第177話 ゴブリンガールは算段をつける!
ゴン太に関する手掛かりを持ち、転生者を招集しようとしている国王。
こりゃあアツい展開になってきたね!
と意気込むアタイたちをよそに、オズワルドはつまらなそうにため息をついた。
その仕草から、あまり王の考えに賛同しているようには見えない。
「俺様というスーパーカリスマ勇者がいながら、なぜゴン太やら転生者やらに執着するのか。理解ができんよ」
「そういうこと?」
「自分の活躍の機会が減るのが気に喰わないってことね」
とんだナルシスト野郎だね。
とにもかくにも、100年前にゴン太が残した功績のおかげで転生者には相当な箔が付いてるようだ。
謎解きの件を差し置いても、王様と関わるのは大きなビジネスチャンスになることだろう。
そこでズズイとモリ助が前に出た。
「ふむふむ、よかろう。この私、異端の勇者様が王の謁見に応じてしんぜよう。都まで出向いてやるから馬車を用意してくれよ。ファーストクラスで頼むよ」
「ああ、勘違いするな。王からの勅使なら別のが来る。俺はそれより一足先に立ち寄ったにすぎん」
「なんだよ紛らわしいな~。ついでなんだからあんたが案内してよ」
あろうことかレベル90越えの男に雑用させようとするレベル1のザコ。
転生者というネームバリュー恐るべし。
だがそんなモリ助にオズワルドは冷めきった瞳を向けた。
「勘違いするなと言った。ここへ来たのはな、転生者とかいう輩をぶち殺してやるためなのだよ。苦労して築いた重役ポストを黙って知らんガキに譲ってやる義理はないからな」
……およよ?
なんか物騒な単語が聞こえた気がしますねえ……。
「よし決めた。やはりお前は殺そう。そしてスマホもいただく。無論、王には虚偽の報告をしておくよ。すべてが俺の都合の良いようにな」
おっほお、こいつはちょっとヤバめな事態になってきたね?
「ふええ~ん! ゴブ子ちゃんこの人怖いよお~!」
ギャン泣きしながらアタイの背に隠れるモリ助。
おい何やってんだよゴミムシ!
聞いた感じアタイは関係なさそうなんだから、死ぬならあんたひとりで首を差し出しな!
「出て来いよ転生者。情けない奴だなあ。聞いた印象とだいぶ違うが、お前が本当にゴン太の再来とウワサされる男なのか?」
醜態をさらすモリ助を見て首をかしげるオズワルド。
「なあ、浜田シブ夫」
「えっ……?」
アタイたちは静かに顔を見合わせる。
「あれあれあれ!? 違います! 俺シブ夫じゃないっす!」
「なんだと? 転生者じゃないのか?」
「いや、それはそうなんすけど」
「そうなんじゃないか」
「いやでも違うんすよ」
「何が違うんだ」
……なるほどね。
まあ考えてみればわかることだけど、王様が欲しがってるのは活躍目覚ましいシブ夫の方で、モリ助は話題にすら上がらないくらいアウト・オブ眼中だったみたいだよ。
認知されてなかったせいでうっかり人違いが起こってるね。
しかし、待てよ……?
そこでアタイははたと気付く。
ここで誤解を解いてしまうと、今度は本当にシブ夫の命が狙われちまうかもしれない。
そうなるくらいならこのままモリ助に影武者となって死んでもらう方が丸く収まるのでは?
アタイは断腸の思いで叫んだ。
「こいつがシブ夫だよ! さっさと殺しな!」
「ええ!? ゴブ子ちゃん!?」
「やっぱりそうなんじゃないか」
焦らされてイライラの募ったオズワルドはついに大剣を引き抜いた。
あばよモリ助!
あの世でも達者で暮らせや!
「いやだ~~~!(絶叫)」
モリ助は無様に喚きながら地面を這いつくばって逃げ回る。
往生際の悪い奴だねえ!
