嫁さんが出来た
「俺は夢を見ているのか・・・俺に話しかけるこの声は何だ・・・この状況の俺に対して死後の魂を対価とした『願い』とは・・・そんな事を聞かれて出て来る願いなど我を陥れた奴等への恨みと妻と息子を殺された恨みそれ以外無いではないか・・・我はこのままもうすぐ死ぬであろうし、毒入りの食事で徐々に弱らせるなどと卑怯な奴等に反吐が出る、最後に願うなら奴らに復讐を・・・。」
そう語った男の心臓に何かの紋章が刻まれ男は胸を押さえて苦しみだし少しして落ち着いたようだった、その後男の胸の辺りが光出し光が消えた瞬間漆黒の何かが胸から飛び去ったように見えたのだった。
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「次はどんな世界が良いかなぁ、巨大怪獣が戦ってるような星とか良いかもな。」
「イヤイヤイヤ、あなたが頼むからもう十回も転生させたのでしょう、こちらの頼みを聞いて頂く為にあなたの我儘は全て叶えましたし、今まで覚えたモノは全て継承してきてるんですからねもぅ神様もビックリですよ、いい加減こちらの頼みを聞いて頂きます。」
「仕方ないなぁ分かったよ。」
「おおっ!了解して頂けましたね!では担当が代わりますので後は後任の者と交渉してください。」
これまでずっと自分の担当だった体形がスレンダー過ぎて残念な天使が頭の輪を初めて輝かせながら嬉しそうに消え去った、それから自分もどこかへ飛ばされた感じがして目の前にこれまた今まで見た事も無いような美しくてナイスバディなさっきまでの残念天使とは全く違う天使が居た、天使は彼にこちらの願いを聞いて貰う事と引き換えに彼の願いを叶えられる願いなら叶えるつもりで契約の準備も万全にして待っていた。
俺は彼女を見た瞬間『ジゴロ』が発動、スキルのせいで体が勝手に動いてしまい、片膝を突き彼女の右手の甲に口付けをして語り出した。
「おお私は今、美の化身ともいわしめる絶世の美女を前に自身の今迄が報われた思いが胸に込み上げ一杯に広がって居ります、あなた様の心を我が物とする為、そしていずれは我妻としてお迎えする為あなた様の騎士となって側に置かれる事を願おう。」
そう言って彼女の側に歩み寄り片腕を彼女の腰にまわして彼女を傾けようとした瞬間、眩い光が二人を包み天啓が降りたような声が響く。
「そなた等の願いは聞き届けた、共に契約を違わず精進いたせ。」
声の響きが消えた時天使を抱える姿勢のまま固まっていて。
「天啓は降りた、おっ、お前は我の夫となったのでこれからは婿殿と呼ばせて貰う。」
顔を真っ赤にしながら更に続ける。
「もう契約は成ったようだが一応説明しよう、私は死を司る天使で『死天使』と天界では呼ばれている、我は死天使なのだから業と愛が深い事を念頭に置いておけ、お前には地上に転生して新たなスキルを使い人々の願いを叶えて貰う、まぁお前の願いと私の思いが二人を縛っているようなので私も共に地上に降りなければいけないようだし、宜しく頼むぞ、あぁお前の意識が目覚めるのは成人になってからだ、用意した器はそれまでは真っ新から育った状態だしお前は豪運の持ち主だが私は絶運だ・・・まぁ生きては居るだろうしな、それから私の名はメメントだ婿殿では転生を・・・。」
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「フッフッフッフッ!オーホッホッホッホッ!やっと私の望みが叶った!あの男の息子を我が物としたのだ、昔誰もが羨むような美貌を持つ私を歯牙にもかけなかった男、下らない村娘と結婚し剰え子など作りおって!いつか報いをと思って居たがあの男の息子を奴隷として手に入れられるとは、それにあの男より数段上の色男とはなぁ・・・ああ早く我が元へ来ぬかのぅ名は『コウダイ』とか言ったか、ああ明日が待ち遠しい、今夜は眠れんな。」
