願いをかける冬
リスさんは秋のあいだに、いっぱいいっぱいドングリを拾いました。
森の奥に「ドングリの池」といわれる場所があります。
そこにはひとつの言い伝えがあるのです。
願い事を言いながらドングリを投げ込むと願い事が叶うらしいのです。
「もういちどコマドリさんの歌が聴きたい」
リスさんはいっぱい集めたドングリに願いを込めて毎日毎日その池にドングリを投げ込みつづけました。
森の木々は葉を落とし、冷たい北風が吹き始めてもリスさんはドングリを投げ込みつづけ、ついに秋に集めたドングリが全て無くなってしまいました。
それでもリスさんの不安は消えません。
空から白い雪が降ってきました。
この森の冬は長く、一度雪が降り始めると森を真っ白で埋め尽くすまで降り続けるのです。
リスさんはとぼとぼと家に帰ります。
空から落ちてくる白の数が増え、目の前が白で塗りつぶされるくらいの雪が辺りを包みます。
「お腹が減ったな……」
そう呟いて、リスさんは倒れてしまいます。
家は目の前なのですが、リスさんはもう力が残ってません。
拾ったドングリは全て池に投げてしまったので、あと少し頑張って家に着いても、もう食べ物は残っていません。
さいごにコマドリさんの歌が聴きたかったな
そう想って、リスさんは瞼を閉じました。
☆☆☆
しばらくして、リスさんは多くの声の中で目を覚まします。
雪の中で目を閉じたのに全身が暖かいのです。
ポカポカする感覚の中で、リスさんはゆっくりと瞼を開きます。
そこは見たことがある景色。自分の家の中でした。
夢でも見ていたのかな、とリスさんは葉っぱの布団をどかして起き上がります。
「なんだよ、起きたのか。まったく心配させやがって」
いつも意地悪ばかりのアライグマさんの声がします。
「冬眠の準備もせずに、出掛けてばかりいて心配しましたよ」
優しいキツネさんの声。
「なんでみんなボクは家にいるの?」
リスさんは疑問の声をあげます。
小さいリスさんの家に、森の仲間たちが集まっているのです。リスさんは状況が分かりません。
「心配したのですよ?」
キツネさんの声
「必死にドングリを集めてたのに家に食べののが全くないのだもの」
控えめなクマさんの声
「雪が降り始めても、なんの準備もしてない様子を見てみんな心配してたんだぜ」
アライグマさんも声をかけてきます。
「家の前に倒れていたのを、私たちが運んできたのですよ」
キツネさんが料理されたドングリの入った皿を差し出してきます。
暖かいその食材の香りに、リスさんは我を忘れて食事をとりました。
お腹いっぱいご飯を食べて、リスさんは仲間に問いかけます。
「どうしてボクを助けてくれたの?」
お腹いっぱいになって、リスさんはやっと今の状況が理解できました。
家の前で倒れた自分を、森の仲間たちが助けてくれたのです。
家に食べ物もなかったはずなので、今食べた料理はこの季節にたいせつな自分の分の食べ物だったはずです。
「何を言ってるんだ。仲間だから当たり前だろ?」
照れ臭そうなアライグマさん。
「バカなこと言ってないで、おかわりは大丈夫?」
キツネさんはいつも通りの笑顔で。
「ボクはコマドリさんにひどいことをしてしまった。みんなはボクのこと、キライになったはずでしょ?」
涙を浮かべながらリスさんが言います。
「なにをいってるんだ。ボクたちがキミを嫌いになるわけがないだろ?」
仲間たちの言葉が嬉しくて、リスさんの目から涙が一粒こぼれ落ちました。
「だってアライグマさんがボクを悪い子だって、ボクのせいで来年コマドリさんは来ないかもしれないって……」
消え入りそうな声でつぶやきます。
「それはアライグマくんに叱られただけだよ。ともだちが悪いことをしたら叱るのは当たり前だろ。それでキライになられたと思ったのかい?」
うつむくリスさんに、キツネさんが声をかけてくる。
嫌われたと思っていたリスさんは、素直に数回頷いてみせました。
「バカだな。そんないっかいの失敗でキミをキライになる仲間がいるわけないだろ?」
ポンポンと肩を叩かれ、リスさんは涙をながしながら何度も頷くしかできませんでした。
「ほら食べろよ。今年の冬は寒くなるみたいだからな。食べきれないくらい食べなきゃ乗り越えられないぞ」
アライグマさんの力強い手が、ドングリの入った皿をリスさんに握らせます。
「ボクたちはリスさんがいっぱい願いを込めて池にドングリを投げていたのを見ていたからね。ちゃんと食べて、ゆっくり寝たら、春には願いは叶ってるはずだよ」
ひっこみじあんなクマさんも声をかけてくれました。
リスさんはみんなからもらった食べ物をいっぱい食べて、長い冬を越えるために眠りにつきました。
次の春に「コマドリさんがまた来てくれて、歌ってくれますように」という願いを込めて……
さて、その願いは叶うのでしょうか?
深々と降り積もる雪は、願いを込めたどうぶつ達のいる森を真っ白に覆い尽くすのでした。