「魔王を倒すために導かれた異世界人だと? そんなものお呼びじゃないんだよ。この世界を救われちゃあ俺様の商売も上がったりじゃないか。なあ?」
オズワルドは地にへばりつくモリ助の背中を踏みつけて動きを封じ、剣を空に振り上げた。
――――だがしかし、その切っ先が振り下ろされると同時にひとりの人物が滑り込む。
我らがシブ夫だ!
キイイン!
シブ夫とオズワルドの剣が火花を散らす。
「むっ!」
後方に退くオズワルドと、その場でモリ助を守るように刃を構え直すシブ夫。
「大丈夫ですか、モリ助」
「シブ夫~!」
ちいい!
モリ助を影武者にしてシブ夫を守るという算段が!
まあしかし、こうなってしまった以上は仕方ない!
「シブ夫、助けて! あの成金ナルシストがモリ助を殺してスマホを奪おうとしたの!」
「……いやゴブ子ちゃん。嬉々として俺を差し出そうとしたよね?」
「元々スマホも売り飛ばそうとしただろう」
「うるせえうるせえ! あんたたちは黙ってな!」
アタイは盛大にツバを吐き捨ててやった。
「転生者は2人いたのか。なるほど困った。その分だけ俺様の国での影響力も薄まってしまうよなあ。やはりここで始末しておかんと」
「……戦いの前に話をさせてもらえませんか」
「ほう?」
「魔王討伐やゴン太捜索にとって相互利益が見込めるのなら、僕たちはあなたの国に協力します。ですが雇われ勇者になるつもりはありません。あなたの立場を貶めることもない」
「どうかな。我が王は少々強情なところがあってね。気に入った者は無理をしてでも手元に置こうとするだろう」
「そうなればまたそのとき、辛抱強くお話をさせてもらいます」
シブ夫の姿勢は一貫していてブレがない。
聞いてるだけでスカッとしてくるねえ!
流れに乗ってアタイとモリ助も口々にオズワルドに反論する。
「大体さあ、転生者ってのは意味があるから転生させられたんだろ!」
「それを自分の都合で殺したら取り返しのつかないことになるかもしんないじゃん!」
「あんたは自分の居場所を守るためだけにそれをやろうっていうのかい!」
「ああ、そうだが?」
あっけらかんと答えるオズワルド。
「世界平和なんざクソくらえなんだよ。皆が俺様を崇め、奉るユートピアが実現してるんだ。どうして魔王を倒す必要がある? このままモンスターがはびこって、人間同士で争って、混沌にまみれていてもらわなきゃあ困るだろう」
シブ夫は静かに、だが怒りを湛えて立ち上がった。
「この方との和解は難しいようです。僕が相手をしますので、皆さんは逃げてください」
またシブ夫が囮になる作戦?
でもこいつは地下ダンジョンに湧くザコモンスターとはワケが違う!
世界最強レベルの勇者なんだからね!
「……僕が倒されたら、その後はモリ助が旅を続けてください。ゴブ子さんのことを頼みます」
「えっ俺? ムリムリ!」
即答するモリ助。
アタイだってこんな奴に守られたくないし!
アタイはシブ夫に守ってもらいたいんだしー!
「ハハハ。その心配は無用だよ。この場で全員残らず殺してやるからな」
その瞬間、オズワルドの姿が消えた。
いや、あまりにも現実離れした速度で動いたために消えたように見えたのだ!
ガキイン!
大きな火花が散ってシブ夫が吹き飛んだ。
10メートルほど後方の廃墟の壁に衝突し、砂埃が噴き上がる
……何かの金属片が宙を回っている。
やがて落下して地面に突き刺さったそれは、中ほどで折れたシブ夫の剣の先だった。
勝負はついた。
「シブ夫っ……!?」
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
こいつ敵キャラだったん!?
初めから信用ならないとは思ってたけど、よくもシブ夫を痛めつけてくれやがったね!
だからモリ助が身代わりに死んどけば良かったんだよ!
割りばしですら無双できちゃうような奴にどうやって勝てばいいの?
もうお手上げだあ~!
【第178話 ゴブリンガールは声を上げる!】
ぜってぇ見てくれよな!




