑地が見るも無残に荒らされているようだった。
一体何があったってんだい?
畑地の中央でひとりの鎧姿の男が村人たちへ演説をしていた。
「この畑荒らしの犯人はオオカミどもの群れだと突き止めた。駆除は俺たち勇者パーティに任せておいて、あんたたちは謝礼を用意して待っていな」
「ありがたやありがたや」
「困っていたところに勇者様たちが通り掛かってくだすった。神の思し召しだべ」
……話を聞く限り、オオカミに悩まされていた村を鎧男とその仲間たちで助けてやる流れみたいだね。
「あっぶね。あいつより先に来てたらアタイらがクエスト任されるところだったんじゃないの」
オオカミ退治くらいならボンボルドに任せれば造作もないだろうけど、こんなシケた村じゃあ大した報酬金は期待できないだろう。
避けて正解のクソ案件だろうよ。
と思ったら、無言で畑を眺めていたボンボルドがぼそりと呟いた。
「……面白い。どうやらこの一件、介入の余地がありそうだ」
ちょっと待ちな!?
ボンボルドは生粋のビーストハンター。
動物がらみの事件には首を突っ込まずにはいられない性分らしい。
アタイが止める間もなくギャラリーの輪に割って入ってしまった。
「おい。これをオオカミの仕業だと言ったのは貴様か」
「なんだあ、あんた? 俺と仲間たちはこの村の周辺をくまなく調べ上げた。ダイアウルフの群れは谷の向こうに潜んでるってとこまで突き止めてるんだぜ!」
鎧男はあからさまに煙たげな顔を作った。
「あんたも報酬のおこぼれ狙いで協力を申し出ようってクチかい? 卑しい奴だね!」
「その通りだよボンボルド! はした金に労力を注ぐヒマがあるなら、もっとでかい街に行って割の良いクエストを探すんだよ!」
ボンボルドは噛みつく鎧男とアタイを手で制す。
「報酬になど興味はない。俺に用があるのはオオカミの群れとやらだ」
まさかタダ働きでこのクエストを手伝おうって言うのかい!?
ったく湧いてんじゃねえのかこの動物大好きおっさんがよ!
「……妙な奴だぜ。無報酬で構わないなんて、あの頭巾野郎とまったく同じことを言いだすなんてな」
「俺以外にも先客がいたのか?」
「ああそうさ。あんたより一足先にここへ立ち寄ったノラ勇者で、俺らのハントに手を貸すと言い出した。なんでもオオカミ専門のハンターだとか」
オオカミ専門のハンター?
ふうん、どうやらこのクマ男以外にもトチ狂ってる勇者がいるみたいだね。
アタイとジョニーとスラモンは輪になってヒソヒソと作戦会議する。
「鎧男のパーティに頭巾野郎とボンボルドで、かなりの戦力が揃ってるっぽいな」
「この分ならクエスト自体は楽勝で攻略できそうなンだわ」
「ちっ。無事に達成したらいくらかでもおこぼれを貰えるように難癖付けるよ」
アタイたちは不服ながらもボンボルドが協力するのを許可してやることにした。
話によると鎧男のパーティは彼の他に数人いて、今は頭巾男と共に村の宿屋で出発の荷造りをしているとのこと。
彼らと合流すべくアタイたちは宿屋へ向かった。
「この奥の部屋だ」
アタイは廊下をズンズン進んで目的の部屋のドアを怒り任せにノックする。
「おうこらトロマども! あんたたちがチンタラやってるせいで後続のアタイらまでクエストに巻き込まれちまったじゃないのさ! どう落とし前を付ける気だい!?」
鍵が掛かってなかったらしく、ノブをひねると勝手にドアが開いた。
と、同時に赤い飛沫がはねてアタイの視界を汚した。
ん? なんだいこれは。
「いかん! ゴブリンガール、引け!」
とっさにボンボルドがアタイの首根っこを掴んで背後に引き込んだ。
おかげで間一髪、鋭い刃物のようなものがアタイの鼻先をかすめて宙を裂く。
「ひょおお……」
その場に尻餅を着くアタイ。
部屋の中は異様な光景が広がっていた。
あらゆる家具がズタボロに引き裂かれ、穴が開き、破片になって散乱している。
そして床には血濡れの男たちが倒れており……。
「グルルルル……!」
中央に佇んでいたのはケモノのような何か。
全身の毛を逆立たせ、牙を剥いて鋭い眼光を周囲に放つ。
それが2本足で地に立ち、両腕の爪を突き出してこちらを威嚇していた。
「オオカミなのに、まるで……!?」
「油断するな! こいつはただのモンスターではない! 人狼だ!」
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
やばくね。
オオカミ男のビジュアル、ガチモンのそれじゃん。
可愛い赤ずきんちゃんとのほのぼの交流回を期待してたみんな、ごめんね。
今回のクエストはバリバリのシリアスバトル回になりそうだよ(泣)
【第229話 ゴブリンガールは赤ずきんと出会う!】
ぜってぇ見てくれよな!




