中
続きます。TS回です。
う〜ん…ここはどこだ?
確か俺は食堂でリュウと話してて…床が斜めで…?
俺も意識を失った?
どこだかわからないベッドで目を閉じたまま考える。
それにしても…病人の上にものを置くなよな…。妙に胸元が息苦しいじゃないか。
大方替えのシーツか着替えあたりがあるんだろうけど、そういうのは別のテーブルとかにおいて欲しいもんだぜ。
そんなことを思いながら体を起こす。
たゆんっ!
そんな効果音とともに胸元が引っ張られる。思わず前のめりになりながら考える。
何だ?動物か何かが服の中にいたのか?そう考えて胸元を覗いて思考が固まった。
!?お、女の谷間があるぞ?!?!
え、コレっておっぱいだよな??何で俺から生えてんの????
「何で…!?」
誰の声だ?!こんなおっぱいが生えた姿見られたら死ねる。目撃者がいるなら口を封じなければ!!
「誰だッ…て!?」
こ、コレ俺の声か!?
…ダメだな。混乱してる。落ち着いて状況を整理しないと。ふぅ。
順番に行こう。『困難な時ほど冷静に』尊敬する騎士団長様の言葉だ。
その1、胸からおっぱいが生えてる。
その2、口から可愛い声が出る。
結論。どうやら女になってしまったらしい。
って待て!ということは!下もか!?
ズボンの中に手を入れて確認する。空ぶる右手。
再度試行。現実は無常である。
「俺、まだ童貞だったのに…。」
ある意味では童貞喪失ってか?やかましいわ!!
脳内で一人漫才をしていると、不意にベッド周りのカーテンが開かれた。
あ、カーテンで区切られてるってことはお屋敷の医務室かココ。
などと思いながら俺はカーテンの向こうの人影に向けて言い訳を開始する。今の俺は不審な女だからな。
不本意だけど。捕まったら嫌だし。
「あ、俺…私は怪しいものじゃなくて…」
人影はどうやら女のようだった。引き締まったスレンダーな女だ。
怪しまれているという負い目からついつい足元を見て話してしまう。正直顔を見れない。
…?何もいってこないな?やっぱり目を見て話さないのは失礼だったか?
思い切って相手の顔を見て俺は本日二度目の驚きに包まれた。
「え?リュウ??のおねぇさん?」
いやいや俺は何をいってるんだ。リュウに兄弟がいないのは知ってるじゃないか。
…え、じゃあ本人?いやでも男が女になるなんてそんなことあるわけ…
あったわ!!!!今の俺じゃん!!てことはリュウも女になったのか?
「あぇ…やっぱりレン?」
あ、声かわいい。じゃなくてやっぱりってことは…
「やっぱりリュウ?」
…。
「「えぇーーー!?」」
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しばらく混乱していた俺たちだが、医務室のドアが開いた音で我に返った。
「レンにリュウだね?君達に話がある。」
そう言ったのは執事長だった。
どうして俺たちの変わった姿に驚かないのか疑問に思ったが、上司の登場に居住まいを正して返事をする。
「は、話とはどのようなものでしょうか?」
自分の口から他人の声が出てくるのは不思議な感じがする。
「ふむ。まず君たちにいくつか尋ねることがある。別に怒っているわけではないので素直に答えて欲しい。」
執事長は医務室の椅子に腰掛けながら話す。
「了解致しました。」
俺に一拍遅れて正気に戻ったリュウが敬礼をしながら言った。随分と様になっている。
「君たちは昨日の夜に食堂で倒れているところを発見されたのだが…昨日はプラムを食べなかったかね?それと疲労回復ポーションも」
真剣な目で執事長が問いかける。
「は、はい食べました。」
こっそり拝借したプラムだったので、思わず詰まりながら答える。隣でリュウも頷いている。
「疲れていたのでポーションも飲みました。レンにも半分あげました。」
リュウが補足してくれる。こういう時に幼馴染のコンビネーションが生きるよな。
「…そうか、やはりな。」
執事長はひとしきり納得した後、話し出した。
「実は疲労回復ポーションは私の特製でな。オリジナルの材料を使っているのだが…その中の【テンセイソウ】という薬草がプラムと反応すると特殊な薬効を示してな。」
嫌な予感がするが、上司の話を遮るわけにもいかない。隣のリュウも同じ様子だ。
執事長は続ける。
「君たちも御察しの通り、性別を変えるという効果だ。」
やっぱり…。あ、でも性別を変える効果なら…!
「ではもう一度その組み合わせで摂取すれば!?」
俺は勢い込んでそう尋ねるが、執事長は手で俺を制しながら言った。
「残念ながら、体を全て作り変える効果だからな。二度目は…死ぬ。負担が大きすぎるのだ。」
絶望的な宣告に俺とリュウは黙り込んでしまう。
「私が作ったポーションが原因だ。君たちにはこれからもここで働いてもらえるようにお屋形様に取りなそう。…もちろん、君達さえそう願うならば、だが…。」
執事長はそう言って話を締めくくった。
思わずリュウと顔を見合わせてしまう。
考えてみると、ここ以外の働き先では最初から女として扱われるのか。それは少し嫌かもしれない。それに給料だって今以上は期待できないだろうし…。
リュウも同じ考えに至ったのか、執事長にこう言った。
「僕、ここで働きたいです!」
俺も続けて言う。
「俺も同じです!」
「そうか。ではそうできるように全力で取り組もう。」
心なしか嬉しそうに執事長は言った。
「しかし、その服のままというわけにはいかんな。あとで自室に着替えを運ばせよう。」
その言葉で、女物の服を着る未来を思い描き絶望した。