第200話 張り巡らされた罠! ファンタジア・バトルロワイヤル!
「ん……?」
「なんだここは? 俺は一体……」
完全な闇に閉ざされた空間に、次々と意識を取り戻した男たちの呻きが広がる。
ややあって天井の明かりが付くと、そこは得体のしれない室内競技場らしかった。
総勢100名近い男たちと、それぞれの愛車(一輪車)が無造作に転がされている。
頭上に掲げられた巨大モニターが灯り、蝶マスクにレオタード姿の女が映し出された。
謎に包まれし変質者、ファンタジアあさこだ!
「ウフフ。私の主催する『一輪バトルロワイヤル』へようこそ……。独断と偏見で集められたあなたたちに、私の趣向を凝らして作られたコースで競い合ってもらうわ」
「なんだって!?」
「てめえ! 俺たちを拉致しやがったのか!」
口々に不満を叫ぶ参加者たち。
その中でキャップ帽を逆さに被ったひとりの若者がずいと前に出た。
「面白カッコよくないぜ! ファンタジアあさこ! お前の目的はなんなんだ!?」
そう、その男とは我らがイカレ底辺犯罪者ケン!
彼もあさこの手によってゲームに参加させられたひとりだったのだ。
ゴゴゴゴゴ……!
低い地鳴りと共に正面の扉が開く。
その先には霧の立ち込める怪しげな通路が続いている。
「私の目的は最強の一輪ライダーを見定めること……。十分な実力があればこの殺人レースで無事に最後まで生き残れるはずよ。さあ、憐れな走り屋さんたち! 私の手のひらの上で踊りなさい!」
ピィーッ!
レース開始のホイッスルが鳴り響く。
「ちくしょお! うかうかしていられねえ!」
「こうなったらなんとしても最後まで生き抜いてやる!」
次々と一輪車に跨る男たち。
だがそこで早々に問題が起こった。
「なんだこれは!?」
見れば何人ものマシンのタイヤが大きくひしゃげていたのだ!
これではまともに走らせることはできないだろう!
「一体誰がこんなひどいことを!?」
そこでケンが力強く叫んだ。
「俺だぜ!」
「お前かよ!?」
「みんなよりちょっと早く目が覚めた俺は大体の事情を察したんで、ひとりでも多く脱落させるためにマシンをブチ壊して回ってたんだぜ!」
モニター越しのあさこは興奮のあまり小刻みに震えた。
「勝負はすでに始まっていたというワケね……! まったくあなたのクズさには驚かされるわ、ケン!」
車輪を破壊されたライダーは実に50人近くに及んだ。
いきなり半分ほど数を減らしてついに地獄の殺人レースは開幕した。
キーコキーコキーコ!
おどろおどろしい通路に無数のペダルを回す音がこだまする。
すると先頭付近を走っていたライダーのひとりが驚き叫んだ。
「なんだあれは!?」
見ると前方の天井付近に巨大な石壁が吊るされている。
それは勢いよく地面までスライドし、重い衝撃と砂埃を上げて行く手を完全にシャットダウンした。
そしてしばらくするとまた天井まで吊り上げられる、そんな高速ギロチンのごとき動きを一定間隔で続けているのだ。
「ドッスントラップだ!」
参加者たちは青ざめた顔を見合わせる。
「……お先にどうぞ」
「いえおかまいなく。どうぞお先に」
「いやいやいや。私は最後尾でゆきますので」
イギリス紳士顔負けの激しい譲り合いを始める男たち。
こういうのは大抵先に行く奴が死ぬ。
誰もが当て馬になるのを避けることに必死だ。
もはや譲り合いが乱闘にまで発展しかけたその時、この場に似つかわしくない電子的な音声が響いた。
ポーン。
【ETCを検知しました。通行できます】
「え?」
見ればギロチン壁が動きを止め、その隙に颯爽と通路を抜ける男が!
そう、我らがケンである!
