64話 琥珀の男
パイザの街のギルドはそこまで大きくはなく、高さは周りにある宿や大きな店と大差ない。それでも入口は普通の扉より広く出来ているから目を引く。
ザーフィァを入口近くに繋いで中に入ったが、アスクマの街のギルドに比べると賑わいに欠けている。酒を飲んでいる冒険者の集団が居るのにだ。
「よ、ようこそ!パイザの冒険者ギルドへ!」
様子がおかしい酒場スペースを見ていると、横から年若い野球少年っぽい男が声を掛けてきた。俺の顔を見る目は心なしか期待の熱を孕んでいる。何でそんな目を向けられるのか理解出来ねぇが、声を掛けられたのは都合が良い。
「コイツの冒険者の登録を頼みたい。あと俺の従魔登録も」
「分かりました!どうぞ、こちらへ」
案内されたカウンターに並んで座り、まずアリヴィンの登録から行う。冒険者登録は時間が掛かるからな。
俺のカードを出してからフードに入っていたアリヴィンをカウンターのテーブルに座らせれば、男は微笑ましそうにアリヴィンを眺める。まぁ気持ちは分からなくもない。今のアリヴィンは舟を漕いでる真っ最中だからな。
「可愛い鳥型の魔獣ですねぇ~。種族名は?」
「ベビーフェニックスだ」
「へぇ~、ベビーフェニックスですか~。…………え?フェニックス?」
「あぁ、さっさと登録してくれ」
「……あ、はい…」
余程衝撃的だったのか、男はマニュアル通りの動きをして俺のカードにアリヴィンの登録を済ませた。漫画なんかでよくある口から精神が抜け出た感じがした。
続いてバルトロの登録だが、これは肩透かしを喰らう程余裕で終わった。
指に傷を作って血を垂らす様子を見つめていた自分が阿呆らしく思える程、何の問題もなく登録は終わってしまった。
因みにバルトロの職業は剣士に即決。武器の調達をしたいと話せば、広場を挟んだギルドの向かいに老舗の武具店があるらしい。初級から中級までの冒険者の武器はそこで買えると聞いたので、バルトロの得物はそこで買うことに決めた。
次に、俺の依頼と途中で討伐した魔獣の買い取りだ。
「ドゥフト草とマンス草ですね、こんなに沢山採取出来たんですか?」
「途中で大量に生えてる場所見つけただけだ」
「そうですか。ではドゥフト草が1束で銅貨7枚、マンス草が1束で銀貨1枚と銅貨4枚になりますので、合計額は銀貨19枚と銅貨9枚になります」
ドゥフト草が11束で銅貨77枚、両替すれば銀貨7枚と銅貨7枚。マンス草は8束だから銀貨8枚と銅貨32枚。これは両替したら銀貨11枚と銅貨2枚……ん?
銀貨1枚多くねぇか?
