第167話 ゴブリンガールは年越しライブする!
スナックの片隅にある古びたカラオケステージがスポットライトの光に照らし出される。
狭い店内を埋めつくすオタクどものコールに応じて、3人のアイドルたちが小走りで登場した。
アタイと寸胴ドチビブスドワーフのドワ子、そして頬骨出っ歯キモ引き笑いエルフのヤンフェだ。
それぞれが色違いのヒラヒラ衣装を身にまとい、マイクを片手に笑顔を振りまく。
「今日の女子会はアタチたちがゲストなんだわさ!」
「みんなー、盛り上がってるでやんすかー?」
「ヒューッ!」
ライブハウスと化したスナックに観客たちの雄叫びが響き渡る。
皆さんはラブリーガールズを覚えているだろうか。
他のアイドルを襲撃したり掲示板を荒らしたり、数々の暴力沙汰を引き起こしてメンバー全員に前科が付いた前代未聞のユニットである。
ついにはファンとの交流ツアー中に起きた流血事件を機に電撃引退することとなった。
※ラブリーガールズについてはサイドクエスト【アイドルになる!】(第41話~)を参照。
二度と日の目を拝むことはないと思っていたが、何を間違えたのか、今宵限りの復活祭の機会が整えられてしまった。
時は大晦日。
忘年会を兼ねた年越しライブ&トークショー。
目いっぱい騒いで呑んで、嫌なことだけ忘れちゃお☆
「またこうしてメンバー一同が揃って舞台に立てるなんてね」
「結成から解散まで、激動の連続だったでやんすねえ……」
マイクを手にしみじみと語るアタイたちに、それを囲うオタクたちもウンウンと頷きを返す。
今までいろんなクエストを攻略してきたけど、思い返せば【アイドルする!】編が一番ハチャメチャやってたかもしれないね。
「ということで今夜はこれまでの思い出を振り返りつつ、本作独特の章構成『クエスト』について話したいと思うよ」
本作は6~7話をひとまとまりのエピソードとして『メインクエスト』や『サイドクエスト』という名で括っている。
メインクエストは打倒魔王に向けた冒険や転生勇者にまつわる話、主要キャラの登場回など、物語の本筋に関わるクエストだ。
一方でサイドやシーズンクエストと呼ばれるものはいわゆる寄り道エピソード。
個性の強いゲストキャラとワイワイ戯れて終わる読み切りの短編みたいな感じだ。
現在が167話目だが、クエストで数えるとメインが11、サイドが14章にまで達している。
「全部を追いかけるのが大変だったら興味のあるクエストだけつまみ食いするって読み方もできるんだわさ」
「サイドを飛ばしてメインクエストだけ読み進めたりね」
「『登場人物紹介』ページの挿絵で気になったキャラのエピソードを覗いてみるってのもオツでやんす」
いろんな楽しみ方ができちゃうのもゴブガの魅力のひとつなんだね。
もちろん、飛ばし飛ばしで読むと知らないキャラが出てきたりすることもあるが、基本は知らないままでも問題なく楽しめるようにできている。
自分に合った読み方を試してみて、その中でお気に入りのエピソードやキャラに出会ってもらえたら感無量だ。
「ちなみに作者のオススメは何を隠そうアイドル編らしいんだわさ」
そうなん?
というかオススメがメインクエストの方じゃなくていいんか……?
「まあでも確かに、アイドル編のノリと勢いだけで突っ走ってる感じは一番『ゴブガらしい』とも思えるんだわさ」
「ぶっ飛ばしすぎて読者置いてきぼりだったんじゃないあれ」
「作者も作者で、謎の情熱で一曲分の作詞もしちゃってやしたし」
ラブリーガールズのデビューソング『マジ☆カル 恋の黒魔術』の歌詞は小一時間でひねり出した即興だったそうなのだが、作者的には満足の出来だと自負してるらしい。
仮にいま改めて別の曲を作ってみようとしても、あのクオリティを越えるものは出せないだろう。
「メインクエストはさすがにプロット立てて伏線敷いて、ってそれなりに頭使うらしいんだわさ。でもサイドクエストは着地点決めずに適当に書き始めてるらしいんだわさ」
「どうせ本筋には関わらないし、どう転んでいっても良いじゃん? みたいな」
「むしろどこまで話をとっ散らかせるかに挑んでる節があるでやんす」
シーズンクエストの【ハロウィンする!】編なんかではアタイを含めた魔物のレギュラーキャラたちが全員死刑にされかけたからね。
あの流れとか完全にそのときの思い付きだったという。
オチもオチてないようなもんだったし。
ったく迷惑な話だねえ!
