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星に願いを  作者: 広大
9/9

憎悪

「ジュネアまだ歩けるか?」

 背の高い聡明そうな若い男が緋色の瞳を後ろに向けて声を掛ける。


「まだまだ大丈夫よアウグスト、私のせいで後継者から外されてしまったのだから頑張らないとね、あなたが義父様おとうさまからいただいた土地は開墾すらままならないと言われた土地なのでしょう。」

 艶やかな黒髪を一纏めにしてその髪を左手で後ろに送り息を弾ませながら応える容姿が異国風の若い女性。


「少し先に水の流れる音が聞こえるから小川だろう丸太の橋が架かっていれば父が言っていた小川だと思う・・・かなり歩いたし少し早いけどお昼にしようか?」


 二人は会話を楽しみながら森の中の小道を歩く、多少開けた場所に入った時小川に掛かった立派な橋が見えて来た『あれ?丸太じゃない?橋が新しい・・・道を間違えたか?』そう若い男が思っていると橋の先から声が聞こえて来た。

「若様!若様!」


 荷馬車が通れるのではないかと思える程丈夫そうな橋と突然現れた父の元執事に驚きながら声をあげる。

「ドレッセン何故ここに?ずいぶん前に歳を理由に引退したはずだろう・・・どういう事だ?」


「ここを奥様から任されておりました。」

 老執事が二人に笑みを向けながら応えてから頭を下げた。


「そうか母は最初からこうなると知っていたんだな・・・。」

 母親の思いに感涙しそうになり天を仰ぐアウグスト、それを見て微笑むジュネアは彼が落ち着くのを待った。


「若様、ここでは落ち着きませんでしょう?馬車で若様の屋敷に向かいましょう。」

 そう言われて馬車に乗り込み暫くしてドレッセンに言われて疑問に思った事を『そういえば屋敷とは?』と聞いてみた。


「若様が跡目から外されこの地に飛ばされる事は奥様が予見しておりましたので先発隊の発足とその指示と当座のお金を私に預けてこうおっしゃいました『アウグストを頼みます。』と、私の終世の御勤めとして若様の生活の場を整えさせていただいており、まだまだ時間が掛かりそうですが若様を慕って付いて来た者達と一緒に若様のこれからの生活の一助になればと思っております・・・窓から外をご覧ください。」


 何故と思いながら幕を開けると中々立派な畑が造られ作業をしていた者達が馬車に向かって頭を下げていた。


「荒地では無かったのか・・・いや、皆で開墾したという事か・・・皆には苦労を掛けるな。」


「いえいえ皆若様の元で働ける事を喜んでおりますよ、それから若様が歩いてきた小道は若様の叔父のゲスケン殿を誤魔化す為整備せずそのままにしております。」


 そんな会話をしているうちに屋敷に着いた、屋敷と言ってもこじんまりとした質素な建物ではあったが若い夫婦は腕を組み微笑みを交わしながら執事が開いた玄関に向かうのだった・・・。



『そうか・・・これがこの世界の俺の両親の若い頃の思い出か・・・。』

 流れ込んでくる両親の記憶・・・そして融合した自分の記憶が蘇る・・・。

 領主の息子とは思えぬ程泥に塗れて働く父の姿。

 自分の誕生を盛大に祝う領民達・・・そして自分を抱えて誇らしげに笑みを浮かべる父。

 その後も父には学問と剣術を学び母には魔術を学んでいる自分が居た・・・。

 何時も口煩い母と甘やかす父の姿。


「何と幸せな日々だったのだろう。」

 涙と共に零れ落ちた言葉は過去のもの・・・。


 自分が十六歳の誕生日に成人の祝いとして領民が屋敷の前に集まっている光景が見えた時、周囲から雨のように降り注ぐ矢で皆が逃げ惑う光景に変わった・・・。


 野盗のふりはしているがどう見ても軍隊のような動きをする者達・・・そして屋敷は囲まれ両親や屋敷で働く皆が捕らえれた時『叔父上、まさかここまでするとは・・・。』父の言葉が耳に残ったのだった。


「ああ・・・この感情は何だ。」

 心臓が早鐘のように打ち付ける、怒りとは違う・・・。

「そうか、これが本物の憎悪か・・・。」


 そう口から出た時嫁さんが心配そうに声を掛ける。

「婿殿・・・全て思い出したか・・・それに義父様おとうさま義母様おかあさまの記憶も・・・。」


 憎悪の炎で揺らめく顔を見せたくないと思い嫁さんに背を向けて静かに話す。

「ああ思い出したよ、そして心に刻まれた父と母の思いも理解した・・・が、感情の制御が出来なくなりそうだ。」

「今は我慢してくれ婿殿・・・。」

 嫁さんに後ろから抱きしめられて少しだけ落ち着く事が出来暫しの沈黙・・・そして。


「ふぅ・・・もう大丈夫だ、それに熱血ってのは俺のキャラじゃ無いしな。」

 ぎこちなくも振り返りながら嫁さんに笑みを向け話すと後ろ向きになるな前を向けと語り掛けるような瞳を向けながら「ならばこれからの事を考えねばの。」と嫁さんが応えたので。


「これから奴隷商あいつらの元に戻るんだが・・・俺はとっとと自由になりたいしなぁ・・・チョッと嫁さんに頼みがあるんだが・・・あいつらの前に降臨して俺を助けてくれないかな?」

 そう頼んでみたら・・・。


「・・・ハ?降臨???」

 驚く嫁さんにたたみかける。

「だって超美人の上に黒翼で超恰好良いし!その姿で後光を背負って降臨なんかされたらもぅね!全人類が平伏すんじゃないかって位じゃね?」

 褒め捲くると。


「そ・そうかの・そうじゃろうかの・・・。」


 恥ずかしそうにクネクネしだしたが満更でもないようだし。

「それで俺を助け出して有無を言わさず奴らを平伏させるってのが一番いいと思う。」

 そう言って強引に嫁さんを説得した。


「良し、戻ってあいつ等を目覚めさせよう、飛ぶよ。」

 一瞬で荷馬車に積まれた檻の中に戻りその上空で嫁さんに待機してもらう。


「おっと一応テイク2って事で最初の全ての記憶を消しとくか・・・。」

 そう口に出しながら最初の分の記憶を消して変なオバサンと引き連れてた奴等共々少し離れた場所に転移させてから軽い電気ショックで目覚めさせるように準備する。


『じゃあこいつら目覚めさせるから合図するまで待ってて。』

『わ、わかった。』

 念話の返事を確認してから電気ショックを軽く放つと・・・。


「ぐ・・・クソ!頭が痛い!」

「何が起きた!お前いったい何をした!ここは何処だ!!転移の術か!!!」

「魔術の能力が弱いはずのお前が!!!おかしいだろう!!!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


(あるぇ~記憶を消せてない?!)

 術が成功しなかった事に悩んでいると・・・奥さんの間抜けな声が響いた。


『あ!忘れておった!』


『何をだ?!?!』

 思わず突っ込みを入れてしまったのだった。

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