第12話 ゴブリンガールは運に見放される!
~ワイバーン(討伐推奨レベル53)~
前足が大きな翼に進化した二本足の飛竜。
様々な場所を生息地とし、中には洞窟を寝床とするものもいる。
洞窟の奥からノソノソと現れたワイバーン。
睡眠を邪魔されたとあって見るからに気が立っている。
「ちい! こうなっちまったら仕方ねえ! お前ら、覚悟決めろォ!」
『ショートレッグス』の面々は一斉に背負った斧を引き抜く!
さすがにギャング団だけあって戦闘慣れしている。
ジリジリと間合いを詰めながら豪快な大振りでワイバーンに切りかかっていく。
だが彼らの小柄な体格は巨大な飛竜を前にするとまるで赤子のように見えた。
ワイバーンの大翼のひと振りごとに強風が巻き起こり、ドワーフたちは吹き飛ばされていく。
「ジョニー! アタイらも加勢するよ!」
「おう! これを使え!」
~メガホン(使用推奨レベル4)~
プラスチックでできたラッパ型の筒。
簡易拡声器として使われるほか、スポーツ観戦の応援時には手すりに叩きつけて大きな音を出す。
アタイとジョニーは目いっぱい空気を吸い込むとメガホンに口を近づけた。
「ハイ! ハイ! ハイハイハイ!」
「ドワーフさんの! ちょっと良いとこ見てみたい!」
「はいドドスコスコスコ! ドドスコスコスコ!」
アタイらの決死の応援歌も虚しく、ドワーフは次々と宙に投げ出されて洞窟の壁に叩きつけられていく。
「やいコラ短足オヤジども! もっと真面目に戦いな! ポンポン空飛んで、お遊戯会じゃないんだからさあ!」
「黙ってろ! 喚くだけでクソほどの役にも立たねえゴブリンとガイコツが!」
「仕方ないよなあ。だって俺たちレベル2のザコモンスターだしな」
こうなったら奥の手を使うしかないね!
アタイは懐からスマホを取り出す。
「おいゴブ子、正気か!? また借金がかさむだけだぜ!」
「イチかバチかに賭けるしかないよ! 大丈夫。こういう絶体絶命の状況に限って良いアイテムが出るもんなのさ。いわゆる主人公補正とかご都合展開ってやつでね!」
アタイのタップでスマホが虹色に輝きだす!
さあ、今度こそいでよSSRアイテム――――!
~獲得アイテム一覧~
・つまようじ(使用推奨レベル1) ×1
・ボンド(使用推奨レベル1) ×2
・クラッカー(使用推奨レベル3) ×7
クソがーッ!
この状況でも補正なしとか本当に主人公かよアタイは!?
「しかもクラッカー出すぎだろ! もうパーティータイムは終わったんだよ!」
そうこうしてる内にワイバーンが目の前まで迫っていた!
大きな翼をギュンと鳴らし、それは風を切りながらアタイとジョニーに接近する。
アタイは間一髪でかがんで避けたが、隣のジョニーはクリティカルヒットした。
「あ~れ~!」
ジョニーはそこら中の関節が脱臼し、バラバラになって吹き飛ばされた!
「よくもやったね!」
ワイバーンの頭がこちらを向き、アタイを飲み込もうと顎を大きく開く!
半ベソのアタイはヤケになり、その大口めがけてクズアイテムが入ったままのカバンを投げつけた!
カバンは見事にワイバーンの口の中に呑み込まれ、同時にビンのようなものが割れる音がした。
ガシャン!
そこでアタイは気付いた。
カバンの中には以前のガチャで唯一出た☆4アイテム、『硫酸』が入ったままだったことに!
「グエエエエエエエ!」
ワイバーンは断末魔の雄叫びを上げ、ジュウジュウと頭から煙を立ち昇らせる。
たちまちの内に首から上が溶けて真っ白な頭蓋骨に変わり果ててしまった。
えっぐ……。
ん? ちょいと待ちなよ。
そもそも硫酸があることを覚えてれば、こんな洞窟に連れ込まれる前にドワーフどもを始末できてたんじゃ……?
