第10話 ゴブリンガールは銀行強盗する!
ターゲットはエルフ中央銀行出張店。
その入り口を見張るようにして、覆面を被ったアタイとジョニーは草むらに身を隠していた。
汗で湿る手にはスタンガンを握りしめて……。
「本当にやるんだな? もう後戻りはできないぜ」
「決まってんだろ。アタイらには既に戻り道なんて残ってないんだよ……!」
~今から数時間前~
調子こいてガチャを回し続け、気付けば271万ゼニもの借金をこさえていたアタイたち。
頭を抱えてため息を吐くばかりだった。
「ひとまずガチャで出たクズアイテムはすべて売り払ったが、二束三文にしかならなかったぜ」
「これを元手に271万を取り戻そうなんて天性のギャンブル師にもできないよ! ちなみに使えそうなアイテムはどのくらい残ったんだい?」
「かろうじてひとつ☆4のレアが出たんだ。それは大事に残しといたぜ」
ジョニーはカバンから何やら液体の入ったビンを取り出した。
~硫酸(使用推奨レベル74)~
無色透明の強酸性の液体。
人体から金属に至るまで幅広い物質を溶かす劇薬。
「……強力そうだけどなかなか使いどころが難しそうなアイテムだね。もっとサッと使えてガツンとダメージを与えられる武器は無いのかい?」
「☆3に良さそうなのがいくつかあるな。このスタンガンってのはどうだ?」
~スタンガン(使用推奨レベル40)~
高電圧を作り出し対象者の筋肉を収縮させて行動不能に陥らせる防犯グッズ。
あくまで護身用の道具であり殺傷能力は持たない。
「麻痺系統の状態異常を与えるのか? いいね、こういうのを待ってたんだよ!」
「同じのが10個くらいダブってるぜ。だがよお、これを一体何に使うんだ?」
「よく聞きなジョニー。今からアタイらは銀行を襲撃する」
「はあ!?」
「作戦はシンプルだよ! このスタンガンってのでエルフを痺れさせ、金を奪いトンズラする!」
「シンプルすぎて作戦とも呼べないぞ!」
「これが上手くいけばアタイらは大金持ちだ! なによりあの高飛車なブサイクエルフのとんがり耳もへし折ってやれるしねえ」
義理人情のカケラも持たずに負債者を切り捨てる、冷酷なエルフの血は根絶やしにしてやるよ!
~~~
ターゲットはエルフ中央銀行出張店。
その入り口を見張るようにして、覆面を被ったアタイとジョニーは草むらに身を隠していた。
「アタイの合図で一気に突っ込むよ! ジョニー、ついてきな!」
「おうよ!」
アタイらは扉を蹴り開けて銀行内に突入した!
「手を挙げろ! 俺たちは強盗だ!」
ヤンフェは豆鉄砲を喰らった顔で勢いよく手を挙げる。
「な、何が目的で……? 金でやんすか!?」
「それもそうだが、まず初めに頂戴するのはあんたの命だよォ!」
アタイはスタンガンを前に突き出してヤンフェに飛び掛かった!
「死ねえぇえ!」
アタイの手からほとばしる青白いイカヅチ!
バリバリバリバリ!
「やんすぅーッ!」
ヤンフェは泡を吹いてその場に倒れ込んだ!
「驚いたね! こいつはさながら雷魔法だよ!」
一度使ったアイテムは消えちまうが、焦ることはない。
まだまだ予備のスタンガンはたくさんあるんだからね。
「こ、こんなことをしてタダで済むと思うでやんすか!? あっしらの背後にはエルフ金融業界の本元があるんでやんすよ!」
「なら本元ごと潰してやるまでだ! 森の妖精は森にこもってろっての!」
「あんたには気が触れるまで電気を流してやるとしよう! やっちまいな!」
アタイとジョニーは次から次にスタンガンをヤンフェの体に突き付けていく!
「社会的弱者の痛みを思い知れ行員!」
バリバリバリバリ!
「いっひやいぃいぃぃぃぃぃぃ!」
小さな店舗内にヤンフェの壮絶な悲鳴が響き渡る!
それは過激派テロリストも青ざめるレベルの凄惨な拷問だった。
「ああ、良い気分だね! 人の体に電流を流すのがこんなに気持ち良いとは知らなかったよ!」
「おいゴブ子、満足するのはまだ早いぜ。本来の目的を忘れてるじゃねえか」
「おっとそうだったね。大事なことをやり残しちまうとこだったよ」
アタイはペロリと舌を出してはにかむ。
「……さあて、それじゃ伸びてるこいつのとんがり耳を順番にへし折っていくとするかね!」
ボキボキと指の骨を鳴らし暗黒微笑を浮かべるアタイとジョニー。
――――そのとき、突然入り口の扉が開いた。
「よぉ、邪魔するぜ!」
ぞろぞろと中に入ってきたのはドワーフの男たち。
アタイらの腰ほどまでの背の高さで、図太い腕を組んで偉そうにこっちを見上げる。
「俺たちゃセキュリティー会社のもんだ。銀行に少しでも異常が起こりゃものの3分で駆け付ける。あんたらが金を運び出す前にこうして会えて光栄だぜぇ」
「金を運び出すだぁ? アタイらの目的はこのクソ行員を血祭りにあげることだよ!」
「そしてついでにいくらかの金を運び出すことだぜ!」
「どうでもいいけどよぉ! 俺たちは仕事をしに来ただけだ! 弁解は檻ん中でしやがれザコモンスターども!」
ずんぐりむっくりのドワーフたちは小癪にも斧を取り出して臨戦態勢を取った。
「アタイらを殺ろうってのかい!? ならそこに転がってるブサイクエルフと同じ末路に送ってやるよ!」
アタイはカバンをまさぐる。
だけどどれだけ腕をかき回してもスタンガンが見つからない。
「あっべ! 調子に乗って使いすぎたね! もう残ってないよ!」
いくらヤンフェの苦しむ姿が滑稽だからって、スタンガン10本分もの電流を浴びせちまうとは。
うかつだったね……!
ドワーフはいかつい顔をずいと寄せてすごんで見せた。
「怪我したくなきゃ大人しくお縄に掛かるこったなぁ。なあに、悪いようにはしねえからよ。お前らの処遇が決まるまでの間はな……!」
アタイとジョニーはしゅんと静まって両手を挙げた。
傲慢なクソエルフをちょこっと懲らしめてやっただけなのに、どうしてこんなことになっちまうんだい……!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
用心棒に密輸・密売・密造となんでもござれ。
ドワーフ様はさながらファンタジー界のギャングですのね。
ふむふむ。この洞窟には凶暴なワイバーンが棲みついてる?
年に数回供物として生き血を捧げる?
まあ、なんて大変なことでしょう。
お忙しいようなので、アタイらはここらでおいとま致したいのですが……。
【第11話 ゴブリンガールは生贄に捧げられる!】
ぜってぇ見てくれよな!




