第20話 ゴブリンガールは肝試しする!
「相手が霊体モンスターなら浄化魔法や護符アイテムが有効だろうけどよぉ」
「半透明人間となると……」
「ニンニクが効くんじゃないでやんすか?」
「それは吸血鬼だろ」
アレコレ頭をひねってみるが、半透明人間の倒し方なんて思い浮かぶはずもない。
「ああもう、面倒だね! 悩んでたって時間の無駄だよ! こうなったら直接殴り込むよ!」
「作戦も無しにでやんすか?」
「作戦なら今言ったろう! 乗り込んでブチのめして終わりだよ!」
「単細胞にもほどがあるでやんす……」
日が暮れるのを待ってアタイたちはウワサの湖に向かった。
月明かりが水面に反射してキラキラと輝いている。
「幻想的な景色じゃねえか。何かが出てきても不思議はないぜ」
「それが悪霊じゃなくて湖の精とかなら大歓迎なんでやんすがね」
「あんたたち、無駄口叩く暇があるなら目を皿にして敵を探しな!」
なんたって相手は半透明なんだからね。
うかうかしてると見落としちまうだろう。
湖に沿って歩いていくと件の墓地に到着した。
墓石はどれもボロボロに朽ちていて、おどろおどろしい濃霧が周辺を包み込んでいる。
「雰囲気抜群だな。まるで肝試しだぞ……」
「時刻もちょうど丑の刻。そろそろ頃合いでやんすね」
ヤンフェはおもむろに藁人形と五寸釘を取り出した。
人形にはドンフーの顔写真が張り付けられている。
「そんなもん取り出して何しようってんだよ?」
「知らないんでやんすか? 巷で有名な呪いの儀式でやんす。お二人もドンフーの旦那には恨みのひとつやふたつおありでしょう。よかったら一緒にどうです?」
ヤンフェはニタニタ笑いながらアタイらに五寸釘を勧めてくる。
「そんな方法で憂さ晴らしとは、性根から腐り果ててやがるね。その釘を人形じゃなくあんたのこめかみに打ち込んでやりたい気分だよ」
「物騒なジョークは笑えないでやんすよ」
「笑う必要はないよ。ジョークを言ったつもりはないからね」
――――そのとき、霧の中から野太い笑い声が聞こえてきた。
「ヒイイ!」
「ついにお出ましか……!?」
目を凝らしてみるが、重たそうな白い霧がゆったりと動いている様子が見えるだけ。
……いや、視界の一部で霧の動きが歪んでいるところがある。
「なんだありゃ……?」
それは霧がおかしいんじゃなく、透明な障害物が光を屈折させているのだとわかった。
「人型だ……! 半透明人間だあ!」
脱兎のごとく逃げ出そうとするヤンフェ。
アタイはそれをラリアットで止めた。
「どこ行く気だよ! あんたが戦うんだろ?」
「どうしてあっしが!?」
「誰かがやらなきゃならねえんだ! だったら失う物の無い奴から行け!」
「いや失う物あるから! あっしを何だとお思いで!?」
ジタバタ暴れるヤンフェを二人掛かりで押さえつけながら、アタイらはジリジリと霧の中に入っていく。
近づくにつれて次第にはっきりと姿を視認できるようになった。
人型をした半透明の物体。
その正体は――――!
「スライムなンだわ」
そこにいたのは人の形を成したスライム。
レベル2の低級モンスターだ。
「なんだよ! ビビって損したぜ!」
「ご大層な恐怖演出かましてくれるじゃないか! たかがレベル2のザコのくせしてさ!」
「ゴブリンだって俺と同じレベルなンだわ」
お前に言われる筋合いはないとスライムは不満げな顔をする。
しかし妙だね?
一般的なスライムはバレーボールくらいのサイズ感のはず。
だけどこいつは成人男性ほどの体積がある。
「俺の名前はスラモン。実は何体ものスライムが合体してひとつになった最強スライムなンだわ」
「合体? そんなことができるでやんすか?」
「試しにやってみたら混ざり合ってこうなったンだわ。というか実は元に戻れなくなってちょっと困ってンだわ」
スラモンはゲジゲジ眉をハの字にして困った様子だ。
なんとものんびりした奴だね!
こっちの調子が狂っちまうよ!
「ヘンテコな形になったせいで動きづらいンだわ。こんなところを勇者に襲われたらたまらないから人気の少ない墓地に隠れてたンだわ。そしたらみんなが幽霊だなんだと騒いで近寄らなくなったンだわ。おかげで快適に暮らせてるンだわ」
なるほど、事の顛末はスライムのイレギュラーな行動のせいだったんだね。
どうりで正規の手順を踏んだクエスト扱いにならないはずだ。
これで謎が解けたよ。
「この姿は動きづらいけど気に入ってンだわ。たくさんのスライムが集まったからきっと強くなってンだわ。レベル2同士の掛け算で……。とんでもないレベルにまで跳ね上がってるはずなンだわ」
「そうか? レベル2のザコがいくつ集まろうがレベル2のままだろ」
「そんなことないンだわ」
スラモンは自尊心を傷つけられたようでムスッと不愉快そうな顔をする。
「だったら試しにこのスラモンを倒してみるンだわ」
半透明人間はゆらりと体を揺らし、ゆっくりとファイティングポーズらしき姿勢を取った。
あまりにもスローモーションすぎてあくびが出てきそうだね。
「ブヨブヨに膨らんでてバランスが取れてないでやんすよw」
ヤンフェは腹を抱えて小バカにしたように指をさした。
幽霊の正体が格下モンスターだと判明した途端にイキり始めるなんて、やっぱり典型的な小物だねこいつは!
スライムよりもヤンフェの方をブチのめしたい衝動に駆られる。
「あっしは崇高なエルフの戦士。こんなザコなんぞ一撃で倒してみせるでやんす!」
ヤンフェはスラモンの脳天に向けてえいやと手刀を打ち込んだ。
だがズブリと音を立てて手首が丸々スラモンの頭部にめり込んだだけだった。
「ひああ!? ヒンヤリしてキモチイイ!」
「ふふふ……。スライムに物理攻撃は効かないンだわ」
月明かりの下でジタバタと戯れるエルフとスライム。
地獄みたいな絵ヅラだね。
本音を言うとこのまま面倒な二人を残して立ち去りたいとこなんだけど。
この状況、一体どう収拾をつけようかね?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
なんだいこのブヨブヨした珍モンスターは!
丸っこいフォルムにクリクリおめめとゲジ太眉だと!?
愛くるしい要素てんこ盛りのじゃないのさ!
どうせアレだろ、マスコット的な地位狙ってんだろ?
主人公より人気出そうなキャラなんてお呼びじゃないんだよ!
だからこそあんたは必ずこの場で殺す!
絶対にね!
【第21話 ゴブリンガールは塩を撒く!】
ぜってぇ見てくれよな!




