第14話 ゴブリンガールは説教する!
あれからアキルノ村で地道にクエストをクリアし続けたアタイとジョニー。
だけど……。
「どうもおかしいね! なんで報酬金がこんなにしぶいんだい!」
「クエストってのは半分が慈善活動みたいなもんなのかもな」
「ボランティアなんてたまったもんじゃない! まったく勇者ってのはどいつもこいつも聖人だね! 頭が上がらないよ!」
だけどボヤいたって借金は少しも減らない。
黙って仕事をこなすしかないみたいだね。
アタイたちは次のクエストを受注すべく村の集会所に向かった。
出迎えたのは村長だ。
「受注できるクエストは2つある。『交易路の復旧(レベル10)』と『畑荒らしの退治求む!(レベル13)』だ。どっちから話を聞く?」
「額の高い方は?」
「いきなり金の話か!?」
「当然だろ! 慈善で体張るほどお人好しじゃないんだよ!」
「まあまあ。ともかく話を聞いてみようぜ」
「……『交易路の~』は街道に出没する盗賊退治。『畑荒らしの~』は村の畑地を襲うワイルドボアの討伐じゃ。報酬金はどちらも同じで1500ゼニ。少ないが村の財政も切迫していてな。これが限界なのじゃ」
「やめたやめた! やってらんないね!」
追いすがる村長をつき飛ばしてアタイらは集会所を出た。
「命かけてたったの1500!? クソ村が! 金を出さなきゃたどる末路はひとつだってことを身をもって思い知りな!」
「いくらなんでもしぶすぎだよなあ。だがゴブ子、ちょっと思いついたことがあるんだ」
「なんだいジョニー?」
「もしかしたら報酬の中にEXPが含まれてるのかもしれないぜ。俺たちはそれを受け取れないから少な目に感じるってことだ」
勇者はクエストをクリアすることで金と経験値のどちらともを得られる。
でもレベルが固定されてるモンスターは経験値を得ることができない。
同じ苦労をしても相対的に少ない報酬しかもらえないってことだ!
「割に合わないじゃないか! 真面目に働いて損したよ! そうとわかりゃこんな村さっさとオサラバするよ!」
「だが次の行き先はどうする? どの村のクエストも似たようなもんだろうしな」
「こうなったら金を稼ぐよりもドワーフやエルフどもから逃げおおせる方法を探した方が賢明かもねえ……」
頭を悩ませながら村の敷地を出ると、すぐ目の前に盗賊団が立ちはだかっていた。
「よお、俺たちを懲らしめようって愚か者はお前らか?」
「いいや。行き違いだぜ。そのクエストの受注はやめたんだ」
「そうはいかねえ。掲示板の張り紙を見て村長の話を聞いた時点でこのクエストは自動発生しちまうんだからよぉ」
「意味わかんないこと言ってんじゃないよ! どきな!」
盗賊団は聞く耳を持たず、剣を引き抜いて襲い掛かってきた!
「こんなマヌケな死に方は嫌だぜ!」
「こうなったら足掻くよ! ガチャを回す!」
「どうせまともなアイテムは出ないだろうけどな」
アタイのタップでスマホが虹色に輝き出す!
頼むぞ課金フルパワー!
SSRで最凶モンスターにメイクアーップ!