でも、そうして後先考えず自由に書き進めるからゴブガらしい『ノリと勢い』が実現できるとも言える。
「アイドル編はその筆頭でやしたね。初期の頃のサイドクエストで一発あれやっといたからこそ、可能性開けたみたいなとこあるでやんす」
「一応異世界ファンタジーのカテゴリなのに、ここまでふざけても良いんだ、って」
しかし一方で、勝手気ままにやりすぎることで生じてしまう問題もある。
「言っちゃうと、ドワ子がね……」
「アタチがなんなのさ」
「使いづらいんよ。アイドル衣装着てるドワーフとか、もうネタとして行き過ぎてて」
「他のゲストキャラと絡ませにくいし、再登場のさせ方に頭悩ませるでやんす」
それを聞いてドワ子は顔を真っ赤にした。
「ふざけんじゃないんだわさ! だったらアタチをメインに据えた続編クエストをやればいいんだわさ!」
勘弁してくれよ!
あんな濃ゆいクエストの続きなんて誰が求めるってんだい!
と思ったらドワ子推しのオタクどもがねっとりと黄色い声援を上げた。
「いいぞぉ~! ドワ子ちゅわ~ん!」
「これからはドワ子ちゅわんが主役のアイドル快進撃にシフトチェンジだあ!」
おおはしゃぎでペンライトを振り回すが、今度はそれを聞いた隣のオタクたちがキレた。
ずり落ちかけているメガネのフレームを押さえながら早口でまくし立てる。
「ちょっといい加減にしていただけますか~? ゴブ子ちゃんが主役として再The高なのは確定事項ですので~!」
「それな! ブス専は引っ込んでいただきますぞ! むふう!」
「なにを~っ!?」
互いのチェック柄シャツの襟を掴んで引っ張り合いを始めるギャラリー。
場は騒然となった。
そう。アタイたちのグループはメンバーの方向性が違い過ぎて、それぞれを推すファンのあいだにもまったく協調性が芽生えないのだ。
「所詮ゴブ子はアタチの引き立て役なんだわさ!」
「違えーよ! むしろあんたは引き立て役にすらならない一発出オチキャラなんだよ!」
オタクたちの殺気に呼応するようにステージの上で取っ組み合うアタイとドワ子
ヤンフェはそれを止めるでもなく、やれやれとため息をついて冷笑した。
「争いは同レベルの者のあいだでしか起こらないでやんす。こんな連中と一緒に活動してたなんて、あっしの人生最大の汚点でやんす」
そんなヤンフェのあざけ顔に向けて、アタイは全力でマイクの柄を叩きつけた。
バキッ!
「やんすーッ!」
下顎にクリーンヒットして歯頚を血まみれにするヤンフェ。
さらに間髪入れずにドワ子が背中を蹴り倒し、ステージの床板に顔面から沈む。
足元に広がる真っ赤な血だまりがミラーボールを反射して瞬いた。
――――通報を受けて駆け付けた警官によって、乱闘を起こしていたアタイたちとファンの漏れなく全員が連行された。
もしかして、冷たい留置所で年越しカウントダウン!?
忘れられない新年の幕開けにキュンキュンが止まらない! だゾッ☆ミ
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
女子会編の最後の夜はゲストにメインヒロイン(?)を招いて、今後のゴブガの方針について語っていくよ!
果たして寄り道エピソードばっかり書いてる作者はこの物語を完結させるつもりがあるのか!?
それとも無いのか!?
いや無いってどういうことやねん。
まあ、畳むほど風呂敷も広げてない気もするけどね?
【第168話 ゴブリンガールは見通しを立てる!】
ぜってぇ見てくれよな!




