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ゴブリンガールはガチャを引く!  作者: 仲良しおじさん
メインクエスト【課金地獄に落ちる!】編
10/251

第9話 ゴブリンガールは課金地獄に落ちる!

挿絵(By みてみん)



 新品ピカピカの貯金通帳。

 その残高欄には1万ゼニの表記。


「うふふ。手元に金があるってのは良い気分だね!」


 村ひとつを担保に掛けたにしちゃはした金だけど、あのくたびれたゴブリン集落じゃ文句は言えないね。


「さっそくガチャを回してみるかね! ええと、まずはソシャゲ内で『石』を買わないとねえ」

「スゲエ! ちゃんと『有償石』ってのの数が増えたぜ! ショップに行ってみろよ!」

「この『10連ガチャ』ってのはなんだい?」

「一気に10回もガチャが回せんのか! 手っ取り早くて良いじゃねえか!」


 アタイとジョニーは二人してスマホの画面をのぞき込みながら大はしゃぎ。


「……それじゃあ行くよ!」


 アタイはゴクリと唾を飲み込み、【ガチャ】の文字を力強くタップする!

 液晶画面から虹色の光があふれ出す!

 さあ、いでよバランスぶっ壊れのチート武器!

 これでレベル2のアタイも最恐最悪モンスターにメイクアーップ!



~獲得アイテム一覧~

・バールのようなもの(使用推奨レベル5) ×3

・つまようじ(使用推奨レベル1)     ×2

・絆創膏(使用推奨レベル2)       ×5



 ……ハア?(威圧)


「なんだよこのゴミクズは! SSRはどうしたんだい!?」


 アタイたちは混乱した。


「もしかしたら、初めに回した無料ガチャは確定演出ってやつだったのかもな……」

「なんだいそりゃ!?」

「ソシャゲを初プレイしてくれたお礼のプレゼントってことさ」


 アタイたちは大慌てでガチャの説明文を読む。


「ここにアイテムの排出確率の一覧があるぜ……」

「なんだよこれ! ☆5のSSRはたったの1%しかないよ!?」

「というかこの数字じゃほぼほぼ☆2以下しか出ないぜ! 渋いにもほどがあるぞ!」


 がっくり肩を落としたアタイたちだったけど、すぐに気持ちを立て直した。


「めげるにはまだ早いよ。時間はたっぷりあるんだ。レアアイテムが出るまで繰り返しガチャを回せばいいだけの話じゃないか」


 それからアタイらは躍起になってガチャを回し続けた。

 それこそタップで指が擦り切れるまでね。

 そして回すたびにアタイらの目の前に積もるガラクタの山も大きくなっていった……。


「はあ、はあ……。それにしても、これだけ回してもまだ金が尽きないとは、率は渋いが価格はかなり良心的なようだね」

「10連1回あたりいくらなんだ?」

「さあね。でも足りなきゃ有償石は買えないはずだろ?」


 それを聞いてジョニーの顔がみるみる青ざめていく。

 大急ぎで近くの魔印トーテム(ATM)に駆け込み、通帳を突っ込んで記帳ボタンを押した。

 吐き出された通帳の中身を見て卒倒するジョニー。


「どうしたんだいジョニー! 目を覚ましな!」


 駆け寄ったアタイもジョニーが握ったままの通帳を見て絶句する。


「ヒエッ……!」


 生き物ってのは本当に驚いたとき悲鳴が出ないものなんだね。

 喉の奥から空気が掠れ出るようにして音が鳴るだけだった。


 残高欄にはマイナスのマークとずらりと横並びになった「0」の数字。

 見たこともない桁数の借金ができあがっていた。


「なんで……! どうして……!?」

「それがクレジットカードの怖いところさ……」


 気を取り戻したジョニーが弱々しく起き上がる。


「月末の締め日までに帳尻が合うんなら、それまでは湯水のように架空の金を練り出しちまう。呪われた錬金術なのさ……!」

「知らず知らずの内に金を使い込んでたってことかい! どうすりゃいいのさ?」

「こうなったら消費者庁に泣きつくしかねえ。今すぐにな!」


「いや……。待ちな……」


 アタイはもう一度ソシャゲの画面を引き出し、震える指を【ガチャ】の文字に近づける。


「何やってんだゴブ子! こんなことになったのはそいつのせいだぞ! まだガチャを続ける気かよ!?」

「だからこそだよ! SSRさえ引き当てちまえば全部を帳消しにできる! 一発逆転だ! もうアタイらにはそれしかないんだよ!」

「さらなる地獄を見るだけだ!」

「それでもやるしかないじゃないか! 故郷の集落やみんなの命だって賭けてんだよォ!」



……それから夜が明けるまでアタイらはガチャを引き続けた。

その結果は……。


~現在の通帳残高~

残高    10,000ゼニ

支出    -2,720,000ゼニ

差し引き  -2,710,000ゼニ


 271万の借金ッ――――!

 ☆5アイテムはゼロ、というかほぼ☆1か2――――!

 無念ッッ――――!



 アタイらはエルフ銀行に駆け込む。


「破産だよ! 自己破産を申請する!」

「来たよ」


 窓口係のヤンフェは鼻で笑った。


「困りやすねぇお客さん。まだ口座を開いて1日でやんすよ?」

「四の五の言ってんじゃないよ! 切羽詰まってんだよ!」

「あんたらの会社、まだひとつも活動してないのに倒産するってんで? そりゃあ詐欺でやんすよ。裁判にかけられれば絞首刑か火あぶりでしょうねぇ。もちろん担保に掛けたゴブリン集落は解体され、住人たちは奴隷として売りさばかれることでしょう」

「あ、あんたには血も涙も無いのかい……!?」

「せいぜい月末まで資金調達に奔走するんですな。失敬失敬、当店は15時で閉店なもんで」


 ヤンフェの嘲笑が響き、問答無用で窓口のシャッターが下りる。


 ……クソ山クソ太ァー!


 見事なまでの転落ぶりだね!

 まるで狐につままれた気分だよ!

 この絶体絶命のピンチをどう切り抜ければいいってんだい!?




 つ・づ・く


★★★★★★★★


 次回予告!


 月末までに多額の借金をゼロまで戻すですって!?

 どんな上級魔法を使ったって叶いそうもないじゃない!

 ……いいえ、諦めてはダメよ。

 私たちはいつだってピンチをチャンスに変えてきたんだもの。

 この状況を切り抜けるための方法は必ずどこかにあるはずだわ!


【第10話 ゴブリンガールは銀行強盗する!】

 ぜってぇ見てくれよな!



挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 絵にかいたような転落人生…… 世の中の最底辺からでもそこからさらに転落することができるなんて
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