第19話 ゴブリンガールは聞き取り調査する!
~広漠のグリタ平原(探索推奨レベル19)~
アタイとジョニーは延々と広がるグリタ平原を当てもなく歩き続けていた。
「まったくこの地平線はどこまで続くんだい! ピクニックはもう飽きちまったよ!」
「そろそろクエストボードを見つけて仕事にありつかないと、借金返済どころか飲み食いするための金も尽きるぞ」
すると、はるか後方から何者かの呼び止める声が聞こえてきた。
「お~い! そこのお二人さ~ん!」
振り返ると一人の男がアタイらに向かって走ってくるのが見える。
「いやぁ、参ったでやんす~! お二人を追って三千里! どっかで野垂れ死んじまってんのかと疑いやしたが、やっとこうして見つけられたでやんすね!」
こいつはクソエルフのヤンフェじゃないか!
いつかスタンガンで意識がトぶまで拷問にかけてやった銀行の窓口係。
その顔つきから言動に至るすべてが生理的嫌悪感はなはだしい。
ちなみにヤンフェの初登場回は第8話だよ!
忘れてたんなら復習しておきな!
「あんたこんなところで何やってんだい! 相変わらずイライラする顔だね!」
「ええっ!? どうしていきなりキレてんでやんすか! むしろキレたいのはこっちの方でやんすよ!」
「黙りな! あんたが大げさに失神なんぞして見せたせいで事が大きくなったんだ!」
「でなきゃドワーフに捕まって馬車馬のように働かされることもなかったんだぜ」
「おふう、噂をすれば! そのドンフーの旦那から伝言でやんす。あっしはそれを伝えに来た連絡係ってとこです。へへへ」
「ドンフーから伝言?」
嫌な予感がするね!
「なんでも面倒な仕事が舞い込んだってんで、お二人に当て馬役をやってもらおうって用件でやんす」
「ふざけんじゃないよ! アタイらを何だと思ってんだい!」
アタイは怒りに任せてヤンフェの顔面に右ストレートを叩き込む!
ドゴッ!
「やんすーッ!?」
ドバドバと鼻血を垂らすヤンフェ。
汚いったらありゃしない。
「それにしてもよぉ。前は銀行員だったお前がどうしてドンフーの下で伝言係なんかやってんだ?」
「よくぞ聞いてくれたでやんす!」
……ヤンフェはエルフ族が運営する銀行の支店に勤めるごく普通の行員だった。
と見せかけて、実は裏でバレない程度に少額の横領を繰り返してたそうだ。
「お二人が強盗に入ったおかげで被害報告のために店の一斉検分が行われたんでやんす。そのせいであっしがコツコツ続けてきたネコババが明るみになっちまいやして……」
「それで俺たち同様ドンフーのところに身売りされたってことか」
「いやあ、お恥ずかしい限りで。へへへ……」
「なに笑ってんだよ犯罪者がよー!」
バキッ!
「やんすーッ!?」
またも顔面に一撃を受けたヤンフェは混乱しながらアタイを見上げる。
「人様に迷惑かけといてその態度はなんだい! 反省の色が見えないんだよ!」
「えっ……? おまいう……?」
「まあまあ。それでドンフーが持ちかけてきた案件ってのはなんなんだ?」
ジョニーに促され、ヤンフェは不服そうながらも伝言の内容を話し始めた。
「お二人に頼みたいのは幽霊退治でやんす」
「幽霊……?」
「グリタ平原の端にある湖のほとりに、今となっては誰のものとも知れない古い集団墓地があるんでやんす。ここ最近、夜になるとそこから何者かの声が聞こえてくるんだとか……。人影を見たって目撃証言も相次いでるそうで」
「勘弁しとくれよ。アタイはホラーは苦手なんだよ」
「苦手どうこうの前に、相手が悪霊のたぐいなら普通に俺らのレベルじゃ敵わないぜ。どうしてドンフーはわざわざこの仕事を俺たちに振ったんだ?」
「鋭いでやんすね。実は奇妙なのはここからなんでやんすよ」
この手のクエストは普通なら誰かしらが発注主となって掲示板に解決依頼を貼り出すものだ。
それに攻略の鍵となる重要な情報なりアイテムなりを持つ人物が現れるはず。
だがこの件については誰ひとりとして関りのある者が見つからないという。
「これは正規のクエストとは別経由で発生しているイベント。もしかすると本当に幽霊による怪奇現象だったりして……!」
ニタニタと不気味な笑いで恐怖を煽るヤンフェ。
もちろんアタイの怒りのパンチが炸裂する。
ゴキャッ!
「やんッ!」
「……なんだか胡散臭そうな話だなぁ」
「だからって引き受けないワケにはいかないんだろ? 借金の返済がかかってんだからね」
「さすが! ご自分の立場ってもんをわかってらっしゃる! そんじゃたしかに言付けは伝えましたんで、あっしは霧のごとく消えるといたしやしょう」
「待ちな! あんたも一緒に行くんだよ!」
「えっ……?」
ヤンフェはあからさまに視線を泳がせ始める。
「いやでも、あっしの任務はあくまで伝言係……」
「なにぬるいこと言ってんだよ。横領で甘い汁吸ってたんだろ? 犯した罪の分は働けよ」
「ひえぇ……!」
首根っこを掴んでドス低い声を出してやると、やっとヤンフェは静かになった。
さっそく例の墓地とやらに乗り込んでも良かったけど、それでとんとん拍子に進んでくれるほど簡単な仕事とは思えない。
地道だがひとまず情報収集に専念することにした。
グリタ平原の街道を歩く交易商人を片っ端から引き留めて聞き取り調査をする。
しかしこの作業は予想以上に難航した。
あまりにも浅い情報しか集まらなかったのだ。
「ああ、あの湖のほとりね。美しい場所だからよく休憩に利用してたんだけど、最近は気味が悪くて近づかないね」
「もっと役に立ちそうな話は知らないのかい?」
「さあ……。そういうのはクエストの発注主に聞いたらどうだい?」
そんなことは百も承知なんだよ!
これが単なる『掲示板クエスト』だったらとっくに解決の糸口にたどり着いてるってのに!
「はあ、ダリ~。もうあっしは限界。ギブでやんす」
ヤンフェは断わりもなく草むらに座り込んで一休みを始めた。
「おいこら立てやクソエルフ」
「どうせ無駄骨でやんすよ~。ドンフーの旦那には適当に見回って適当に解決したって報告しちゃいましょうよ~」
こいつは想像以上のクズだね。
村を担保にして得た金を全額ガチャにつぎ込んだアタイをも凌ぐクズかもしれないよ。
人知れず殺気を放つアタイに、遠慮がちに一人の商人が話しかけてきた。
「もし……。お前さんたち、あの墓地に出没する透明人間について調べてるのかね? ワシは目撃したことがあるぞ」
「え? 透明人間だって?」
「いや。透けていたが形ははっきり見えたから、言うとしたら半透明人間かな。あんな怪人を見たのは生まれた初めてだったよ」
ハア、半透明人間?
なんだいその斜め上の新情報は!
なんだかどんどんキナ臭い展開になっていくね!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
半透明人間?
なんなんだい、そのえらく中途半端な怪人は!
やるならとことん透明になれってんだよ!
ハッキリしない奴だね、半透明だけにね!(ドッ)
とにもかくにも人々を困らせるってんなら見過ごすワケにはいかないよ!
このゴブ子様が白黒つけてやろうじゃないのさ!
半透明だけにね!(爆)
【第20話 ゴブリンガールは肝試しする!】
ぜってぇ見てくれよな!




