68話 ギルド、大パニック
ヒューゴーの復活に従魔のヘル・ハウンドが狂喜乱舞して大変だったが、何とか無事ギルドに向けて出発した。長いこと小屋に籠りきりの主人が普通に歩いて小屋から出て来たらそら喜ぶわ。
俺は絶対そうならないようにしないと…。でないとザーフィァが何しでかすか分からねぇ……。想像出来ないのがまた恐ろしい…。
「好かれてるなぁ…」
「いや、恥ずかしいところを見られたな…。だがお前さんも従魔によく懐かれているじゃないか。主従関係が良好な証拠だ」
「主従なぁ…」
フードの中からひょっこり顔を出すアリヴィンに対して、俺は勿論"主従"なんて堅苦しく面倒な気持ちを抱いていない。あるのは、ガーティを初めて拾って育てた時と同じ気持ち。
「俺は、従魔に主従関係なんか求めてねぇよ」
「そうなのか?」
「ただ、俺の傍に居てくれればそれで良い」
フードから出して腕の中に閉じ込めれば、アリヴィンが顔を伸ばして俺に甘える。それだけで俺は満たされる。
ヒューゴーも俺とアリヴィンの様子で納得したのか、それ以上は何も言わなかった。
そのまま真っ直ぐギルドに向かった俺達だが、ギルドの入り口が騒がしいのに気付き、途中の路地に隠れて様子を伺った。どうやら街の人間がギルドに押しかけているようだ。
何かあったのか?
「何の騒ぎだ?」
「分からねぇが、今あそこから入るのは無理だな。裏口から入るぞ」
ヒューゴーに案内してもらい、俺達はギルドの裏口まで回って中に入った。保管庫にディエゴが居ると思ったが誰も居らず、広いテーブルの上には解体が途中になっている何かの肉があった。何の肉かは当てられないのでスルーし、ディエゴが居ないか探す。
だが保管庫の中には誰も居なかった。
「ディエゴが解体の途中で消えるなんて…おかしいよな?」
「え、えぇ…。普段は作業中に持ち場を離れるなんてことはしない筈よ」
ヒューゴーとサラの言葉で何かあったんだと理解した俺達は保管庫から出てギルドの中に入ることにした。
ギルドの中は慌ただしく、表の騒ぎの影響が出ているのは明白だった。そんな中、角からあの野球少年っぽいギルド職員が出てきた。
相手は俺を見て安堵の表情を浮かべたかと思えば、ヒューゴーを見て絶句した。まぁ、怪我で辞めるハメになった筈の冒険者がピンピンしてるから驚くのも無理はない。震える足で数歩前に進んだ男は目尻に涙を浮かべてヒューゴーに縋りついた。
「ヒュ、ヒュ…ヒューゴー、さん?夢?夢ですか?これ…」
「相変わらずだな、コウス」
「うッ…うぅ……!ヒューゴーさああぁぁぁん!!」
「っとと!」
涙腺が決壊したのか号泣してヒューゴーに抱き着いた男、コウスの泣き声に奥からどんどんギルド職員がやって来てはヒューゴーを見て驚き慌てふためく。
忙しい時に更に忙しくなる案件を持ち込んじまったようで、職員はてんやわんやの状態だ。タイミング悪くて申し訳ないが、こちらも忙しい身なんでな。
やれる事はとっととやっちまうに限る。
職員は慌てながらもちゃんとこちらの意図を汲んでヒューゴーの再登録の準備に取り掛かった。あれよあれよという間にギルドマスターの部屋に連れていかれたが、ここで問題が起きた。
ギルドマスター居ねぇんだよ。
「居ねぇぞ、オイ」
「所用で出ているのかもしれないな」
バルトロとそんなことを喋っていると、後ろでヒューゴーとサラが笑っているのが聞こえた。何かおかしなことを言った覚えのない俺達はお互いの顔を見て首を傾げ、何故笑っているのかを視線で問うた。
クスクスと笑っていたサラは小さく咳払いをして胸に手を当て、ニッコリと微笑んだ。
「改めて自己紹介しますね。私はサラ・オーメン。ここ、パイザの冒険者ギルドのギルドマスターを務めております」
「ククッ、そういうことだ」
「………マジか」
「そうだったのか……」
俺もバルトロも驚きを隠せなかった。一見普通の新妻なサラが実はこのギルドのリーダーだったとは夢にも思わねぇだろ。と言うかディエゴの野郎、何も言わずに付き添わせたのか!後で軽く殴っとこうか…。
一先ずマスター不在という問題ではないのが分かり安心した俺達はソファに促されて座る。
そこで職員が持ってきた登録に使う水晶でヒューゴーを再び冒険者に登録した。しかしどういう訳か発行されたカードには"Cランク"と表記されている。
一旦辞めた人間でも前と同じランクから始められるのか?