煌びやかなドレスを纏った四十後半を過ぎたような女が、狂気を孕んだ笑みを姿見の前で晒しながら大声で語り、ワインを喉に流し込みなおも同じような言葉を連ね続けたのだった。
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「オーィメメント?さん?聞こえてるよね?この状況って分かる?何か手足縛られて檻に入れられ馬車に引っ張られてるような・・・。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
「おや、返事が無い・・・ならば全部壊して終了で良いのかな?俺は即自由。」
小声で言い終わってから俺は体中の気を練り始めた途端頭に声が響いた。
『マテマテマテ!物事には『理』がある、婿殿が持てる力を全て使えばこの世界の絶対者になる事も簡単だろう、それでは困るのだまずは様子を見て現状を把握して貰わねばな。』
ま、そうだろうなと思いながら何気に腹が減って居る事に気付くと、急に空腹感が半端無いほど襲ってきたので、周囲を探ると街道らしき所を走っているようで丁度右側に林が有りその中に牛らしき動物を察知、術を放つ『部分転移』である美味そうな部位だけ指定して自分の所に転移させたのだ、その後空間固定で牛の部位を空中で固定、下から炎の魔法で炙リ始めると。
『コラコラ婿殿!何をしておる。』
「ん?ああ腹が減っててね向こうの林に美味そうな牛が一頭居たからチョイと魔法でね、匂いとかは周囲の奴等には気付かせないようにしてるから大丈夫じゃないか。」
『そんな馬鹿な、この周囲に牛など居るはずが・・・かなり遠いが確かに一部切り取られた死体が見えたが、婿殿よアレは牛ではなくミノタウロスだ。』
「どうだって良いよ、食えりゃ・・・ってかまさかあいつらまで殺すなとか食うなとか言われないよね?」
『心配ない、低俗な魂は私の管轄外よ。』
その後十分も掛からず調理を終え空中に浮いた肉にかぶりついて居ると嫁さんが聞いてきた。
『あまり火を通して居ないようだし一つ疑問なのだけど、人間は生物をあまり食しないと聞いたが婿殿は生でも食えるのか?』
「俺も普通の人間だから火は通してるぞ、空間魔法で空中に固定する時序に結界状態にして火で炙るんだが、熱だけ通すようにしているので肉は蒸し焼きになるし匂いも出ないし圧力も上がって時間を掛けずに調理出来るんだ。」
『何とも・・・腹が減ったで超絶魔法やらこの国では遺失とされる術までポンポンと・・・無駄に凄いのぅ婿殿は。』
嫁さんのあきれ声が脳内に響くが、飯も食い終わりする事が無いので寝る事にした、体に対するアクティブスキル『超回復』を切らないまま・・・。
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「おい起きろ、お前を買ったお偉いさんがもうじきここに来る、起きてこっちに来て移動の準備をしろ・・・ってあれ?お前そんな体格だったか?五日も水だけで今にも死にそうに弱って居たはず、ってか口の周りが光ってるのは油か?一体どういう事だ?」
ヤッベ、昨夜肉の塊に齧り付いて一気に食った後、手足を縛られてたから汚れた口を拭き取らずに寝たので肉の油でテカテカ状態、これはマズイと思ったが。
「ああ、こいつの前に運んだ奴隷に飯を出した時に零れた汁が床に残ってたんだろう、卑しい奴だ。」
