第143話 ゴブリンガールは暗躍する!
宴も終わって夜の静けさを取り戻した河原の野営地。
その周囲を闇に紛れて駆け抜けるいくつかの人影。
アタイとタジ、そしてゴンザレスの3人組だ。
アタイたちは悪の集団『ハイベンジャーズ』のギルド長であるクラリスの寝首を掻こうと暗躍しているのだ!
ちなみに「ハイベンジャーズってなんぞ」という読者のために簡単に説明しておこう!
実力が伴わなくてクエストに行き詰った勇者たちが集まり、村人から金を巻き上げたり格下の勇者を襲うといった盗賊まがいの悪事をしていたギルドのことだ。
だがそれもシブ夫たちの活躍で次々と幹部を失い、次第に瓦解していったみたいだね。
ちなみにタジとゴンザレスも元構成員だが、シブ夫に敗れて改心したクチだ。
「俺たちは組織を完全に壊滅させるために秘密裏に残党たちの行方を追っていたんだぜ!」
「そうして偵察の末にたどり着いたのがこのアジトだったというワケなのだ!」
「ふうん、なるほどね!」
しかし引っかかることがある。
クラリスと話した感じ、彼女たち残党部隊もとっくのとうに心を改めているみたいなのだ。
おそらくギルドを悪の方向に導いていた上層部の人間が一掃されて、あとは貧弱ながらも心の優しい連中が残ったという感じだろう。
このまま彼女に任せておけばきっとハイベンジャーズは良きギルドとして生まれ変わることだろう。
……だが、アタイはその事実に気が付きながらもあえて誤解を解かずにおいた。
なぜかって?
クラリスの奴が気に入らないからだよ!
真面目で正義感が強くて、仲間を路頭に迷わせないためには自己犠牲もいとわないという聖人っぷり!
どことなくスージーに似通ったところがあるね!
それでいてちょっとドジっ子属性も含んだ健気でひたむきな年下後輩キャラ!
ウザイんだよお……!
そしてこれが本音なのだが、たぶん流れ的にこいつもシブ夫に恋に落ちる。
そうアタイの勘が告げている。
間違いが起こる前に叩き潰しておく必要があるね!
ついでに言うとタジとゴンザレスのホモどももシブ夫のケツを狙っている。
つまりここで3者が相討ちになってくれればゴッソリ漁夫の利を得られるということだ。
ウシシ……。
アタイは胸中に腹黒いものを渦巻かせつつ、ホモどもをクラリスの眠る中央テントへと先導した。
「準備はいいな? 行くぞ!」
「いつでもいけるぜえ!」
タジが双剣を振るってテントの足を折り、続けざまにゴンザレスが火をまとった吹き矢を撃つ。
音を立てて崩れたテントは瞬く間に燃え上がった。
いいよいいよ!
ガチで殺しにいってるよ!
さあもっとアタイを楽しませておくれ!
とウキウキだったのも束の間、情けない叫びを上げてテントから這い出てきたのはモリ助とジョニーとスラモンだった。
ザコ3人はなぜ寝込みを襲われたわからず動転している。
「なんで!? え! 何やってんの!?」
「なんでいきなり火付けてんの!? 俺らを殺すの!?」
アタイは服に移った火を必死に消そうとしているモリ助に近寄り、胸倉を掴んで荒々しく叫んでやった。
「クラリスの奴はどこに行ったんだい!」
「ゴブ子ちゃん!? え? クラリスちゃんならシブ夫と河原で熱心に話し込んでたけど……? え? なんで?」
アタイは燃えたままのモリ助を地面に転がすとタジとゴンザレスに振り返る。
「ターゲットは河原だ! 野郎ども、行くよ!」
だがそこままで十分に騒ぎが大きくなってしまったらしい。
他のテントから続々とギルド員たちが顔を覗かせ始める。
「あれはたしか、組織を裏切ったタジとゴンザレス……」
「俺たちを追いかけて来たんだあ……!」
どよめきと悲鳴が広がる中、河原の方からシブ夫とクラリスが足早に駆けてきた。
「これはなんの騒ぎですか?」
「あなた方はお話に聞いたタジ先輩とゴンザレス先輩? 初めまして! 私、ギルドの新入りのクラリスと言います!」
「悠長に自己紹介なんかしてんじゃないよお!」
アタイは盛大にツバを吐き捨てながらクラリスににじり寄る。
「やいあんた! 夜更けの河原にシブ夫を連れ出して一体なにしてくれてたんだい!?」
「はい! 相談に乗ってもらってたんです! どうやったらギルドを上手にまとめていけるのかとか、いろいろアドバイスをいただいて……。シブ夫先輩、ありがとうございました!」
「僕の方こそ、お役に立てて嬉しいですよ」
ニコリとほほ笑みを交わす2人。
アタイは嫉妬で頭が爆発しそうだった。
「シブ夫くぅん! 騙されちゃダメだぜ! こいつらはハイベンジャーズの残党なんだからさ!」
「シブ夫きゅんを熱心に誘って組織に入れたあと、隙を突いて復讐を果たすつもりだったに決まっているのだ!」
タジとゴンザレスがギャンギャンと吠える。
このギルドがかつての敵対組織だったと知って驚くシブ夫だったが、それ以上に呆気に取られていたのはクラリスの方だった。
「え? じゃあギルドの幹部を次々と打ち倒した伝説の勇者っていうのがシブ夫先輩のことだったんですか!?」
いうや否や瞳を輝かせてシブ夫の手を握りしめる。
「あなたが革命を起こしてくださった張本人! 確かに組織は窮地に立たされましたが、だからこそ多くのことを学ぶことができたんです! その大先輩とこうしてお近づきになれるなんて、私感動しちゃいます!」
なんで!
なんでそういう流れになっちゃうの!
もうイヤ!
なんとしてもここで聖人クラリスの息の根を止めて、正しい道へと進み始めているハイベンジャーズを滅ぼすよ!
間違いだとしても構わない!
それがアタイたちの正義だ!
つ・づ・く
★★★★★★★★
イライラするねえ!
ハイベンジャーズはこれまで通り悪事や厄介事を巻き起こしてみんなを困らせてりゃいいんだよ!
初心を忘れてんじゃないよ堕落者どもが!
模範勇者なんてクソくらえだよ! クソったれ!
次回予告!
【第144話 ゴブリンガールは出る杭を打つ!】
ぜってぇ見てくれよな!