それについて聞いてみたら驚きの答えが返ってきた。
「あぁ、それはギルドマスターである私の判断でそうしました」
シンプルに職権乱用だった。
胡乱な目で見ているとサラはわざとらしく咳払いをして掻い摘んで説明した。
そもそもヒューゴーの実力はCランク以上に相当するらしいのだが、本人の希望でずっとCランクに留まっていたのだと言う。それなのに今からまたGランクからコツコツ地道に努力されてもギルドマスターとして困るらしい。
依頼片付かないのは確かに困るよな、これから今の所最強のパーティを潰すってんだから。
「てか、何でランク昇格を蹴ってたんだ?」
「Bランク以上の魔獣を俺1人で倒すのは無理があると思い、昇格を断って他の冒険者の育成に取り組んでいたんだ」
「将来パーティを組む可能性のある人の強化を優先していたんですね」
「そういうことだ」
謎が解けて納得していると、部屋の扉を誰かがノックした。サラが許可すると入ってきたのは何とディエゴで、何か言おうと開いた口はヒューゴーを見て固まった。ここまで散々説明不足で困惑させられたんだ、こんなの可愛いサプライズに過ぎねぇだろ。
石になったディエゴが面白かったのかヒューゴーは笑って立ち上がり、ディエゴの肩を組んで鳩尾を数回小突いた。
「おいおい、人を幽霊みたいに見てんじゃねぇよ!」
「ヒュ、ヒューゴー…なのか?」
「何だ、俺が別の誰かに見えるのか?それともさっきまで魔獣の生肉見てたから目が狂っちまったか?」
「ちょっと兄さん、人の亭主に酷い言い方しないでちょうだい」
「本当はお前達の結婚に反対だったんだけどなー…」
「何か言ったかしら?」
「イイエ何モ」
あれ、意外とサラは敵に回すとヤバそうな女だったぞ。気を付けておこう…。
それから正気に戻ったディエゴとヒューゴーの暑苦しい抱擁を遠い目で眺め、2人が満足したところでディエゴに要件を聞く。
「で、お前は一体何しに来たんだ?」
「ヒューゴーが歩いているのを見たってのを確認しに来たのもあるが、俺はお前達にも用があるんだ」
「俺とイサギに、ですか?」
「あぁ、正確にはそこの仮面の兄ちゃんにだ。琥珀の男の奴等をこてんぱんにしたって話が街に広まってな、何があったのか詳しく聞かせろって今ギルドに押し寄せてるんだよ」
表の騒ぎは俺の所為だったのか!?あの時裏口に回って正解だったな…。
「あ゛ー…、俺が出た方が良いのか?正直ご免被りたいんだが」
「あぁ、寧ろ騒ぎがデカくなるから大人しくしてくれると助かる。俺もさっきまで追い帰すのを手伝わされてたからな。そんで、騒ぎが落ち着いてきた時に泣いているコウスを見つけて事情を聞いたからここに来たって訳だ」
「暇なのか、お前」
「ンなワケあるか!!」
ヒューゴーとディエゴの軽口の応酬が繰り広げられる中、俺の頭にザーフィァから"念話"が届いた。
≪イサギ、妙な物を見つけた≫
≪妙な物?どこにあった?≫
≪俺がオークを倒した場所から少し歩いた所で変な匂いがしてな、匂いを辿って歩いたら透明な入れ物が落ちていた。少しだが液体が残ってるから、鑑定したら分かる筈だ≫
≪でかした、ザーフィァ。それを持って街に戻ってくれ≫
≪分かった、すぐに戻る≫
ザーフィァの功労により手掛かりになりそうな物が見つかった。まぁ十中八九琥珀の男が仕掛けた物だろうな。回収される前で良かった。
「サラ、ギルドの裏口から俺の従魔を入れたいんだが」
「えぇ、構いません。何かありましたか?」
「まだ断定出来ねぇが、例のオーク出没についての手掛かりになりそうな物を見つけた」
「ッ!本当ですか!?」
「調べたいから場所の提供を頼みてぇんだが…」
「勿論です!」
オーク出没の件はやはりギルドマスターであるサラの耳にも届いていた。これが人為的に起こされた事件だとしたら、犯人の罪はどれだけ重いんだろうか。
「まぁ、自業自得か」
泣いて逃げたアイツ等の顔を思い出しながら、俺は出されたメツリルのハーブティーの香りを楽しむ。




