第201話 勝利をこの手に! 俺たちの車輪は永遠に止まらない!
真夜中のツヅラ坂。
これまでに起こしたケンの悪行によりライダーはこぞって逃げ出し、辺りは閑散としていた。
その峠の頂上で一輪車に跨ったまま睨み合う1組の男女――――。
底辺犯罪者・ケンと変態蝶マスク・ファンタジアあさこである!
「ウフフ……。とうとう決着をつける時が来たようね、ボウヤ」
「あさこ! まさかお前も一輪車乗りだったとはな!」
そこで2人の様子を窺っていたじゅりあが叫んだ。
「どうして? あなたも一輪車マスターを目指していたなら、なぜライバルのケンちゃんを手助けしていたの?」
事あるごとに現れてはケンの戦いを見物していたあさこ。
時に助言し、時に肩を持つような言動を繰り返していた。
なぜわざわざ敵に塩を送っていたのだろうか?
「簡単なことよ。ボウヤが暴れるだけライダーの数は減る。それは私にとっても益があるのだから」
「俺を利用しやがったんだな! 許せねえぜ!」
「ウフフ。だけどそれもここまで。ボウヤは力を持ち過ぎたわ。これ以上強くなれば私にとっても脅威となる……」
あさこは蝶マスクをギラリと光らせ、両手を広げてキメポーズを取る!
「あなたの選手生命はここで絶たれるの! この私、ファンタジアあさこの手によってね!」
「くっそお! 負けるわけにはいかないぜ!!」
ケンも負けじとキメポーズを取る。
車輪の上で奇怪な体勢を作りながら両者は視線をバチバチとぶつけ合った!
緊迫した空気が流れる……!
その後、2人は普通に地面に立ってそれぞれの一輪車を適当にそこらに放った。
そうしてファイティングポーズを作り、
「行くぜ!」
「かかってらっしゃい!」
「先手必勝! 『ハイパーエキセントリックアターック』!!」
ケンはあさこに向かって全速力で駆け出す。
それと同時に懐から刃渡り40センチの長包丁を取り出した!
なんと恐ろしい技を隠し持っていたのか!
あんなものを突き立てられれば最後、どんな強敵であろうと無事では済むまい!
だがあさこはニヤリと余裕の笑みを見せ、その場から動こうとはしない。
「もらったぜ!!」
ケンが腕を大きく振りかぶったそのとき、なんと包丁の柄と刃の部分がボロリと分解してしまった!
「なに!?」
「ウフフ。隙を見てあらかじめ相手の持ち物に小細工を仕込んでおく。ボウヤの常套戦法だったわね?」
なんということだろう!
ケンの手の内はすべて見透かされていたのだ!
「伊達に観察させてもらっていたわけじゃないのよ! オホホホホ!」
「ちっくしょおお!」
「ケンちゃんのことを熟知している……! ケンちゃんではあさこに勝つことはできないの!?」
だがケンは瞳の中に炎を滾らせ、拳をグッと握りしめた!
「まだだ! この体がある限り、まだ俺は終わっちゃいないぜ!」
そうして勢いよく腕を振り上げた。
素手であさこを殴り倒すつもりだ!
「ボンバイエやマサ、そして峠のみんな……。志半ばで散っていった仲間たちのためにも、ここで立ち止るわけにはいかないんだぜ!!」
だがしかし、ケンの拳があさこを叩きのめすより先に、彼女が噴射した謎のスプレーがケンの両目に降りかかった。
「うっ!? ぐわあああああ!」
「ケンちゃん!?」
「ウフフ。護身用のとうがらしスプレーよ。これであなたの両目は使えないわね」
恐るべしファンタジアあさこ!
クズとクズによる低次元極まりないバトル。
これほどまでに情けない最終決戦が繰り広げられたことなど、古今例があっただろうか?
否! 無い!
ケンはボロボロと涙を流し、とうとう膝を付いて四つん這いになってしまった。
「うううう……!」
「楽しませてもらったわ、ケン。でもこれでチェックメイト……」
負けるなケン!
もう一度立ち上がってくれ!
そんな熱い声援を送ってくれるギャラリーも既にこの峠にはいない。
ここまでなのか――――!?
