ごめんねという春
森に春がやって来ました。
激しく雪の降り積もる厳しい冬が終わり、柔らかい日差しがゆっくりと雪を溶かしはじめました。
そしてその頃には森のどうぶつたちは少しずつ目を覚ましはじめます。
暖かな太陽の光が雪を溶かし、跳ね返る光が空に逆さまの虹を描き出します。
永い眠りから目覚めたリスさんは、冷たい雪をかき分けて地上に顔を出しました。
「リスさんは寝坊助だね。もう、虹がでてるよ」
キツネさんの声に空を見上げると、逆さまの虹がくっきりと、浮かんでいました。
「コマドリさん、来てくれるかな?」
リスさんは鼻の上に雪を乗せたまま、虹を見上げてつぶやきました。
「きっと、来てくれるよ」
キツネさんが言葉を返します。
春の訪れと共に森が色付きはじめました。
真っ白だった冬の森に、緑が顔を出して、雪の白が徐々に小さくなっていくのです。それとともに空にかかる逆さまの虹は薄れていきました。
コマドリさんはまだ現れません。
「やっぱりボクらのことをキライになっちゃったのかな?」
リスさんはしょんぼりとうつむくと、鼻の上に乗っていた雪がぱさりと落ちました。
「そんなことないよ。あんなにいっぱい池にお願いしたんだから、きっと今年も来てくれるよ」
キツネさんの優しい声もリスさんにはとどきません。
「ドングリの池」は悪いことした子の願いは叶えてくれないのかな?
雪解けの季節にだけ空にかかる虹も、もう消えかかっています。
虹が消えてしまえばコマドリさんは森の位置が分からなくなってしまいます。
やはり今年はコマドリさんは来ないのかな?
そう思い始めたその時にアライグマさんの声が響きます。
「見ろよ、あれ。コマドリさんじゃないか?」
その声にリスさんは顔を上げて、南の空を見ます。
そこには一羽の鳥の姿がありました。
コマドリさんです。
今年もやはりコマドリさんかやって来ました。
「遅くなって、ごめんね」
森についたコマドリさんは、集まってきた森のどうぶつたちに謝ります。
謝るのはボクの方だ。
リスさんはコマドリさんの前まで駆けよります。
「ごめんなさい。去年、虹色のタネを隠したのはボクなんだ」
リスさんは大切にしまっていた虹色のタネを差し出して謝ります。
怒られる覚悟はできています。嫌われる覚悟もできています。
でもそれがこわくて、リスさんは瞼をぎゅっと閉じます。
「そうかい。よく素直にあやまってくれたね。ボクは全然気にしてないよ」
しかしそんなリスさんに、コマドリさんは優しく声を返してくれました。
「ゆるしてくれるの?」
「もちろんだよ」
「今年もまた歌ってくれる?」
「ああ、今年もいっぱい歌ってあげるよ」
リスさんは嬉しくて飛び跳ねて喜びました。
「それに今年はボクからみんなにプレゼントがあるんだ」
森のどうぶつを見渡して、コマドリさんが言いました。