「へえー。みんなまだ積んでないんだ? ETC」
「ええ!?」
「そんなのあり!?」
モニター越しに様子を見つめるあさこは興奮のあまりクネクネと身をよじって悶絶した。
「はあはあ……! こんな突破法、誰が予想できたかしらぁ?」
――――それからしばらくして、数人のライダーがなんとか正攻法でドッスンを抜けてきた。
だがその先に待ち受けていた第2エリアは!?
「なんだここは!?」
まさにラビリンス……!
そこかしこに石壁がそそり立って複雑に入り組んだ通路をつくっている。
無数の分岐と曲がり角が連続し、ひとたび足を踏み入れればたちまちに方向感覚を失ってしまうだろう。
あさこの思惑通り、ライダーたちはなすすべもなく出口のない迷路の中に閉じ込められてしまった。
「こんなのどうやって突破すればいいんだよぉ……!」
男たちが情けなく泣き言を上げたその時、この場に似つかわしくない電子的な音声が響いた。
ポーン。
【10メートル先を右折です】
「え?」
見ればそこには、小さな液晶画面を見ながら迷いなく通路を進むケンの姿が!
「へえー。みんなまだ……」
「黙れ反則野郎!」
「一輪車にナビまで乗せてんじゃねえよ!」
あさこは痙攣した。
「ああああん! Fantastic!」
――――ややあってケンとその後に続いた数人が最後のエリアにたどり着いた。
「見えたぞ! あれがゴールだ!」
彼らの視線の先には「おめでとう」の文字が飾られたゴールアーチが立っている。
だが問題があった。
彼らとアーチとのあいだの地面には亀裂が走り、5メートルほどの距離が空いている。
そして底には煮えたぎったマグマが揺らいでいたのだ。
分断された地面には一本の平行棒が掛けられている。
これを橋に見立てて渡れというのだろう。
「ゴクリ……!」
バランスの悪い一輪車で幅わずか20センチに満たない平行棒を渡りきる。
ここまで生き残った猛者たちにとって、それは決して理不尽な難易度ではない。
しかしミスをすれば一発で命を失うという極限状況。
そのプレッシャーを跳ね除けて見事に綱渡りを完遂できる度胸など、そうそう持てるものではない。
息を呑んだまま身動きできない男たち。
だがそこでケンが一歩前に進んだ!
「ファンタジアあさこ! お前の目論見、この俺が打ち砕いてみせるぜ!」
「ケン……! あなたの実力、私に見せてちょうだい!」
あさこはモニターを鷲掴みにして行く末を見守る!
「行くぜッ!」
目を見開くケン!
次の瞬間、誰もが予想しなかった驚きの行動を取った!
なんと、一輪車を乗り捨てて素足で平行棒を渡りだしたのだ!
その暴挙に皆が目を疑った。
彼らは一輪車マスターを志す熱きライダー。
一輪車で攻略することを前提にしたコースを前に、愛車を捨てて普通に歩いて進むなど、一端のプライドがあればできるはずはなかった。
できるはずがない……。
だが、ケンはそれをやったのだ!
「てめえふざけんな!」
「ボケ!」
「車輪はトモダチじゃなかったのかよ!」
罵声を浴びせるライバルたちにケンが吐き捨てるように言う。
「はあ? 道具がトモダチなわけねーだろ(笑)」
かくしてケンは愛車を置き去りにしたまま無事にトラップタワーから脱出したのだった――――。
こんな結末、ファンタスティック!!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
幾度となく窮地を生き抜き、襲いくるライバルたちを打ち倒してきたケン!
そんな彼の前に最後の強敵が立ちはだかった!
ファンタジアあさこ……彼女の真の目的が明らかとなっとき、ケンの瞳に怒りの炎が燃え滾る!
戦えケン!
たとえサドルが食い込もうとも!
運命という名の車輪を回し、勝利をその手に掴み取るまで!
【第201話 勝利をこの手に! 俺たちの車輪は永遠に止まらない!】
来週もおもしろカッコイイぜ!




