11・猛勉強
目標があると言う事は、こんなにも頑張れるものなのか・・と佳弥は心底思った。
今まで、試験だろうが何だろうが勉強なんてやったことが無かった。
せいぜい試験の数日前から数時間する程度・・それがだ・・
休み時間も勉強、昼休みも勉強・・そして放課後は港希に教えてもらい
家に帰ってからも、勿論勉強の毎日。
あまりの変貌に家族も心配になるくらいだった。
「昨日、リビングで勉強してたら、姉ちゃんにマジで心配されたよ」
笑いながら言う佳弥に拓海は小さく溜息をついた
「そりゃ、心配もするよ・・今までが今までだもん・・」
「俺、こんなに頑張ったのは人生初だよ!」
「試験は明日からだもんね・・でも大丈夫?試験は英語だけじゃないんだよ?」
「分かってるよ!でも、英語以外も先輩教えてくれるし」
嬉しそうに言う佳弥に拓海は小さく驚いた
「へえ・・そういう所もあるんだね」
拓海は涼平に色々聞いているから、生徒会長である彼が本当の姿では無いと気づいていた。
「うん、やっぱり先輩は凄いよ・・カッコいいし、頭も良いし・・それに」
「ああ、はいはい、先輩情報はいらないです」
言葉を遮るように言うと、机の上の教科書を指で指した。
「それより、ここの問題、間違ってるよ」
「え!?どこ?」
ドキッとして教科書に視線を落とした。
間違っている所を見つけ、ああ・・と唸っている佳弥を見て拓海は苦笑した。
「デート・・楽しみだね」
拓海の言葉に顔を上げると、満面の笑みを浮かべた。
「おう!すっげー楽しみ!」
「まあ・・行ける確率はかなり低いだろうけど」
ニヤッと笑う拓海に「それを言うなよ~」と情けない声を出した。
・
翌日から試験が始まった。
試験は三日間、一日3教科ずつだ。
今まで感じたことのないくらいの緊張とプレッシャーで試験に挑んだ佳弥だったが・・
「俺・・この三日間の記憶がない・・」
最終日を終えた佳弥は魂が抜かれたような腑抜けた顔をしていた。
「俺・・大丈夫かな?一応答えは・・全部書いたとは思うけど・・」
「大丈夫だと思うよ?隣の女子が、スッゴイ勢いで書いててビビったって言ってるの聞いたから」
笑いながら言う拓海に、ああ・・と頭を抱えながら蹲った
「おい!佳弥!?」
「不安だー・・70点取れてっかな・・すっげー不安だよー」
泣きそうな声で言う佳弥に、また小さく笑った。
「結果はどうでもさ・・でも、やるだけの事はやっただろ?」
隣りにしゃがみ背中を撫でながら言った。
「そこは・・大丈夫!70点取れてる!って言う所じゃないか?」
泣きそうな顔で言う佳弥に、目を細めるた。
「だって、そこは嘘つけないだろ」
「うう・・・・」
(そうだけど・・)
でも・・英語は結構自信あるんだ。
先輩が教えてくれたのもあるけど、一番頑張ったから・・
「だから・・大丈夫だと思う・・」
「うん、信じる事も大事だよ」
「ちょっと~!マジで無理だと思ってるだろ!」
もう!立ち上がった時、教室の空気がザワッと動いた
何だ?と教室を見回すと教室の入り口から中を覗き込む人を見つけた。
「あれ?・・拓海・・涼平先輩が来てるよ」
よく見ると、それは涼平だった。
「涼平?」
拓海が顔を上げると
「あ!いたいた!拓海!」
拓海を見つけた涼平が嬉しそうに笑みを浮かべながら手を振る。
「はあ・・用があるならラインくれれば良いのに・・」
溜息をつきながら、涼平の方へ向かう拓海を目で追いながら
(あ・・俺も先輩にメッセージ送ろうかな・・)
そう思いながらスマホを取り出した。
試験中は、先輩も集中したいだろうからと連絡はしなかった。
試験結果はまだ出ていないが、一言お礼を言いたい。
涼平が教室に来たと言う事は港希も生徒会室にいるかもしれない。
「今から、生徒会室に行っても良いですか・・と」
試験が終わったからバスケ部も今日から始まる。
部活に行く前にお礼を言いに行こうと思った。