何故か切り抜けられた、面白過ぎるぞこの奴隷商とその取り巻きなどと思いながら暫く立たされたまま時が過ぎ、昼に差し掛かろうかという時間に派手な扇子で厚化粧顔の口元を隠し派手なドレスを着た女が現れ話し出した。
「フフッ、あの男の息子か確認に来たが確かに目元が似ているわ、あの男より数段良い男だとはねアハハッさあ奴隷商よ、こちらの要望通り水以外与えては居ないのだろう、かなり弱って居るであろうそこの男と私に奴隷の契約を施して報酬を受け取り去るが良い、そしてこの契約の事は忘れる事が身のためですよ御分かりですね。」
どうやら俺は目の前の女に奴隷として買われたようだったのでチョッと嫁さんに念話で聞いてみた。
『俺このまま黙ってれば良いのか?』
ウワッ!・・・素っ頓狂な声が俺の頭に響き『念話も使えるとかどんだけなんだ』とかブツクサ聞こえてから。
『こいつらには願いを聞くべき魂は無いし、寿命も決められてはいないしな好きにすれば良かろう。』
嫁さんからの『好きなだけ遊んで良いよ。』との御言葉に嬉しさ全開で口を開く。
「オイオイ話が違うじゃねぇか!この婆から金をせしめたら即トンズラかますって話だったよな、俺も逃げれるように昨夜飯を足ら腹食って体力温存してたんだからな、俺だけ置いて逃げるなよ。」
面白そうな事を言ってみたら場が凍ったが我関せずとニヤニヤしながら動きを待つと。
「聞き捨てならぬ!全員捕らえよ!」
「お待ちくださいジェイン様!奴隷が助かりたいが為に嘘をついて居るだけです!」
「そんなぁ親分!見捨てるんですかい!せっかく顔まで似せたってのに!」
面白そうだから下っ端風に被せて言ってみる、何気にニセモノ臭を漂わせながら、そんなアゲアゲ状態の俺を突き落とす一言。
「そいつら嘘言ってませんよ真実の宝珠が光ってます、嘘言ってるのは奴隷君だけのようです。」
チッ、魔術師も居たのかよしかも御大層な宝珠持ちとはな、気分はダダ下がりで一気に詰まらなくなったのでゴロンと腕枕で横になりながら念話を飛ばす。
『なぁこいつら片付けて良いのか?面倒になって来た。』
『コラコラコラ、殺しはマズいぞ婿殿。』
『だって皆殺しにすりゃ誰も知らないって事で万事丸く収まるし。』
『婿殿には英雄になって頂かなくてはならない、英雄が普段から殺人鬼もビックリな程軽く首チョンパされちゃ困るのよ、って事でハウスよ。』
などと念話してると、いつの間に話し合ったのか知らんが、偉そうな女に言われて奴隷契約の紋を俺に施そうと近付くと一瞬光って飛ばされ全員がギョッとして動かない、コリャどうしたもんかと念話する。
『あ、やべぇアクティブスキル切ってなかった、なぁこれ切っといた方が良いのか?』
『どうせ奴隷紋などすぐに消せるのであろう、ならば状況把握に努めたい泳がせてはくれぬか。』
へいへいと念話で返しふて寝続行アクティブスキルは全て切った。
「ええぃ!何事じゃ!早く奴隷契約を結ばぬか!」
奴隷商が大慌てで俺の首の後ろに手を翳して呪文を唱える、どうやら奴隷紋を刻まれたようだ、その後女が近付いて来て紋章の上に自分の血を塗った唇で口付けしようとして吹っ飛んだのを見て。
『オイオイ状況把握に努めるんじゃ・・・』
『・・・ざけんなふざけんなふざけんな・・・』
あ、マジやべぇぞこれ、俺の嫁さん本気の『ヤンデレ』か?などと冷や汗をかいて考えて居ると、昼間なのに周囲が真っ暗になり、眼が慣れていくらか見えるようになった頃俺の背後から刃先がゆっくり現れた、刃渡り一メートル以上ありそうな鎌、それを握る手も徐々に現れ出すと女の声が上がる。
「何じゃ御主は!何者じゃ!」
黒いローブを纏った鎌を持つ存在が、音も無く女の首を落としに掛かるのに気付いた俺はそれを止めながらジゴロ発動。