~獲得アイテム一覧~
・つまようじ(使用推奨レベル1) ×4
・粉洗剤(使用推奨レベル3) ×5
・何者かの髪の束(使用推奨レベル18) ×1
終わった――――。
アタイらは盗賊団に捕まった。
~~~
盗賊たちはアタイらを縄で縛るとゲス笑いで話し始めた。
「へへへ。レベル2のザコモンスターのくせに勇者のマネ事かよ。痛い目に遭わせて現実をわからせてやらねえとなぁ」
「しかし、こんなのを捕まえても金にはならねえぞ。ドワーフのギャング団にでも売り渡しちまうか? 二束三文にしかならねえだろうがな」
「うへへへ」
「――――もう売られてんだよ」
「え……?」
アタイから発せられた低い声に盗賊たちはキョトンとした顔を向ける。
「エルフに故郷を担保に取られ、ドワーフの下働きをさせられ、命かけて小金稼ぎに奔走してんだよ! あんたらみたいな気ままな盗賊に何がわかる!? 固定レベル2のクソザコモンスターの苦しみがわかるってのか!? ああ!?」
我ながら波乱万丈すぎる半生だね。
思わず涙が出てくるよ。
アタイの激昂に盗賊たちも押し黙り、気まずそうに目線を伏せる。
まるで通夜のような重苦しい空気が立ち込めた。
そのとき、アタイらの荷物を漁っていた盗賊の一人が声を上げた。
「おい、来てみろよ! こいつらとんでもない物を持ってやがったぞ!」
そいつが手にしてたのはさっきのガチャで出た粉洗剤。
~粉洗剤(使用推奨レベル3)~
粉末状の洗濯洗剤。
洗浄力に優れるが水に溶けにくいのでしっかりすすぎ洗いをしよう。
「なんだか良い香りがするな……」
「こいつを使って服を洗ってみようぜ」
奴らは盗賊のくせしてよほどのキレイ好きらしい。
粉洗剤を使ってさっそく近くの小川で洗濯を始めた。
「なんだこれ!? みるみる泡立っていくぞ!」
「魔法のように油汚れが落ちていく!」
「鼻に透き通る清潔な香り……! たまんねえ!」
仕上がりは驚きの白さ!
そして柔らかな肌触り!
「柔軟剤も入れたのか?」
「いいや、洗剤だけっすよ!」
「気持ちイイ!」
野郎どもの爽やかな笑い声が辺りに響く。
「大変だ! こいつら清涼薬も持ってたぞ!」
盗賊の一人がアタイらの荷物から薬草を見つけ出した。
「これは回復薬としてだけじゃなく、すり潰して液状にすれば清涼剤になる薬草だ。どこで手に入れた?」
「そこの村でクエスト報酬で出たよ」
「なんだって!? そんなに簡単に手に入ったのか……!」
「街道を通る商人を待ち伏せするだけじゃ気付けなかったんだな」
盗賊たちはなにやら会議を始めた。
「村人の手伝いをするだけで望む物が手に入るんだ。いっそあの村に住み込みで働かせてもらおうぜ」
「そうだそうだ。そうしよう」
「正直言うと彼らを襲うのに罪悪感もあったしな」
なんだいなんだい!
何を話してんだいこいつらは!?
呆れたね、これで本当に盗賊かよ!
「フヌケたこと言ってんじゃないよォ!」
アタイは再び激昂した!
「欲しいもんがあるなら奪い取るのがあんたらの仕事だろうが! 盗賊の名が泣くね! その腐った根性を叩き直してやるよ!」
「し、しかし……」
「つべこべ言わずに武器を取りな!」
言われるがまま武器を手に整列する盗賊たち。
「おいゴブ子、なに始めるつもりだよ……!?」
慌てるジョニーをアタイは制止した。
「……これからあの村を襲撃する!」
ザワザワとどよめきが広がる。
だがアタイの殺気を感じ取ったのか、皆が口を閉じてそっと姿勢を正した。
――――タダ働き同然でこき使ってくれた村人ども。
このゴブ子様を怒らせて無事で済むと思ってんじゃないよ!
首洗って待ってな!
今から地獄を見せてやるからねえ……!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
村人と盗賊たちとの全面戦争、それを裏で扇動するアタイたち。
それぞれに譲れないものがあるのだから、傷つけ合うしか方法はないんだよ!
そんなこんなでドタバタしてたら予想外の第三勢力が乱入してきて……!?
荒れに荒れ狂う総力戦、勝利の女神が微笑むのはどいつだい!?
【第15話 ゴブリンガールは村を襲う!】
ぜってぇ見てくれよな!