それに気付いたところですでに後の祭り。
「何が起こったんだあ……?」
ズタボロのドワーフたちは斧を杖代わりにしてヨロヨロと立ち上がる。
自然と視線がアタイに集まってきた。
驚きと一種の畏怖が込められた注目に、慣れないアタイは動揺する。
「……んだよ。なに見てんだよ」
なんだか気恥ずかしくなったアタイは握りこぶしを作ってえいやと頭上高くに突き出した。
「っしゃあーオラァ! 正義は必ず勝つ!」
~~~
洞窟を出ると辺りは日が暮れて真っ暗だった。
随分長い時間を穴の中で過ごした気がしてたが、あながち間違いじゃなかったらしい。
「今日はここにキャンプを張るとしようぜ。凶暴な魔獣もいなくなったことだしぐっすり安眠できそうだ」
ドワーフたちは火を起こしてワイバーンから採取した肉を炙り始める。
伝統料理はBBQというだけあってドワーフの手際は良かった。
あっという間にゲテモノステーキが焼き上がり、マンドラゴラの蒸留酒で祝杯を挙げる。
「打倒ワイバーンと全員の生還を祝って、カンパーイ!」
歌って飲んで、やんややんやの大騒ぎ。
ウワサの通り、ドワーフの宴ってのは威勢が良いね!
さっきガチャで出たボンドで応急修理してやったジョニーもご満悦で踊り狂っている。
「それにしてもよくやってくれたぜ! ゴブリンは白骨化魔法でも使えんのか?」
「ふふん。そいつは企業秘密だよ」
アタイは上機嫌だ。
早くも酒が回って顔が真っ赤のドンフーに自信満々に言ってやった。
「あんたたちの命も救ってやったし、これで銀行の件もチャラだね。万事解決してくれて嬉しい限りだよ」
「ああん? なんの話だ?」
……アレ?
なんだか嫌な予感がするよ?
「えっでも……。この宴はアタイらへの感謝の印じゃあ……?」
「誰がンなこと言ったんだよ。俺たちは飲みたいから飲んでるだけだぜ」
「いやでも、魔獣を倒したことで近隣の村から報酬金が出るんすよね?」
「ああ。30万ゼニは固いだろうな。だが倒さずに生贄を捧げてりゃ10万は稼げた。それを10年続ければ100万は引き抜けてたんだぜ。つまり差し引き70万の損失だよ」
グビリと蒸留酒を煽るドンフーの隣で、アタイはダラダラと冷や汗が止まらない。
「今回の戦闘で怪我を負った俺の部下たち、そして電気攻めされたエルフの治療費、その総額をお前らの借金に上乗せしとく。今後は俺様の下について厄介な仕事を請け負ってもらうとするぜ。なあに、白骨化魔法もお茶の子さいさいのゴブリンガールなら容易い案件だ。心配しなさんな」
ガハハと豪快に笑うドンフー。
~現在の通帳残高~
残高 -2,710,000ゼニ
支出 -1,440,000ゼニ
差し引き -4,150,000ゼニ
アタイはふらつく足取りでジョニーに近づき、耳元で囁いた。
「今夜、この場でドワーフども全員の息の根を止めるよ」
「はあ? どうやって?」
「こいつを使ってだよ!」
涙目のアタイはスマホをジョニーの顔面に突き付ける!
「バカなマネはよせゴブ子!」
「離せえっ! SSRを出すんだ! 何もかも焼き払って一からやり直すんだあー!」
やっぱり硫酸はドワーフどもに使うべきだったみたい!
コンチクショウが!
冒険はまだ始まったばかりだってのに、一体全体どうなっちゃうの――――!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
各地の村に設置されてる『クエストボード』。
いろんな依頼がピンからキリまで揃ってるね。
ガチャと工夫次第でアタイらにも解決できそうなものがあるみたい。
よーし、クエストを消化して小金を稼いで、村に笑顔を取り戻して……。
ん? ちょっと待てよ。
これって勇者の仕事なんじゃ……?
【第13話 ゴブリンガールはクエストをこなす!】
ぜってぇ見てくれよな!