「そこまでだメメント、済まないが実体化を解いてくれ、俺は愛する妻には何時も笑顔で居て欲しいんでね。」
それを聞いた嫁さんが恥かしそうにモジモジしながら消えて行き、俺は体中の水分全てが冷や汗で流れたのではないかと思いながらも余裕の顔で動きを待つ、それに合わせて周囲に明るさが戻り女が喋り出す。
「今何と言った、妻とは何だ・・・お前は成人したばかりで恋人も、ましてや許婚もおらんはず!答えろ!」
あれ?念話だと思ってたら声に出てたか、どうりで嫁さんが恥ずかしそうにしてた訳だ、それにしても万事休すとはこの事かなどと思って居ると。
「おのれおのれおのれ!親子揃って我を愚弄するのもいい加減にしろっ、そなたの父親は我を歯牙にも掛けず下賤な女と結婚した、だからこそ息子のお前を奴隷にする事でこの恨みを相殺するつもりだったが、お前まで下賤な女と結ばれておると言うのか、先程我に殺気を放って近付いた者がおったようだがアレがおのれの妻と言う事か、どんな術で隠れて居るのかは知らぬが姿を見せろ。」
「あーゴホン、自己陶酔ぎみに興奮してる所水差して悪いんだが、うちの嫁さんを見るのはお勧めしないよ、あんたはスッゴイ化粧で頑張ってるし、それで呼吸できんの?ってくらいコルセットで頑張ってるんだろう?俺の妻は絶世の美女だぞ、天使降臨か?と思う程の美女だ[本物だけどな]、スタイルもゆったりしたワンピースに腰紐一つだが、あんたの涙が出る程の頑張りコルセットより細いし、上はあんたの二十倍ダイナマイトだぞ、息の根を止められたく無かったら『姿を見せろ』何て呪いの言葉は引っ込めておいた方が良いと思うがなぁ。」
「何を戯けた事を、早う姿を見せよ!」
女を止めようとしたのに何故か逆上しだしコリャしょうがないなと思いながら念話を飛ばす。
『あのオバサン引っ込みつかなくなったようだし、実体化してくんない。』
『コラコラ婿殿、まだ説明して無かったが私はこちらでの姿は天界とは違うんだが。』
『良いから良いから、少しぐらい違っても良いって大丈夫大丈夫。』
『ハァ・・・婿殿のその腑抜けた笑顔には何とも・・・我は知らんぞ責任は婿殿がとってくれるのであろうな・・・』
念話が切れると辺りがまたもや夕闇のように暗くなり底冷えするような冷気が漂いだしてからゆっくりと大鎌が出、れそれに引き続き全容がゆっくりと現れた、右手に大鎌を持ち右手首に冥界への道を照らすランプをぶら下げ、首には十六個の髑髏のネックレスを掛け黒いローブを身に纏い全身を淡い青紫色に光らせながら髑髏の顔で語り出す。
「オッ・オホン、我がコウダイの美人妻じゃ。」
『時が凍った』・・・なんて言ってる場合じゃねぇぞこれ、どうすんだよと俺の隣でモジモジクネクネしてるどう見ても死神に見える嫁さんに念話を飛ばす。
『あのぉメメントさん、何故天使ではなく死神スタイル?』
『だから言ったであろうこちらでの姿は違うと。』
『だからって死神はやりすぎでしょ。』
『あれ、婿殿は知らなんだか?天界での死天使とは生命界では死神の事、人間共が死神と呼ぶこの姿が正装なのだ。』
『こりゃ詳しい話は後だな、どうするよこれ、俺達の近くに居た奴等は泡吹いて白目剥いてるしよぉ。』
『ウーム・・・なぁ婿殿よ記憶の改竄は出来るのか?出来るのであれば我の事だけ消せないかのぅ。』
『どうなるか分からんがメメントの記憶だけ全て消して動向を見るか・・・ヨッとほんじゃテイク2で。』
嫁さんが姿を消したのを確認して関わった奴等全員の死神の記憶を消して放置して、俺も二度寝しようかと思って居ると嫁さんから恐ろしい事をサラッと念話で聞いた。
『なぁ婿殿、この世界での婿殿の父親が死にそうで、何か願いを訴えておるようじゃ。』