「いいえ、まだよ!」
戦いを見守っていたじゅりあが叫ぶ。
「あらまあ? 応援するだけが取り柄のひ弱なお嬢さんが何をするつもりかしら?」
嘲笑うあさこ。
だがじゅりあはそれを横目に、淡々と手元のノートパソコンを立ち上げた。
液晶画面には、いつの間に隠し撮ったのだろうか、無数のあさこの写真が広がっている。
笑顔でライダーたちを煽り散らかす蝶マスク女の醜態が様々なアングルで納まっていた。
「……あなたのことは一通り調べさせてもらったわ、ファンタジアあさこ。いいえ、富士山田朝子!」
「なっ……!? どうして私の本名を!?」
「出会ったときから胡散臭いと思っていたの。どうにかして化けの皮を剥がしてやろうと、尾行や盗撮を繰り返したわ。身元を特定するのにそう時間は掛からなかった」
ワナワナと狼狽するあさこをじゅりあの鋭い視線が射抜く。
「富士山田朝子45歳。独身の実家住まい。スーパーのレジ打ちパートのために近所の店と家とを往復するだけの寂しい毎日を送っている」
「こ、この小娘……! やめなさい!」
「彼氏や友達はおろか話し相手もまともにいない。そんなあなたのささやかな楽しみと言えば、レオタードと蝶マスク姿に変装して峠に繰り出し、ライダーたちを好き勝手にこき下ろすことだけ!」
「やめてえ!」
あさこの悲痛な叫びが轟く。
先ほどまでの高飛車な態度はどこへやら。
形勢は完全に逆転した。
「なんなのその格好? 恥ずかしくないの? なんで生きているの?」
「ッ――――!(絶句)」
じゅりあは曇りのないまなざしと正論であさこの心を打ち砕いていく。
そうしながらふいにノートパソコンの画面を切り替えた。
映し出されたのは大手SNSアプリのメッセージ投稿画面だ。
「あなたの画像をネットにばら撒くわ」
「ええっ!?」
「いい年してこんな変態趣味に興じているだなんて知られたら、職場の同僚や親族はなんて思うかしらね。想像するだけで動悸がするわ」
「お願い! それだけは……!」
身を震わせ、助けを乞うように地面を這いつくばるあさこ。
なんとおぞましく、そしてみすぼらしい姿だろうか。
しかし彼女もひとりの人間。
これに懲りて心を入れ替える可能性があるならば、情けを掛けてやる余地はあるだろう。
だがじゅりあは許さなかった。
「喰らいなさい! 『プリティーアクセス♡デジタルタトゥーアターック』!!」
ッターン!
無慈悲に響き渡る必殺技名。そしてエンターキーの乾いた音。
一拍の間を置いて、あさこは断末魔の悲鳴を上げた。
「ギャアアアアアアアアア!」
エビ反りになってビクビクと体を揺らし、白目を剥いて泡を吹く。
だが次第にその痙攣は弱々しくなり、やがて完全に息の根を止めたのだった……。
視力が回復して立ち上がったケンにじゅりあが駆け寄る。
「ケンちゃん……!」
「じゅりあ。お前がこんな必殺技を隠してたなんてな! おかげで助かったぜ!」
「ふふ。私だってケンちゃんの役に立ちたかったんだもん!」
やがて空が白んでいき、寄り添う2人を朝日の光が照らした。
長い長い夜が明けたのだ。
「終わったのね……」
「……いいや。一輪車マスターの称号を手にするためにはもっと多くの奴らと出会わなきゃならない! 俺たちの旅はまだ始まったばかりだぜ!?」
「ケンちゃん……!」
ケンは倒していた一輪車を起こすと朝日に負けない笑顔でジュリアに振り向いた。
「じゅりあ。後ろに乗れよ!」
「えっ。でもケンちゃん、タンデム(2人乗り)は苦手だって……」
「バッキャロ! もう一度しか言わないぜ! 俺の後ろに乗るのか!?」
「……バカ。もちろんよ!」
一輪車に飛び乗ったケンとじゅりあ。
力強くペダルを回して峠道を下っていく。
キーコキーコ!
その果てなく続く道の先にはまだ見ぬライバルや仲間たちとの出会いが待っている!
負けるなケン! 止めるな車輪!
彼の伝説はまだ始まったばかりなのだ――――!
「正義は必ず勝つんだぜ! 次の戦いもおもしろカッコイイぜ!」
~完~
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
『ジャスティス! 一輪ライダーケン!』を応援してくれてありがとな!
初めは戸惑ったと思うけど、なんだかんだで最後までついてきてくれてサンキュー☆
またどこかで会えることを楽しみにしてるぜ!?
さて来週からはゴブリンの女の子が活躍するお話が始まるらしいぜ。
そっちの応援もよろしくな!
【第202話 ゴブリンガールは花火師と出会う!】
来週もおもしろカッコイイぜ!