「おい、銀貨1枚多くねぇか?」
「え、あれ!?す、すいません!すぐに計算し直します!」
「いや、1枚返すからそれでいい。ウォーグの討伐依頼の方も頼みてぇんだが」
「は、はい!すぐに」
「おいおいおい!何チンタラやってんだゴラァ!!」
「ヒッ…!」
目の前の職員の声を掻き消す音量の罵声が何でか俺の後ろから聞こえた。鼓膜破れてたら慰謝料ふんだくってやろうか。
首だけ後ろを向くと、バルトロの更に後ろから重装備した集団がゾロゾロ入ってきた。周りの冒険者達は全員嫌そうな顔と怯えの顔をしている。それにリーダーと思われる男の目に、俺は何となくだが見覚えがあった。
先程の街中で俺達を睨んでいたのはこの男だろう。
こいつ等が噂の"琥珀の男"か。
「おいノロマ!報酬の計算ぐらいちゃっちゃと出来ねぇのかよテメェは!」
「す、すいません…!」
「いつまで経ってもテメェは役立たずだなぁオイ!とっとと辞めちまえよギルド職員なんてよ!他に仕事がねぇなら、俺様の舎弟にならせてやってもイイんだぜ?」
「そいつは名案だなゲロルト!コイツなら討伐の時に囮ぐらいにはなれるんじゃねぇか?」
「バーカ、足手まといだろうが。せいぜいリーダーの使い走り程度だろーよ」
「違ぇねぇ!ギャハハハハハ!」
連中が言いたいことを言って腹を抱えて笑っているが、正直俺にはどうでも良かった。こいつ等と事を荒立てるつもりは今の所ねぇからな。
「で、討伐したウォーグってどうすりゃいいんだ?」
「ぇ、えぇ…?」
無視して話を進めようとしたが、ギルドの空気が勘違いじゃなきゃ冷たく重いモンに変わった。
久々に感じるな、こういう誰かがブチ切れた時の空気。
「…おい、テメェ……俺の前で余裕ぶっこいでんじゃねぇぞ」
「黙れ三下、俺がコイツと話してんだから外野はすっこんでろ」
「ちょッ!?」
「威勢だけは認めてやろうじゃねぇか!この俺の前でそんな口利けるなんてなぁ!!」
振り返って男の正面に立ってみたが、醜男もここまでくると一周回って感嘆ものだな。目は薄く鼻は歪み唇も厚ぼったい。油ギッシュな肌は見てるだけで鳥肌が立つ…。あ゛ー、切実にガーティ撫でて癒されてぇ。
後ろでバルトロも「これは酷い…」とか小声で言ってんの聞こえてるからな。笑わすんじゃねぇよ頼むから。
「俺達がこの街で唯一のDランク冒険者パーティ、"琥珀の男"と知らなかったのが運の尽きだなぁ!」
「ンだよ…Dランクか。そんなに騒ぐ程の強さか?」
「ッ!?テ…ッメェ!誰に向かって言ってんのか分かってんだろうな!?薬草採取しか能のねぇ初級冒険者が、俺様に敵うとでも思ってんのか、ア゛ァ!?」
「蹴りで倒せそうだな」
「ぷっ、ははははははは!!どんだけ自信過剰なんだコイツ!リーダーにその小奇麗な顔をボコボコに殴られたくなけりゃ、今すぐ土下座して謝った方が身の為だぜ?」
リーダーの男の後ろに居たパーティ連中は俺が勝てる筈がないと腹を抱えて笑い転げる。嘲笑を含んだその笑い声に嫌気が差した俺は、バルトロにアリヴィンを任せる。
アリヴィンに怪我させたんじゃ、親失格だ。
軽く肩や首を回して準備運動を始める。
「やっすい喧嘩だが、暇だから相手してやるよ」
「おいおい、本気か?相手の力量を測るのも冒険者に必要な要素なんだぞ~?わかってまちゅか~?」
「あぁ」
ふざけきった顔で挑発してきた短剣が得物の身軽そうな男の顔面を鷲掴み、そのまま限界まで締め上げる。ミシミシ言ってる気がするが、同情の余地はねぇから続行。
「い、いでででででで!痛い痛い痛い!はな、離せテメェ!」
「うるせぇな…強いんだろ?自力で抜けてみろよ、オラ」
「いぎゃあああぁぁぁあああああッ!は、離じて、はなじでぐだざいぃぃ!!あ゛あ゛あ゛ああぁぁ…!」
「喧嘩売ってきたくせに泣いてんじゃねぇよ、うぜぇ」
泣き叫ぶ挑発野郎をそのまま床に思いっきり叩き付けて横に蹴り転がす。テーブルにでもぶつかって止まるだろうから、俺はそのままリーダーの前に立って指を鳴らす。
相手の顔に焦りの色が浮かび始めて実に滑稽だ。
「次は誰だ?あ゛?」
売ったのはテメェ等だ、完売するまで逃がさねぇからな?




